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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
6. ライト 東雲桔梗
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6

 桔梗は犬走は体育祭でバトンを渡す時に、蛇沼は独りぼっちでいる時に寄り添って落とした。


 白烏、滝音、桐葉の明らかな忍者三人は別として、一人だけ理解できない男がいた。


 副島昌行(そえじままさゆき)だ。


 副島は明らかに忍者ではない。端正な顔だちというわけでもない。屈強な肉体を持つわけでもない。勉強に秀でたわけでもない。ただ、野球を熱心に一年生の時からやっているだけの男だ。


 時には乙女のように、時にはセクシーに、時にはノリの良い女子として、桔梗は副島を落とすために近づいた。だが、何故か副島は振り向かない。桔梗には不思議でならなかった。桔梗は副島を落とせないことを恥じた。


 桔梗も黙って指を咥えていたわけではない。副島は野球が大好きな男だ。桔梗も野球の知識を備え、休み時間に副島と野球の話をしたりした。副島は目を輝かせて話に食いつくが、桔梗に堕ちるのとは違った。


 何なんだ、一体。


 桔梗は副島を観察し続けた。三年になり、副島の様子が変わっていく。表情がどんどん明るくなり、日々楽しそうに過ごしている。……うそ、彼女できたとか……? 桔梗はそれを疑ったが、そうではなかった。


 放課後、副島を追うと、グラウンドにユニフォーム姿の者が何人もいた。桔梗が落とすのに苦労した男ばかりだ。


「そっか、野球部増えたんだ……それで最近いつも喜んでるんだ」


 階段から足を投げ出して、練習を眺めていた。副島の大きな声が響いている。遠くからでも汗がほとばしるのが分かる。


 とくん


 桔梗は自分の胸が揺れるのを確かに感じた。え? ただの野球馬鹿の副島に? 自分が信じられない。


 休み時間、副島が突っ伏している机の前に座った。


「副島、野球部増えたんだね。おめでとう」


「おぉ。東雲か。ありがと。あとなぁ、あと一人いたら充分なんだけどな」


 そう言いながら、副島は身体を起こした。椅子にもたれて、天井を仰ぎながらゆらゆら身体を揺らしている。


「これで出場できるんはできるんやけど、一人でも怪我したらおしまいや。もう一人おればなぁ」


「もう誰もいないの?」


「ああ、もう全校生徒にあたったけどな。もうさすがに無理かも」


「ふーん、そっか。副島ってさ、何でそんなに野球馬鹿なの?」


 副島は笑った。


「俺は野球に恋してるからな。ほんで甲子園が永遠の恋人なんや。永遠の片想いでもあんねんけど」


 ゆらゆら揺れる副島を見つめていた。全然かっこよくはない。頭もそんなに良くない。それでも、これだけ真っ直ぐな副島を桔梗は何だか良いなと思った。


 桔梗はお母さんとお父さんを想った。きっとお父さんも何の取り柄もないけど、何かに純粋に打ち込んでたんだ。お母さんはそのお父さんを眩しいと思ったんだ。あたしも、やっとそれが分かったかも。


「副島、あたしじゃダメかな? からかってる訳じゃなくて、本当に副島の力になりたいかも。女隠してとかでも良いから」


 きっかけはそんなものだった。ただ、落とせない男を落とす。少し気になる副島という野球馬鹿を。


 だが、桔梗はこれから思わぬ恋をすることになる。副島と同じ。甲子園という舞台に。

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