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甲賀ナインがベンチに戻る白烏をめちゃくちゃに叩いた。
「すげえぞ、今の!」
「最初からやってくださいよ!」
「あんな曲がり見たことないわ」
「好きに……なっちゃいそうだった」
急いでレガースを外す滝音が白烏を呼んだ。
「結人!」
「おぉ」
互いに多くを語らず、グータッチを交わす。
「滝音、最終回だ。思い切り振ってこい」
ヘルメットをかぶって準備を済ませた滝音へ副島が大きな声をかけた。
「ふふ、副島。これが最後の打席だと決めつけてるだろ? キャプテンが可能性を信じなくてどうする。理弁は初回に打者一巡してるんだ。俺らもできないことはないぞ」
滝音が副島にそう言って拳を向けた。ベンチから副島が拳を返して応える。副島は滝音が副キャプテンを務めてくれていることに感謝した。もしかしたら、俺なんかよりよっぽどキャプテンなのかもしれない。
最終回、五回表。
打席には甲賀の頭脳、6番キャッチャー滝音鏡水。
滝音がバットを構えた瞬間のことだった。その声は甲賀ベンチに響いた。
「はあ、間に合ったぁ!」
甲賀ベンチに一人の女子が駆け込んできた。皆が驚いて後ろを振り返る。その女子はみんなへ頭を下げ、そのままベンチの最前列でグラウンドに向かって叫んだ。
「滝音くんっ、頑張って!」
自分の前で滝音に声援を送るその女子を見て、桐葉が小さな笑みを浮かべる。
「な、何だ、お前。何しに来た?」
副島が少し怒気を含んだ声で、その女子を威嚇する。真剣勝負の場に入ってこられたのが腹立たしかったようだ。
「ごめん、副島くん。説明は後で。ホームラン、ホームラン、たっきおとー!」
熱心に滝音に声援を送るこの女子の名は
伊香保由依。以前、滝音に告白した女子である。
「ほほっ、副島くん」
お茶を啜る音とともに、橋じいが副島へ話しかけた。
「伊香保くんからマネエイジャアになりたいとの依頼を受けましてな。ほほっ、君の負担が減るならば結構であると、私が認めたんですじゃ」
確かにマネージャーがいると、相当負担は減る。副島の知る限り伊香保は真面目な生徒だ。思いがけない良い人選だ。ただ、こんなにはしゃぐ伊香保を見たことがなく、副島は少し戸惑った。




