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1回から好投を続ける理弁和歌山のピッチャー。名を石田淳一という。
二年生の石田は中学から黙々と野球に打ち込んできた。周りが彼女を作ろうと、自分と違ってチャラい兄が毎日家に彼女を連れてこようと、目もくれず野球に集中してきた。今では145キロの速球にスライダー、フォーク、シンカーまで操る理弁和歌山の次期エース候補だ。
石田は常に思っていた。ここで甲子園の土を踏んで、ヒーローになって、いつの日かかわいい彼女を作るんだ。
その石田の様子がおかしい。バッテリーを組む同じ二年生の森本は石田の心の乱れに気付き、首を傾げた。なんだ、あいつ? 顔が真っ赤だ。
石田の心は乱れていた。野球一筋で恋のひとつもしなかったからだろうか?
迎えた甲賀高校のラストバッターは先ほどファインプレーをしたライトだ。打たれまいとその顔をギンと睨んだ時だ。顔を見て、何だか変な気持ちになり、石田は目を伏せた。な、な、なんだ? かわいいぞ。い、いや、相手は男だぞ。しかも対戦相手。どうしたんだ、俺は。しっかりしろ。
首をぶんぶんと振って、再度、桔梗に対峙する。桔梗はその目線に気付いた。その目線に控えめなウインクを返した。
石田の顔は一気に赤くなった。
キャッチャーの森本は内角高めにストレートを要求した。こんなド素人みたいな集団に1点も取らせるわけにはいかない。
石田はもう一度気を取り直して鋭いボールを投げ込んだ。桔梗の顔の近くを143キロのボールが襲う。
「やんっ」
桔梗はボールを避けて、勢いのまま倒れてしまった。
森本は戸惑った。……やんっ? なんだこいつ?
森本は桔梗をマスク越しに睨んだ。と、そこにはしおらしく倒れる、色気に溢れた敵チームの球児がいた。森本の頭が一気に混乱する。
ヤバい、俺、どうかしてる。
首を振って、石田にボールを返す。起き上がった桔梗が立ち上がって土を払っている。何なんだ、こいつは。丁寧に土を払う桔梗を森本はもう一度睨んだ。早くしろよ、と。桔梗がその視線に気づき、森本へ向いた。桔梗は向けられた目線の鋭さに目を潤ませて謝った。
「あ、ごめんなさい。遅いよね……そんなに……怖い目で見ないで」
ズッキューーーーン。と、森本の思春期が爆発する。男なのに、敵チームなのに。駄目だ、惹かれてしまう。
「だ、だ、だ、大丈夫です。だ、だ、だだだだ、大丈夫ですか?」
「うん、ありがと。優しいんだね」
桔梗が軽くウインクする。森本はそのウインクに撃ち抜かれて、骨抜きにされてしまった。
石田へのサインは真ん中へのチェンジアップ。同じく骨抜きにされている石田も大きくサインに頷いた。




