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蛇沼神はずっと黙って下を向いていた。
「神さん……どうかしました?」
藤田が心配そうに蛇沼を覗き込んだ。蛇沼はパイプ椅子に座り、手を組んでなにやら葛藤している。
「副島……今更手遅れかもしれないけど、ここに書かれている六人をあたってくれないか? 詳しくは言えないけど、やりようによっては可能性があるかもしれない。……それに……もし、この中の何人かが入ってくれたら、甲子園も夢じゃなくなるかもしれない」
副島が渡されたメモ用紙に目を通す。
白烏結人、道河原玄武、犬走和巳、桐葉刀貴、滝音鏡水、月掛充。
最後の一人は副島が知らない者だった。二年生か?
それにしても、知ってる五人は興味なんか示してくれなさそうな五人だ。何故か五人とも目立つことをしない五人。だが、道河原はがたいもでかいし、桐葉なんかも運動神経は良さそうだ。滝音は洞察力に優れてはいる。
「直接声を掛けたことはある?」
「いや……ないけど」
「ダメもとでやってみないか? 注意してみれば、この六人がすごいのは分かるはずだ」
「でも、何でこの六人なんだ? なんかあんのか?」
蛇沼はぎこちない顔をして歯切れ悪く応えた。
「それは……言えない。言えないけど、やってみる価値はあると思う。俺も力添えするから」
副島も藤田も首をかしげた。だが、もう時間はない。一人一人を説得したことはない。やって……みるか。
五月の下旬になると、額に汗が滲んでくる。
グラウンドの隅は賑わっていた。野球部が一気に八人に増えていたからだ。
グラウンドの隅っこには、いつもの三人に加えて五人の姿がある。白烏結人、滝音鏡水、道河原玄武、犬走和巳、そして月掛充。
「すげえな、一気に。あと一人じゃん」
「ああ、県予選間にあと一人で間に合うやん」
「いや、今日さっき桐葉が入部届出したってよ」
「何か、東雲も女なのに野球部入るって聞いたぞ」
「マジか。羨ましいな」
グラウンドの中央で各運動部の主将が話している。
「それにしても…」
サッカー部の主将が呟いた。
「副島の頑張りに俺らは応えないとな」
サッカー部の主将は各部の主将に目配せした。
「そうだな」
各部の主将たちと教頭は、明日から県予選開始までグラウンドを全面野球部に使わせることを約束した。翌日、学校でそれを聞いた副島は初めて嬉し涙を流したという。
やっと甲賀高校野球部が正式にスタートを迎えた。
「いくぞっ、ノックや! しっかり捕れよお前らぁ!」
三年間で一番大きな副島の声がグラウンドに響き渡った。




