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髪をかきあげれば、それだけで男たちは堕ちた。堕ちない者には近寄ってすっと首や腕を指でなぞれば、それだけで恍惚の表情を浮かべる。
「俺、東雲と今日昼ごはん一緒に食べた」
「マジか、お前羨ましすぎ」
「東雲と付き合えるなら俺、寿命半分で良いかも」
桔梗はすっかり男を手玉に取ることに耽っていた。誰でも落とせることへの快感に浸る生活は中1のあの日以来ずっと続き、楽しくてしょうがなかった。
だが、中学と違って、高校では男によっては好みが別れてくる。桔梗に興味を抱かない男たちも僅かながらいた。桔梗はそれを不満に思っていた。
「ねえねえ、お母さん。くノ一が通じない相手っていた?」
ロールキャベツを頬張りながら、桔梗が尋ねた。
「うーん、いないわね。その男に合わせることもくノ一としての修行よね。堕ちない男がいるんなら、桔梗に落ちないんじゃなくて、桔梗がその男に合わせられていないんじゃない?」
ロールキャベツを食べるお母さんの口もとがやはり艶かしい。
「ふーん、そっか。いるんだよね、正直。あたしの修行不足かぁ。……そういえばさ、何でお母さんってお父さんと結婚したの? お父さんは優しいけど、強くもないし、頼り甲斐はないし」
お母さんは、ふふ、と笑いながら言った。ロールキャベツの汁がお母さんの口の端から少し零れる。
「くノ一の最大の悲しみかもしれないわね。えっとね、飽きちゃうのよ。男に。最後は何の取り柄もない人じゃないと嫌になっちゃったの」
「ふーーーーーん」
頬杖をついて、桔梗は洗濯物をたたむお父さんの背中を見つめていた。あたしでも一瞬で落とせそうだ。
白烏……犬走……滝音……蛇沼……道河原……桐葉……副島……。
テストを早く解き終え、裏に自分に興味が無さそうな者の名前を書いていく。
白烏、滝音、桐葉は同じ匂いがする。おそらくこの3人は忍者だ。少し時間を要する。先ず仕掛けたのは、教師の一回りは大きいんじゃないかと思える体躯をした道河原だった。
道河原は相撲をしていた。その練習場へ足を運んだ。まわしを締めて大木を突いている。
「道河原くんっ」
道河原玄武は、大木を突くのを止め、声がした方を覗いた。土俵の下に桔梗がいた。桔梗のデータでは、大きい者ほどセクシー系に弱い。
「お、おぉ。東雲か」
突如現れたクラスメイトに道河原は驚いたが、特に動揺はなかった。だが、その道河原の表情が脆くも崩れる。
桔梗の目がずっとまわしに向いているのに道河原は気付いた。少し恥ずかしくなり、早く帰ってもらおうと桔梗に訊ねた。
「東雲、何か用か?」
桔梗は待っていたとばかりに道河原に濡れた瞳と唇を向けた。胸元をはだけさせる。土俵の上からなら、谷間が奥まで見えるだろう。道河原は瞬く間に目線を背け、恥ずかしさが耳の先まで表れた。
「まわし姿、見たくて。来ちゃっただけ」
「そ、そうかよ。ま、まあ、土俵に上がらないなら、い、居てくれてて、い、いいぞ」
完了。道河原は堕ちた。




