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足元は草と小さな岩や石で埋め尽くされている。何気なく河原を下流に向けて歩いていると、何か丸いものに足をとられた。足元には草むらに隠れたボールが転がっていた。
3号の軟球は随分と使い古されたようで、表面はツルツルしていた。独りぽっちのボールを手に取った。宙へ放ると、白球は茜色の空にとても綺麗に映えた。
川には大きな橋がかかっていた。
橋げたが大きく、その壁に向かって神はボールを投げた。真っ直ぐ投げると真っ直ぐバウンドして返ってくる。いつものようにスイッチを入れてひねくれてみると、ボールはくねくねと曲がり、あらぬ方向へと跳ね返っていく。
そんな些細なことが楽しくて、神はいつもこの河原に行くようになった。大きな岩の間に隠したボールを拾い上げては、橋げたの壁で壁当てをする。真っ直ぐ投げるボールとわざと曲げるボールを使い分け、その違いを楽しんだ。
この時間だけが神の救いであった。
誰かが話しかけてくれた。
「蛇沼くんさ、文化祭で焼そば焼くし、その時は野菜切る係で大丈夫?」
グッと目を細め、歯を噛みながら応えた。
「は? 俺が野菜なんか切るわけねえやろ。自分らでやっとけや」
女子がそんな嬉しいことを言ってくれた。
「蛇沼くんって、名前に似合わずまあまあイケメンやんね」
一度深呼吸して、蛇のような顔をして言った。
「は? ブサイクがなに上から喋ってくれてんねん」
先生が体育の最初に号令をかけた。
「よーし、二人一組になれよー。ストレッチするぞー」
誰も神には寄って来なかった。
「蛇沼って、名前ばりにキモいよな」
「何なん、あの態度」
「ときどきすげえ顔して睨んでくるやろ。蛇みたいな」
そんな声がいつも後ろから聞こえてくるようになった。蛇沼家に生まれたのだから仕方ない。でも……辛い。
いつもトボトボと帰った。慣れたはずなのに涙が出たりもする。そういうときは橋げたに行く。コンクリートがボールを返してくれる。
今日も陽が沈んだ。
「ありがとう」
本当は学校のみんなに言いたいことを橋げたのコンクリートに呟いた。コンクリートは何も応えなかった。
「神、これを斬ってみろ」
一成が藁で編んだ人形を倉庫から出してきた。永吉が腕組みをして、その様子を見ている。
蛇剣は鈍色の光を放ち、神の両拳を認めていた。もう、持てないということはなくなっていた。
目には見えないが、禍々しいオーラが刃に宿っているのが分かる。一体この蛇剣はどれだけの人を斬ってきたのだろう。
みぞおちに束をあて、水平に刃を構える。斬ろう斬ろうと先走る蛇剣の意思を落ち着かせるように、大きく息を吐く。目を瞑って、人形の胴を真一文字に斬るよう、水平に逆手で振り抜く。
重い。切先が歪む。蛇剣の重みで沈んだ刃は、人形の腰辺りをとらえ、ぶちりぶちりと藁を刈るように斬っていく。あまりの重さに、神は人形を斬り裂くまでは叶わなかった。目を開けると、人形の右半身は真ん中近くまでえぐりとられていた。とても剣で斬られたとは思えない痕だった。
「……うむ、初太刀としては充分。苦しいが、神よ、ここまできたらものにせい」
永吉は嬉しそうにそう言った。一成も隣で満足そうにしている。
色々なものを無くした。だが、これで良いんだ。神は父と祖父の笑顔を見て笑った。蛇剣はするりと滑り落ちた。




