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2

「では、先攻は甲賀高校さん、後攻はうちということで……」


 審判がいないため、理弁和歌山のコーチが主審を勤めてくれた。


「お願いしますっ!」


「しゃあああああす!!!」


 両軍ホームベースを挟んで対峙し、挨拶をした。理弁和歌山ナインがきびきびと守備位置につく。


「ふんっ、相当俺らを畏れているな。気合いの入った挨拶をしよって」


 道河原がうははと笑いながらベンチに戻ると、滝音が道河原の肩を叩いた。


「あれはいつもやってる挨拶だ。俺らを怖れてなんかない」


 ベンチ前で桐葉が腕組みをしている。目を閉じ、静かに話した。


「みな、胆を据えて挑まねばならぬ。相手は我らより数倍上だ。俺は負けたくない」


「ったりめーだ。負けてたまるかよ!」


 月掛がくるくるとバットを回しネクストサークルへ向かう。


 藤田が相手ピッチャーの投球練習を眺めている。理弁和歌山の先発ピッチャーは背番号19。おそらく実戦登板の機会がない一年か二年だろう。それでも、キレのあるストレートとスライダーが心地よい音を立ててミットに収まっていく。

 藤田はごくりと唾を飲んだ。高ぶる胸と久々の実戦の緊張感。投球練習が終わると、まっさらなバッターボックスに藤田は両足を乗せた。やっと野球ができるんだ。怖れることはない。楽しむぞ。楽しみを噛み締めながら、いざ、腕試しだ。



 プレイッ!


 周りは森なので、高らかに主審のコールが響く。左打席に入った藤田はふんわりとバットを肩に置く。藤田は打撃のセンスもある。力は無いが、外角のボールを柔らかくレフト前に運ぶ技術は藤田ならではだ。


 初球。

 やや内角寄りにストレートが刺さる。打つ気がなかった藤田は何かを確認するように首を縦に振り、また柔らかく構えた。相手バッテリーもまた、何かを確かめるようにお互いに頷きながら、ボールを受け渡していた。


 2球目。

 外角低めに外れるスライダー。3球目はブレーキの効いたカーブでストライク。藤田は1ボール2ストライクと追い込まれる。


「藤田ぁ、広く広く!」


 副島がベンチから大きな声で藤田に声を運び、藤田がメットに指をかけて応える。理弁和歌山のベンチからも大きな声が飛んでいる。ピッチャーに向けて檄を飛ばす。


「オッケー、石田! 追い込んだぞ!」


「石田ぁ、楽に楽に!」


 理弁和歌山の背番号19石田は、声をかけてくれるベンチへ小さく笑みを見せた。この応援がグラウンドに立つ選手にとって大きな後押しになるのだ。強豪校はこうした声出しも妥協しない。


 ふと、副島が何かに気付いてベンチを振り返った。そういえば自分以外の声が聞こえない。副島はそれに気付いた。ベンチで立ったり座ったりしているみんなを見渡す。皆がぽかんと不思議そうに副島を見ていた。

 ……しまった。こいつらに応援や声出しのことは一切教えていない。


「……副島、何だ? 広くって?」


 白烏が専門用語に戸惑って訊ね、周りのみんなも一体なんのこっちゃと首をひねっている。どうりでこっちのベンチは静かなわけだ。


「お、おう。広くってのは、ストライクゾーン広く待って打てよってことや。とりあえずみんな前に出て声出そうぜ」


 副島が苦笑いして鼓舞すると、桔梗が袖を引っ張った。


「ねえねえ、声出すって、何て言えばいいの?」


「お、おう。かっとばせーとかだな。ほら、いけるいける! とか、……んなの、別に何でもいいんだよ。気合い入れだ。気合い!」


 すると、静かに桐葉が反論した。


「俺は気合いは入っている。藤田も気合いは入っているだろう。かっとばせなど、言われなくとも藤田だってかっ飛ばしたいに決まってる。わざわざ言わんでも良かろう」


 桐葉はバットを腰に差し、まるで達観した剣士のようにそう言った。


「いやいや、そういう意味じゃねえんだよ。なんちゅうか、その、盛り上げっていうかな……」


 そんなどうでもいい言い合いをしているうちに、藤田はセカンドゴロに倒れていた。

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