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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
15.強豪 滋賀学院 霧隠才雲現る
179/240

35

 結人、投げにくそうだな……。


 滝音はマスク越しに白烏と川野辺を交互に見ていた。攻略の糸口を探って白烏に自信を与えようとしたが、その解が出ない。よく一打席目で打ち取れたもんだと思う。


 どこにどの球種でどのスピードならば、打ち取れるのだろう。脳を駆け巡らせる。隙が、全く無い。


 おそらく、一打席目は結人の球筋を見極めたのかもしれない。そこは桐葉と似た天性の才も持ち合わせているのだろう。一打席目は内角にストレートを食い込ませて打ち取った。それには対応してくるだろう。では、何とか布石を打ち……。いや、ストライクゾーンに投げれば何もかもが打たれそうだ。


「鏡水っ!」


 サインに迷っていると、マウンドから声がした。見ると、結人が逆にサインを送っている。高め、ストレート。


 馬鹿、格好の餌食だぞ?


 お前の脳が導けないなら、力勝負だろがよ?


 ……分かった。今日の結人のボールに任せる。


 来る。


 ピッチャーのあの目。渾身のストレートで勝負ってとこだな。望むところだ。


 川野辺がすうっと周囲の酸素を取り込む。少し表情が緩んだ。面白い。今まで数多の強豪校と戦ってきたが、この甲賀高校の野球は実に面白い。ひりひりするぜ。なぁ、才雲?


 白烏が才雲を目で牽制しながら、それでも大きく腕を回した。


 才雲は走ろうとしたが、止めた。川野辺があんなにワクワクした表情を見せるなんて。ここでスタートを切るのは野暮だ。それに、この一球は……。


 唸りをあげるストレートが高めを襲う。川野辺がバットを合わせにいく。


 捕らえた! そう思った0.03秒の間、最後の最後に白烏のストレートが、あがくようにもうひと伸びした。


 チッという音が鳴り、打球がバックネットに突き刺さる。川野辺はバットを確認した。だいぶ上っ面に当たりやがった。なんてピッチャーだ。


「川野辺ぇ!」


 ベンチから怒鳴るような声が響く。少し呆れ笑いの監督がサインを送る。川野辺はペコリと頭を下げた。


 しまった。俺としたことが。勝負に夢中になってしまった。川野辺は才雲にも目線ですまないと謝った。


 監督からは才雲を走らせるサインが出ていたのだ。当然だ。才雲の足なら二盗は間違いない。次のボールで才雲にスコアリングポジションまで進んでもらう。


 お前とは、その次でまた勝負だ。仁王立ちする白烏の姿を一目見て、川野辺は小さく身体の緊張をほどいた。


 滝音はその仕草に反応していた。


 肩の力を抜いた。ランナー走らせてくるな。


 バレバレでも成功させられるという滋賀学院の作戦に滝音は燃えた。


 刺してやる。霧隠、次は結人とではなく、俺との勝負だ。



「リードをほとんど取っていないな……」

 センターから犬走は一塁の霧隠の動きをじっと見て、呟いた。


 父さんと母さんが言っていた。犬走家の脚が唯一勝てなかった一族。それが伊賀の霧隠家。犬走は霧隠と今の自分がどの位置にあるのかを知りたかった。おそらく、次のボールで走ってくるだろう。そんなオーラがある。


 滝音は外角のストレートを要求していた。白烏も意図を汲み取り、二度三度と牽制球を一塁へ放った。才雲は全く動じることなく、悠々と一塁へ戻っていく。


「なめられてんぞ、鏡水。刺してやれ」


 白烏がそんな意思を送ってセットポジションに構える。目で牽制し、出来る限りのスピードボールを外角へ投げ込んだ。


 才雲は白烏の左足が完全にキャッチャーへ向いてからスタートした。明らかにスタートは遅い。滝音は一瞬でミットにたどり着いた白烏のボールをしっかりと握り、全く無駄のない動きで送球の姿勢をとった。


 刺せる。そう思ったのも束の間だった。


 滝音は思わずボールを溢してしまった。投げようとした時には、既に才雲が二塁へ滑りこもうとしていたのだ。なんて速さだ。間に合う訳がない。犬走がアキレス腱を断裂してまで見せた、初戦の『風犬』。あの速さ、いや、それ以上だ。


 犬走は立ち尽くしていた。

 根本的に違う。あの細身とも言える身体のどこに驚愕の筋力が隠されているのか。理論上、あり得ない速さを見せ、才雲はベース上で軽く土埃を払っていた。やはり、化け物だ。


 霧隠才雲の独壇場で、あっという間にワンアウト二塁。滋賀学院は同点のチャンスを作り、また白烏が川野辺と対峙する。


 川野辺がすっとバットを構えた。球場を静けさが包む。これが滋賀の安打製造機、川野辺真の集中力だ。

 さあ、甲賀バッテリーよ。舞台は整ったぞ。どう攻めてくる? 俺はその智と技、全てを跳ね返す。


 川野辺の目は明らかに変わっていた。

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