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振り向くと、副島が笑っていた。
「悪かったって思ってる?」
「……?」
少し後ろで立っている生徒も首を傾げる。
「悪かったって思ってるなら、練習手伝ってくれよ」
「え?」
「いつもこいつと二人でやってるから、おんなじ練習しかできなくてな。手伝ってくれ」
「……いや、野球なんかやったことないし」
不思議なことが起こった。
するすると橋げたの壁から何かが這う音が聞こえた。
「うわーー、蛇だ」
副島の連れの野球部員が壁を指差して叫んだ。白い大蛇が壁をとてつもない勢いで這っている。
副島と副島の連れが地面にへたりこむ。
壁から下へ降りてきた大蛇が神の目の前まで這い、高く頭を上げた。
「蛇沼、危ないって」
副島が叫ぶ。
神は不思議と落ち着いていた。これは蛇剣の化身に違いないと分かったからだ。やはり僕では甘過ぎると言いに来たのだろうか。
『我は蛇剣なり。神よ、ここまで辛くあったであろう』
高くから神を見下ろし、大蛇が喋った。副島と副島の連れがおののきながら、目を真ん丸にしている。
「うん、辛かったよ」
『それも、もう終わりだ。先ほど、お前の反意は一万を数えた。神、我はお前を蛇剣の主として認めよう。あとは好きに生きるが良い』
しゅろろと舌を出しながら、大蛇はそう言った。
「え? 好きに生きていいってこと?」
『そうだ。一万の反意を持って持ち主と認めよう。お前が我を欲するときは力となろう』
「じゃあ、誰とでも仲良くしても良いの?」
『好きにするが良い』
蛇剣の化身である大蛇はそう言い残して、雪のように消えた。
神は嬉し泣きしながら、何度も拳を握った。
副島は呆然としていた。いきなり大蛇が現れて、その大蛇とクラスメイトが話をし、何だか涙を流して喜んでいる。
「副島、僕、野球部入っても良いかな? 今までやれなかったことを取り戻したいんだ。そして、今日副島に助けられた恩を返したい。副島の甲子園行く夢を叶えたい」
「……え……あ、ああ、うん」
嬉々とした表情を浮かべる神に副島は断ることはできなかった。
「ちょっ、先輩、マジすか? 俺、何か怖いっす」
副島と一緒にいたのは、もう一人の野球部員、藤田、この時まだ1年生である。
「藤田……まあ、よく分からんけど、部員が増えるのは良いこった。とりあえず、悪いやつじゃなさそうだし」
神は嬉しそうに副島の持ってきたボールを壁あてした。神はこれを機に、恩人である副島に恩返ししたい一心で朝から晩まで練習し、めきめきと上達していった。
何者かと最初怖がっていた藤田も段々と神に慣れ、3人目の野球部員が正式に誕生した。
そして、将来、長い間耐えながら人を欺いてきた行為が、野球において意外なところで発揮されることとなる。
それは、また別のお話。




