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グラウンドの隅っこ、壊れたバスケットボールリングやハードルなどが置かれた場所が野球部のスペースだ。副島と藤田はそこでキャッチボールをする。
「藤田はポジションどこなん?」
「僕はピッチャーです。外野も守れますけど」
「へえ、ほならせっかくやし投げてみいよ。ちょっと待っとってな」
副島は部室に戻って、埃かぶったキャッチャーミットを抱えて戻ってきた。ざっと18.44mの距離を取って座り、ミットをバシバシと叩く。
藤田は嬉しかった。
実は、中学はシニアでならした方だった。近畿大会でも準決勝まで進出し、防御率は2.63。どこからか声がかかるのではないか。そう期待したが、結局声は掛からず、一般入試でも私立に落ちた。何とか受かった甲賀高校には野球部無いんじゃないか……と言われていただけに、こうして投げられることが嬉しい。
肩を軽く回してセットに構える。副島がミットをど真ん中に構えている。グローブを返し、円を描くように腕を回す。左足から右足へ体重移動はスムーズだ。右足が地面を掴み、左手の指からボールが離れていく。うん、指のかかりは悪くない。
パシーーーン
少しだけ高めに浮いたボールが副島のミットに収まる。
「……マジか。藤田、めっちゃ良い球放るやん!」
副島は嬉しそうに藤田へボールを返した。力強いボールが藤田のグローブに収まる。副島のメッセージだった。絶対お前に野球をさせてやる、と。
「副島とあの一年、頑張ってるよな」
「ああ、ほんまに。涙出てくんな」
他の運動部から日々そんな声が漏れ始めていた。副島と藤田は誰よりも遅くグラウンドを後にする。たった二人でどの運動部よりも声を出した。雨の日でも風が強くとも、副島と藤田はグラウンドに出てボールを追いかけ、バットを振った。陸上部よりも学校周りを走る姿は他の運動部の心を動かしていた。
「先生。野球部がさ、9人集まったらグラウンド使える日設けましょうよ」
「ラグビー部と俺らも同意見っす。グラウンドの隅で頑張った副島に思い切り使わせてやりたい」
「陸上部も同じです。副島とあの一年の藤田に思い切り打たせてやりたい」
いつの日か、各部の主将たちは部活動委員長である教頭へそう直訴していた。
「そうだな。私たち教員の間でもあの野球部の二人の頑張りは話題になってる。あとは、せめて副島が3年になる夏の県予選までに9人揃えば良いんだがな…」
窓から皆でグラウンドを覗くと、グラウンドの隅で副島と藤田が準備運動しているのが見える。首を上げて大きく口を開いているのが分かる。遠くて聞こえないが、声を張り上げているのだろう。
「お前ら知ってるか? 副島のお兄さんは甲子園で活躍した選手だったんだ。お兄さんは亡くなってしまって、お兄さんの好きだった野球を良い思い出にするために頑張ってるんだ。藤田もお兄さんが甲子園で辛い負け方をして、そのリベンジのために甲子園に行きたいって……」
運動部の主将たちが窓から二人を眺める。
「そうなんすか……集まって欲しいっすね、野球部……」




