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──剣道場に明かりは灯っていないのに、洟懸地杏葉螺鈿太刀が光った気がした。三人ともがそのわずかな光をしかと見た。
「へえ、副島、そんなんだったのか。見直したな。俺もただの野球馬鹿だと思ってた」
「あぁ、何だろうな。不思議とあいつには惹かれるところがある。やるからには俺らであいつの目指す甲子園に連れてってやろうぜ」
洟懸地杏葉螺鈿太刀の上で三人は手を重ねた。
翌日、洟懸地杏葉螺鈿太刀は博物館へ寄贈され、刀貴は一度、刀の道への歩みを止めた。だが、いつか父上の仇は取る。外の世界を見て、いずれまた刀を握る時が来る。その時は必ず……。
よく晴れた5月最後の金曜日。グラウンドいっぱいを使わせてもらえる野球部は、まっさらな空へ大きな声を出してグラウンドへ一礼した。真っ白なユニフォームに着替えた桐葉刀貴がみんなの前に出る。
「3年2組、桐葉刀貴。必ず甲子園へ行けるよう力になりたいと思う。よろしく」
甲賀高校野球部の甲子園を目指す物語が、ここでスタートラインを切った。
「よおし、これで9人。この9人で甲子園目指そうぜ」
「おお!!!」
高らかにナインの声が響き渡る。グラウンドを譲ったサッカー部やラグビー部の面々が校舎から野球部を見下ろしていた。「副島ぁ、良かったなぁ」そんな声も聞こえた。
「ほんでその前に……」
副島が円陣を組むように集めて、みんなの目を見て話し始めた。
「明日、明後日、合宿するから。明日6時に校門集合な。明日から野球づけだ」
「えーー」
月掛充がマジかよーと声を出した。
「あったり前だろ。こんなド素人軍団でどうやって甲子園行けるんだ。今日から必死にやるぞ。いいな、みんな」
おお!!!




