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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
6. ライト 東雲桔梗
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4

 好きな人……。


 いないことはなかった。ただ、桔梗が想いを寄せる相手は、サッカー部キャプテンの3年生だった。中1なんかに興味は無いだろう。とても何かアクションをかける気にはなれなかった。


 サッカー部はイケメン男子が多く、見学する女子が後を絶たない。


 ある日、桔梗はクラスメイトに誘われてサッカー部の見学に行った。桔梗もキャプテンを見られる喜びでついていくと、部員のみんながこちらをちらちら見ながら練習しているのに気付いた。


「やだ、相澤くん、こっち向いてる」


 クラスメイトがキャーキャーと黄色い声を上げている。相澤くんは同級生では断トツの人気で、何度も告白を受けていると聞いたことがある。その相澤くんがちらちらとこちらを見ている。クラスメイトではなく、明らかに私を見ている。桔梗はそう思った。


 桔梗は一旦目を伏せ、また顔を上げた。キャプテンを目で追う。キャプテンは必死にボールを追い、チームメイトのプレイに目を光らせていた。チームメイトたちはやはりチラチラとこちらを見ながら練習している。


 キャプテンがその様子を見て、一喝した。


「お前ら、やる気ねえなら帰れ。大会近いの分かってんのかよ」


 キャプテンは迷惑そうに桔梗たちがいるギャラリーの方を睨んだ。ギャラリーの女子たちが申し訳なさそうに目を背けていく。キャプテンの目は真剣だった。牽制する目線に皆が気圧されていく中、桔梗も目が合った。桔梗がキャプテンの鋭い目線にどきりとした瞬間、桔梗は「あれ?」と首を傾げた。キャプテンは桔梗と目が合うや否や、顔を真っ赤にして目を背けた。


 桔梗はサッカー部のキャプテンに告白された。嬉しくて全身が熱くなった。


 秋にキャプテンと遊園地に遊びに行った。キャプテンから向けられる笑顔に桔梗は更なる笑顔で応えていたが、途中から園内を歩く人々の、いや、園内を歩く男性の視線が全て自分に向けられているのが分かった。


 お母さんの持っている本を思い出した。最近になってやっと一度読んだことがある。『くノ一忍法帖』という。一度頁を開いて、顔を赤らめて閉じた本だ。中学生になって、やっとはずかしながらも読めるようになった。


 男は情けない生き物だ。読んでそう思った。どんなに屈強な男でも性の前には無力だ。いつかお母さんが言った「女はピラミッドの頂点なのよ」という言葉が浮かんだ。


 あれだけ憧れたキャプテンの顔がただにやにやしているだけに見えてくる。世の中の男を手玉に取ることができるんじゃないか。桔梗は初めてそう感じ、キャプテンの笑顔に軽く笑うだけで残りの時間を過ごした。


 誰も彼もが桔梗に恋をした。高校生になると、身体も発育し、桔梗を目で追う者は中1の頃とは比べ物にならないほどに増えた。あの頃に憧れたキャプテンは頭の片隅にも残っていなかった。

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