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白烏の眼はしっかりと向かってくるボールを見つめていた。よし、何とかバントできる球だ、と白烏は確信する。が、その視界の両脇、正面から猛然と前進してくるファースト、サード、ピッチャーの姿が見えた。このままバントしたらダブルプレーだ。
咄嗟に白烏はバットの角度を変えた。せめて転がす方向を変えたいと思ったのだ。
「あいってえええぇ」
バットにボールが当たった瞬間、白烏が突然そう叫んだ。ダッシュしてきたファースト、サード、ピッチャーが戸惑う。しかも、転がってくると思った打球は完全に勢いを殺し、ピタリとワンバウンドで止まった。ファーストが捕って二塁へ投げようとするも、間に合わない。仕方なく、一塁へ送った。無事、白烏の送りバントが成功した。
ベンチへ戻った白烏がハイタッチをしていく。その手が左手なのを副島は見逃さなかった。
「おい、白烏。どうした?」
「お、おお? 何が?」
副島が白烏の右手を掴む。腫れたりはしていないが、中指の爪が変色していた。
「おっまえ、これ、指に当てたやろ。なんちゅうバントしてんねん。大丈夫か?」
「ちょっと当たっただけだ。てか、執念のバントと言えよ。すげえだろ、さっきのバント。あは、あははは」
明らかに無理をしてそうな白烏の笑顔に疑念を抱きつつ、副島はグラウンドに向き直った。
滝音がまだ白烏の中指を見つめている。腫れていないのなら、一度試しにもう一度結人に投げさせてみるべきだ。そう思い、グラウンドを見つめる副島に小さな声で進言した。怪訝な表情を浮かべた副島は、仕方なさそうに頷いた。




