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甲賀高校スターティングメンバー
1.センター 犬走和巳
2.セカンド 月掛充
3.ショート 桐葉刀貴
4.ファースト 道河原玄武
5.キャッチャー 滝音鏡水
6.レフト 副島昌行
7.サード 蛇沼神
8.ピッチャー 白烏結人
9.ライト 藤田拓也
控え 東雲桔梗
甲賀は今大会初めてピッチャー以外の打線を組み替えてきた。そこには、伊香保と副島の一悶着があった。
「先発は藤田くんでいけるところまでだと思うわ」
「いや、滋賀学院までになると、白烏やないとあかん」
「1点が決勝点になっちゃうかもしれないのよ?」
「いや、あいつはこの試合でやりよる。白烏でいく」
「わたしは反対だわ」
「俺がキャプテンや」
伊香保が頬をぷうと膨らませて、納得いかない仕草を見せる。伊香保がそう膨れっ面をする気持ちも分かる。滋賀学院はここまで4試合で計2点しか許していないのだ。1点が命取りになる。その考えは決して間違いではない。
それでも、伊香保は怒りを身体の外へ出すように大きく息を吐き、もうひとつの異議を述べた。
「じゃあ、百歩譲って、藤田くんを打線に入れるなら、ぜっっったいに三番だと思う。四番を桐葉くんにして、点を取れる確率を上げるべきだわ」
珍しく興奮気味に伊香保が提案した。伊香保はメンバーを組み替え、滋賀学院のエース川原から点を取れるシミュレーションを夜通し行っていたのだ。
犬走→月掛→桐葉→道河原の並びでは、9イニングで点を取れる確率が14%。これを犬走→月掛→藤田→桐葉と並び変えると28%にまで跳ね上がる。故に桔梗を外して藤田を使うのは賛成だが、はっきり言うと道河原を要らないと伊香保は思っていた。
「……いや、これでいく」
信じられないというように伊香保が首を振る。
「わたしは道河原くんをベンチに置いて、東雲さんを入れる方が良いくらいに思ってる。四番はもうあり得ないわ。桐葉くんの出塁率が台無しになってる……」
副島は腕を組んだまま頑なに首を縦に振らない。そのままゆっくり首を横に振りながら、伊香保に応える。
「過去は、過去や。お前が必死こいて集めたデータを否定するわけちゃうぞ? お前の過去からのデータ分析はほんまに助かっとる。ただな、男ってのは、やるときはやるんや。白烏と道河原はこれから必ず男を上げよる。見とったってくれ。俺が保証する」
伊香保は歯を鳴らしそうになりながら、我慢していた。男を上げるって何なのよ。そんな根拠のないものほど、信じられないものはない。伊香保はそういう性格だ。ただ、副島の頑固さは折り紙つきで、絶対に折れないだろう。自分が折れるしかなかった。
ふぅ。伊香保は頬を叩いてひとつ息を吸い、副島に言った。
「わたしはあり得ないと思ってるけど、もし白烏くんと道河原くんが通用したとしたら、それはそれで面白いわ。研究しがいがある。仕方ない……そう思うことにするわ」
「あぁ、お前が真剣に考えてくれてんのはありがたい。堪忍な。今日だけ俺のわがまま飲んでくれ」
二人して照れるように笑い、橋じいのもとへオーダー表を持っていった。