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小さな頃に化粧を施してもらった。
そんなに濃くはない。薄く唇に紅を引き、睫毛を立てた。首もとには香をつけてもらう。髪に桔梗の花を差してもらった。
お祭りの日だった。
お母さんに皆が振り返る。お母さんは甲賀流くノ一の中でも指折りの実力だとお父さんが言っていた。
くノ一の実力はどれだけ男を落とせるかによる。落とされた男には隙が生まれる。くノ一に落とされた時点で命はないも同然なのだという。それだけの隙が男には生まれるらしい。
「男は阿呆やからね。男の弱点は女。やから、この世の生物ピラミッドの頂点は人間の女なのさ」
お母さんはそう言って、ふふふ、と艶やかに笑った。
東雲家はお父さんが婿養子として入り、米問屋を営んでいた。東雲桔梗がまだ幼い頃は裕福とは言えないまでも、家族3人で程よく愉しく、程よく慎ましく過ごしていた。
だが、桔梗が中学に上がった頃から、徐々に経営は傾いていき、お父さんが悩む日々が続いた。
今思えば、容姿端麗に育つ桔梗に好きな服や可愛い文房具くらい買ってあげたいという想いがお父さんにはあったのかもしれない。おそらく、それもひとつの原因で、お父さんは少しの借金をした。
お父さんは、2ヶ月ほどして利息分も返済を済ましたらしい。
確かに借金は返したが、取り立てが家を訪ねてきた。
「しののめさーん、借りた金返そうや、なあ?」
木枠にガラスをはめた玄関扉がうるさく叩かれた。




