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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
8. セカンド 月掛充
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4

「親父、甲賀三家って知ってるか?」


 梁に足を引っ掛け、ぶら下がってる親父に充が訊ねた。


「三家? 桐葉、滝音……あと、なんだ、白鳥だったっけか?」


「ちがう、白烏だ」


 充が天井にジャンプしながら応えた。


「あぁ、そうだったな。どうかしたか?」


「そいつらに会った。生意気だった。俺が現代の猿飛佐助だって言ったら馬鹿にしやがった」


 親父ははっはっはと大声で笑った。


「そうか、言わせとけ。確かに甲賀三家は刀術、手裏剣、そして軍師として歴史にも名を残した。ただ、身のこなしに関しては、我が月掛には敵うまいよ。子のいなかった佐助様が子として取るなら、充、お前であろう。他に佐助はおるまい」


 充は親父に向けて、跳びながら親指を立てた。さすが親父。良いことを言う。


 今日は父子ともに興奮を押さえられないでいた。今夜は『伝説の十勇士、猿飛佐助』という番組が放送される。普段、テレビを観ることはないが、今日だけはこれほど観たい番組はないと、一週間前から父子ともに気にしていた番組なのだ。


「充、始まるぞ。テレビを点けよ」


「おう」


 久しぶりに月掛家のテレビが点いた。充は座してテレビに向かった。そわそわと落ち着かない。今日は飯も風呂も19時には済ませていた。


 だが、明るく画面を点したテレビを観て、父子は、うむん、とすっとんきょうな声を出した。テレビには野球というスポーツが映っていた。画面の上段にテロップが流れている。


『野球中継延長のため、伝説の十勇士猿飛佐助は野球中継終了後に放送いたします』


 親父は溜め息をつき、腕を組んだ。


「はあ、まあ充よ、仕方ない。この野球という競技は9回が終われば競技終了となる。今その9回である。しばし待とう」


 充も心の中で溜め息をついていた。早くこのスポーツが終わらないものか。テレビではなかなか忍者についての番組はない。忍ぶ職務であるがゆえ仕方ないのだが、珍しく忍者についての放映があると充はずっと前から楽しみで仕方なかったのだから。それも憧れの猿飛佐助の番組なのだ。


 その時だった。実況の声に充は驚かされることになる。


『あーーっと、菊地ジャーーンプ! キャーーッチ! 今日も忍者菊地のファインプレイ! なんという脚力でしょう。試合が終わりました。広島、今日も現代の猿飛佐助こと菊地のファインプレイで連勝です。解説の江本さん、今日も忍者菊地ですよ』


『いやあ、すごいね菊地は。本当に現代の猿飛佐助ですよ』


 ……馬鹿な。


 赤い装束を身に纏っている。この忍者、猿飛佐助などと呼ばれている。スポーツなどやっている。どこの流派だ?


「おい、親父。聞いたか?」


「ああ」


 親父は腕組みをし、明らかに奥歯を噛んでいる。


「さっきの赤装束、公共放送で現代の猿飛佐助と呼ばれてやがった。親父、この流派のやつ、スポーツで世に知らしめてやがる。黙ってられねえぞ」


 充は悔しさで頭から湯気が出ている。


「この目立ちたがりの流派め。充、野球で充こそが佐助様に近いと世に知らしめてやれ。お前ならスポーツなどすぐに順応できる」


「ああ、当たり前だ。野球部ってのがある。そいつらに入れてもらうわ」


 翌日、月掛充はひょんなことから、同級生の野球部員である藤田を訪ねた。


「藤田、お前、野球ってスポーツやってるな。俺も野球やるぞ」


「えっ、ほんとに? 嬉しい! 月掛くんの運動神経やばいから、すごい戦力かも」


 藤田はひょろりと痩せていて、優しい顔をしている。充はこんな藤田でも野球というスポーツはできるものなのかと思った。


「ただし、条件がある。広島の菊地という者だ。あいつと勝負させろ。俺の方が飛べるのを見せつけてやる」


 藤田は声を上げて笑った。


「月掛くん、正気で言ってんの? あれ、プロだよ。高校生とは試合なんてできないよ」


「なんだと? じゃあ、意味がねえじゃねえか。俺はあいつより飛べると世に知らせたい。野球をやる理由はそれだけだ」


 充がふてくされているのを藤田はまずいと思い、咄嗟に声を出してしまった。まだたった3人の部員しかいないのに……。


「それなら甲子園を目指そう! 月掛くん、甲子園に出れば必ずテレビに映るから」


 言って藤田は後悔した。3人しかいなくて試合なんてできないと言えば怒られそうだ。


「本当か。分かった、藤田。頼むぞ」


「……う、うん」


 この時点で、副島、藤田、蛇沼、そして月掛の甲賀高校野球部ができ、ここから部は急速に部員を増やしていくこととなる。


 月掛充は今日も飛ぶ。白球を追って。

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