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 4回裏、前の2イニング好投の藤田がマウンドに上がる。


 滝音が自信を持ってストレートのサインを出すが、藤田は初めてサインに首を振った。


 ……俺のリードが不用意ってことか? じゃあ、慎重に……。


 外へのスライダーのサインに小さく藤田が頷く。投じた球は外れてボール。滝音が返したボールを汗を拭いながら藤田が受けとる。


 ……どうした、藤田? 疲れてるのか? まだ実質3イニングだぞ。いくらスタミナ無くても、さすがにまだだろう。滝音は苦笑いを浮かべる藤田に心で問いかけた。


 結局、ストレートを投げずに変化球に徹して投げた藤田は先頭打者を歩かせてしまう。さすがに滝音が心配してマウンドへ向かう。


「どうした? ストレート投げにくいか? 疲れ出てるのか?」


「大丈夫です。すみません」


 藤田は息を切らしながら応えた。


「謝って欲しいわけじゃない。俺はキャッチャーだ。お前のことをもっと知りたいんだ。正直に全部言ってくれ」


 滝音がグローブを藤田の帽子に乗っける。


「……僕、いつもこうなんです。大事な試合ほど体力を消耗してしまう。……たぶん、今の僕のストレートなら打たれてしまう」


 滝音は藤田の握り締める拳を見つめていた。こういう時だからこそ、キャッチャーという存在があるのではないか。


「藤田……東雲が心配そうに見てるぞ」


「えっ?」


「男、見せようぜ。勝つぞ! どうしてもダメなら、その時は心配するな。今センターにいるやつ。あいつはこんなんで終わる男じゃない。俺が一番知ってる。やから、ダメならその時はバトンを渡せばいい」


 藤田は照れたようにコクリと首を縦に振った。


「よしっ、とりあえず1人1人いくぞ!」


 滝音がホームベースへ駆けていく。藤田は野球経験の浅いこの先輩を心から正捕手だと認めた。


 打順は一番。


 再び、藤田のストレートが唸りをあげる。テンポ良く、ストレートとスライダー、チェンジアップを駆使して追い込む。滝音がうんうんと大きく頷きながらボールを返す。それでも、ここから理弁和歌山の一番打者も意地を見せる。際どいボールは見送り、フルカウントから、5球ファールで粘っていく。


 遂に藤田の顎が上がった。肩が大きく揺れている。


「ほら、あいつ。もう限界だ」


 理弁和歌山のベンチからそんな声が漏れた。滝音はその小さな声を拾っていた。その声を聞いて、滝音は迷わずサインを出した。


 ど真ん中にストレート。


 な? お前と副島の野球への情熱は、こんなもんじゃねえよな?


 滝音からのそのメッセージに、藤田が笑って頷いた。


 藤田が全身で綺麗な弧を描く。今日の試合で一番美しいフォームから放たれたストレートはしなやかに伸び、ど真ん中のはずのボールの下をバットが空を切った。


 ストライイィィク! アウッ!


 後ろから、今のフォームを白烏はしかと頭に焼き付けていた。

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