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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
15.強豪 滋賀学院 霧隠才雲現る
159/240

15

 実は、桐葉に打たれないようにするのは簡単だ。桐葉は突出した能力があるとはいえ、あくまでも片手だ。タイミングを外されると、両手よりも修正は利きにくい。実際、ここまで四試合でもタイミングを狂わされ、打ち取られる打席が僅かながらあった。


 それでも、甲賀最強と謳われる剣士である。桐葉が間の取り合いで後塵を期すことは、ほとんど無いと言っていい。


 滋賀学院は甲賀の攻撃のキーマン、桐葉を徹底的にマークしていた。桐葉がここまでの21打席、初回以外で凡退したのはたったの3回。うち2回はピッチャーの交代のタイミング。残り1回は見たことのない球を打ちにいき、凡退している。


 つまりは、初物に桐葉は弱いと言える。サンプルは少ないが、滋賀学院はここを突くと決めていた。


 ───試合前ミーティング


「川原、この三番、まずいと思ったらお前の判断に任せるからな。ただ、くれぐれも無理はすんなよ」


 滋賀学院の監督は桐葉の対策を話した後に、川原に向けてそう言った。


 川原は手を組みながら頷いたが、この時はまだ本気で考えようとも思っていなかった。普段と別の投げ方をするという策だ。甲賀にそこまでする必要はない。


 皆が隣に貼ってあるトーナメント表を見ていた。マジックで塗られた4本の線。滋賀学院と対等に並んだ線は、聞いたこともない甲賀高校。ただ、それよりも反対側から順当に上がってきた遠江の赤い線が、ふつふつと滋賀学院の闘志を燃やさせる。甲賀なんかに負けてる場合じゃない。


 だが、こうして合いまみえると、遠江と戦えない恐怖が迫ってきた。それは白烏の覚醒が大きい。……遠江と戦えないまま終わる? 冗談じゃない。出し惜しみなどしている場合ではない。


 川原はすっと、今までと違う構えかたをした。


 何だ?


 違和感を桐葉は感じた。初回に得た間とは違う。他のナインが打席で受けた間とも違う。目の前にいるピッチャーは今までの川原ではない。そう感じた。


 川原がセットポジションに入る。右足が上がると同時に、上体が沈んだ。ボールの持ち方、腕の角度、全てが違う。サイドスローだ。


 桐葉の背中より奥から投げられたような、かなりの角度がついたボールがホームベースを横切る。


 ストライーク!


「投げ方を変えるだなんて……。肩か肘壊すわよ」


 伊香保が怪訝な目を浮かべて言った。その目線が届いたのか、ちらりと川原が甲賀ベンチに目を送る。


「……信じがたいかよ。でも、俺らの夢は遠江を倒して全国制覇だ。将来なんて、考えてねえんだよ」


 続く二球目。今度はサイドスローから更に角度がついたスライダーが投げられる。ぶつかると思い、桐葉は思わず身体を引いたが、そこからスライダーは白烏のそれのように急カーブし、外角に決まった。


 あっという間に追い込まれる。


 犬走が守備網をかいくぐって出塁した。ここは何としても先制点を取りたい。


 桐葉は冷静に川原のピッチングを振り返る。サイドスローに変えて、初球はストレート。二球目はスライダー。さすがにサイドスローで球種を3つも持ってはいまい。俺は今までの打席でストレートの打率が高い。ならば、先ほど崩されたスライダーをボールになっても良いところに放ってくる確率は高い。


 ……よし。


 桐葉が両足に力を入れる。『水月刀』だ。

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