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「お母さん!」
桔梗は玄関を飛び出した。微笑を浮かべる母親に飛び込むと、辺りにふわりと甘い香りが立ち込めた。
「どうした、桔梗?」
「どうした? って、お母さん……」
「心配してくれたん? 大丈夫どころか、借金取りがお金置いて帰っていったわよ」
そう言って、お母さんはふふふと笑った。お母さんの手には5枚の一万円札が風にはためいていた。
「……あれが、くノ一? よく……分かんなかった」
「桔梗は好きな子はできないかい?」
?
「いないよ」
さ、家に入ろうかとお母さんは言って、玄関に一万円札をぽんと置いた。
「好きな人ができたときに分かるかな。桔梗、あなたはわたしより男を手玉にとれる。いつか必ずそれが身を守るわ」
桔梗にはよく分からなかったが、お母さんのくノ一としての姿は、妖艶でかつカッコ良いものだった。
ヨーグルトケーキをお母さんはお皿に盛って、フォークでゆっくり食べた。真ん中の無花果がフォークに乗って、お母さんがそれを口に運ぶ。無花果がお母さんの口の端から少し零れた。それを拭うお母さんの姿は、とても淫らに見え、桔梗は恥ずかしさと同時に強烈な憧れを抱いた。




