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物心ついたときには十本の指すべてに重りがぶら下げられていた。
幼稚園に入ると、周りの目を気にしてくれたのか、重りはすべて倍の重さの指輪に変えられた。
「白烏くん、幼稚園で指輪はつけちゃダメだよお」
何百回その言葉を言われただろう。
父と母に指輪を外したいと何十回にわたって懇願したが、当たり前のように受け入れられなかった。
理由はひとつ。
甲賀忍者だから。
歌舞伎の世界なんかと一緒だ。その家に生まれたからには、甲賀忍者として生きていくという定めなのだ。
ただひとつ、世を忍ぶ存在ゆえ、歌舞伎の世界とは違って華々しさなどは一切ない。地味に気付かれないように、他人と違う生活をしてきた。
もう指に重りや指輪をつけることにもめっきり抵抗を無くした15歳の誕生日のことだった。
「結人、指輪をすべて外すぞ。絶対に動くな」
親父はそう言って見たことのない三角定規のような刃物を構えていた。
親父はやくざ映画のように結人の手をテーブルに押し付けた。異様な刃物が小指に乗る。金属と金属が擦れる嫌音に耳を塞ぎたくなる。
虫酸が走る異音がしばらく続いたところで、親父はふうとひとつ息を吐いた。まだ外れていない小指の太い指輪に手をかける。
ぬんっという低い声とともに親父は指輪を裂いた。
第三関節あたりは真っ青に変色していて、骨しかないほどに細かった。
続けざまに親父は次々と結人の指に刃物をあてていく。聴覚にも視覚にも悪い時間が長く続いた。
全て指輪が外れた頃には夜が明けていた。
感覚のない十本の指は根元が青黒い。蛙の手のようないびつな形の十本の指に一斉に血液が流れていくのが分かる。どくどくという音が直接耳に届くほど、勢いよく血が指先へ流れていく。




