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山が崩れたのか……という音が村じゅうに響き渡った。
「道河原さんとこのせがれやな。ありゃ、もう熊でも敵わんのちゃうか?」
「ああ、あれは小学生にゃ見えん。体躯も人並み外れとるが、恐ろしいのはあのパワーじゃ。いつオリンピックにでも出るやろ」
先ほどの山が崩れたかのような爆音は、道河原玄武が、岩を投げた音であった。玄武はこの時、小学四年生。投げた岩は70kgのものだった。
甲賀忍者の守りを一手に司ってきた道河原家は、太古より力ならば武蔵坊弁慶か道河原家かというほどの「力」の一家である。
玄武はこの力をもて余していた。近所の老人が荷物を持って家路を進んでいると、荷物を持って家まで運んだ。手応えを求めて、新築家屋の工事現場に出向いては、瓦運びなどを手伝わせてもらった。
「なーんか、もっと力でわくわくすることはないかなぁ」
小学五年生になり、100kgのバーベルを上げながらそう呟くと、玄武の父親がぬっと現れた。熊よりも大きいかと思えるその図体は、常に湯気を上げ、熱を帯びている。玄武が震えながら持ち上げていた100kgのバーベルをひょいと片手で上げ、玄武に言った。
「玄武、相撲やってみるか」
玄武の父、獅童には目的があった。
長年、ライバル関係にある伊賀者、龍造寺家の長男である謙信がわんぱく相撲横綱になったというニュースを観たのだ。
「目立ちたがりやの伊賀者め。恥ずかしい限りだ」
歯痒さもありながら、獅童はこのニュースを切り捨てた。忍者たるもの、表に出るなど忍の誇りを失ったと同じ。甲賀たるもの、そんな誇りを失うことはせん。伊賀は情けない。そう自分に言い聞かせるように我慢したが、その堅忍は獅童にとって永遠のライバルである龍造寺磊落によるインタビューで脆くも壊れた。
『お父さん、謙信くん頑張りましたね! 圧倒的な強さでの横綱ですよ! 謙信くんに何て声をかけてあげましょう?』
龍造寺磊落は伸ばした髭を撫でながら、まるでカメラの向こうにいる道河原獅童を挑発するかのように笑みを浮かべた。
「いやあ、謙信はよくやりました。うちは元々伊賀忍者の系列でしてね。謙信はその鍛練を小さな頃から泣きながらこなしておったんです。それに耐えた成果でしょうな。甲賀と比べると、伊賀の鍛練は大変ですから。ようやったと思います」
獅童は拳を握り締め、畳にその拳を叩きつけた。畳は半分から折れ、真っ二つにめくれ上がった。
「龍造寺家めが」




