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刀貴は、同じく甲賀三家と呼ばれる白烏結人、滝音鏡水と演習を行い、日々腕を磨いてきた。できることならば、刀貴は白烏と滝音と一緒に演習を続けたかった。力になるのならば、野球というスポーツでも良い。そう思い、二人と共に……という声が出かかったが、やめた。
桐葉家は甲賀随一の剣の腕を奮い、名だたる戦国武将や幕末の志士たちの子孫たちを抑え、日本一の剣士一族として、正式に国にも認められていた。
その証が、国宝『洟懸地杏葉螺鈿太刀』である。金の鞘に貝で三つの銀杏の葉が刻される正真正銘の国宝だ。物珍しい蛇沼家の蛇剣と違い、本物の国宝にあたる。
代々、桐葉家では、この国宝を守るために血の滲む努力で剣の腕を磨いてきた。その努力の一方で、この珍しく個人宅に保管される国宝は盗みなどからも守らねばならない宿命も負っていた。
特に甲賀に国宝を持たれ、立つ瀬の無くなった伊賀家や盗っ人から忍者へと大成した風魔家などは、このことをよく思っていなかった。
刀貴が15歳の誕生日、それは起こった。
刀貴が気配を感じるより早く、刀貴の父、友刀は剣道場へと駆けた。刀貴もそれに数秒遅れて父を追った。
「刀貴、来るな。それより母さんを守れ」
刀貴はこの時、胸騒ぎを抱いていた。すぐには友刀の指示に従わず、少しだけ速度を緩めて友刀を追った。
と、友刀が振り向き、猛然と刀貴の目の前まで飛んで戻った。友刀が刀貴の胸ぐらを掴んで持ち上げる。普段、静かに佇み喜怒哀楽を見せない友刀がここまでするのは初めてのことであった。
「刀貴、父さんは戻れと言っている」
「……はい、父上」
友刀の放つ静かな圧に刀貴は飲まれ、踵を返して居間へと戻った。
友刀と刀貴はこの家に四人の気配が入ったのを感じていた。ただならぬ気配であった。だからこそ、刀貴は母のもとではなく、侵入されたであろう和室へ父の助けに行きたかった。洟懸地杏葉螺鈿太刀が保管されている剣道場へ。




