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鏡水と結人は野球部に入ってからも夜の修練場には顔を見せていた。
今までと違って、結人も鏡水も野球の練習で疲れているせいか、演習にキレがない。刀貴は歯応えのない二人の出来を少し残念にも思ったが、明らかに今までにない二人の良さが開花しようとしているのも同時に感じていた。
結人は疲れから、放つ手裏剣の威力や精度は落ちていた。だが、肩まで使って投げる新しい投げ方は刀貴が思うよりもずっと手裏剣の距離を伸ばしていた。
鏡水はもともとある頭脳に、ずる賢さが加わった印象だ。スポーツは相手を化かすことも勝敗を左右するひとつの要素だ。野球を通じて、鏡水はそれを自然と身に付けようとしている。
少し二人が羨ましくもあった。
休憩の合間、二人は野球の話に耽った。よほどはまりこんだようだ。
「結人さあ、もっとコントロール良いプロ野球選手の動画とか見ろよ」
「鏡水の要求が高過ぎんだよ。内角高めから外角低めに逃げるボールとか…まだ、俺始めたばっかだぜ?」
二人は聞き耳をわずかに立てながら素振りする刀貴に気づき、刀貴に気を遣って話を止めた。素振りをしながら微かに刀貴が笑みを見せた。
「何を気遣っている。スポーツの話は面白い。気にせず続けてくれれば良い」
ちん、と刀を鞘に収め、刀貴は二人をそう気遣った。
ふと、大樹の枝が刀貴の頭上でぼきりと折れた。他の木の枝で話していた結人と鏡水がそれに気付いたが、結人の手裏剣も鏡水のくないも間に合わない。目をつむって素振りに励む刀貴に叫ぶ。
「刀貴っ」
その声が届く前に、刀貴の身体が捻れ始める。上段に構えながら捻らせた身体でひらりと舞い、大きな枝を避ける。捻らせた身体は、そこから無理にねじったゴムが戻るように、反対方向へと回り出す。上段に構えられた刀は身体を回転すると同時に振り下ろされ、地に落ちる前の枝を真っ二つに斬り裂いた。枝はそれぞれ右に左に遥か彼方へ飛ばされていく。
刀貴の居合いにも通ずる奥義『水月刀』である。
鏡水は久しぶりに拝む『水月刀』を見て、惜しいと思った。
刀貴の剣術はおそらく日本でも屈指のレベルだ。それにこの『水月刀』。もし、刀貴が野球をするとすれば、この技の正確性と豪快さは、おそらく甲賀高校野球部の誰しもが持たないものだ。そしてそれは、おそらく付け焼き刃の打力では補えない投手との対戦で頼りのひとつとなろう。
だが、それでも、親を失った刀貴に野球をやろうとは…鏡水にはとても言えないのだった。




