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崖に身を潜める男はいつでも構えた刀をこちらに振りかざしながら飛んでくる準備をしている。
情けない。どこが刀を極める、だ。悔しいが背後の男の言う通り。忍を司る剣士として、喉元に刀を突きつけられるなど自害する方がましだ。この突きつけられた刀に首から突っ込み、自害しようか……。涙も出ない悔しさから刀貴はそこまで考えた。が、この墓石に眠る父はどう思う。残された母はどう思う。そう冷静に考え、刀貴は口を開いた。
「……敗けだ」
風が止んだ。線香の灰がぽとりと悲しく落ちた。
「ははは、情けない。小十郎、刀の道なんてこんなもんだ。俺らは陽の当たるところへ出るぞ。国宝など、もうどうでもよい」
崖の男が言って、僅かに刀が触れていた首から離れた。
「もうお前に会うことはない。一生そうやって情けなく国宝を拝んでいろ、敗者の剣士よ。俺は風魔小十郎。お前が敗けた男だ。覚えておけ」
「俺は藤林長守。お前の『水月刀』という奥義に興味を持ってきたが、どうせ刀があったとて大したことなかろう。今後、藤林に足を向けて寝るな、甲賀の者よ」
そう言い終えると、二人の気配は消えた。すぐに振り返ったが、背後の男は影すら見えなかった。
刀貴は父の墓石の前にしゃがみこみ、悔しくて泣いた。頭上から雨がしとしとと降り始め、刀貴の全身を灰色に染めた。




