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──霊園に雨が降り注いでいた。
雨でびしょ濡れになった刀貴に傘が差された。傘を差す者も、それに気づいている刀貴も言葉をしばらく発しなかった。墓前に飾られた花たちが雨に打たれている。
「……桐葉、帰ろうぜ」
「……副島か……。お前、部活は? 今日は練習だろ」
悔し涙を拭って刀貴は副島に応えた。
「今日だけは休みだ。兄ちゃんの命日なんや。まさか桐葉がおるとは思わなんだ」
副島は刀貴へ傘を差したまま、斜め前の墓石を指差した。『副島家之墓』と彫られてある。
「それにしても、なんやな。ただの迷信や思てたけど、さっきの見てはっきりしたわ。桐葉も白烏も滝音も、たぶん他の奴らもみんなほんまもんの忍者やねんな。あいつらと練習してたら全員が人間に思われへん」
「……見られてたんか」
「まさか同級生が刀突きつけられてる場面に遭遇するとは思わなんだ。滝音の写真撮った時は半信半疑やったけど、ほんまに忍者がこの世におるとは」
「……」
「滝音みたいに脅迫まがいに野球部入ってくれとは言わへん。けど、あいつら二人とも意外と野球楽しそうや。良かったら桐葉も一緒やらへんか? あいつら、お前のことばっか喋ってるわ」
「……そうか。ありがたいけどな。俺は刀を極める義務がある」
刀貴はすっくと立ち上がり、雨粒を払った。
「そうか……。ただな、悪いけど、桐葉。お前はその道を極めることはできんと思う」
立ち去ろうとする刀貴に副島がそう告げた。
「副島に何が分かる。さっきの顛末を見ていたからか?」
「……それしか見えてない人ってのはな、実は脆いもんだ。俺の兄ちゃんはな、甲子園で全国制覇したんや。そこそこ活躍もした。かっこ良かったんやで。でもな、兄ちゃんは野球で食ってくって、それしか見えんくなって……命を絶ったんや。暗い話になるけどな。俺はそれを見てる。やから、お前は心配や」
「……そうか……なるほど。一理……あるかもな」
「俺は、兄ちゃんが好きやった野球はやっぱり素晴らしいもんかんやと。兄ちゃんが活躍した甲子園は素晴らしい舞台やったとみんなに知ってもらいたい。それが兄ちゃんの供養になると思ってる。明後日までが県大会メンバーの期限や。良かったら桐葉も一緒やらんか」
雨が少し小降りになり、小さな晴れ間が射していた。
「ただの野球馬鹿かと思ってた。考えとくよ」
「ああ、野球ってみんなでやるんだ。結構いいもんだぞ」
刀貴は後ろ手を振って霊園を去っていった。副島はその後ろ姿を見つめて、振り向いた。副島家の墓が笑っている気がした。




