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ベンチ前に円陣を組む。この円陣も随分と様になってきた。副島が一人一人と目を合わす。道河原と白烏の目が明らかに違う。ついさっき、この二人は埋まったスタンドにも目をくれなかった。こいつら、やっと目覚めよるの。副島はこれから始まる強豪との試合が楽しみで仕方なくなっていた。
「ほな、こっからが本番や。今までやってきた高校とは訳ちゃうぞ。二年と一年だけの理弁和歌山とも比べもんにならん強豪や。しっかり伊香保のデータ見て、昨日休めた身体、爆発させたろ」
おぉっ!!!
野太い声が広大な空を席巻する。続いて大きなプラスチックの音がこだました。ブラスバンドは無くとも、頼りになる音だ。
「相手さんも来たみたいよ」
伊香保が三塁側のベンチへ目を向ける。白地にピンストライプのユニフォームが続々とベンチ前に現れ、一人一人がグラウンドへ深く礼をしている。
気のせいか、一人一人やけに大きく見える。当然身体の大きさ自体もあるだろうが、そこにはもうひとつ、甲賀には無い確固たる自信があった。今年こそ甲子園へ。遠江とあたるまで負ける訳がないという自信が、滋賀学院ナインの身体を一回り大きく見せていた。
「ええ顔つきしとんの。相手にとって不足なしじゃ」
道河原がにんっと笑って、皆が各々のグローブを取ろうとベンチに入った時だった。
副島と藤田を除く全員が咄嗟に三塁側へ振り返った。
殺気……いや、違う。甲賀者たちは鋭い忍の気を悟った。
力を内に秘めると、普通の人間にはその人の秘められた力は分からない。だが、忍には分かる。大きな力を内に秘めるには、より絶大な力が必要となる。内に閉じ込められる力とそれを抑える力、その相反する大きな力が拮抗するところに見えない気が満ちる。それが忍にしか分からない忍の気だ。
背番号18をつけた選手がグラウンドに深く一礼をし、ほんの一瞬だけ一塁側ベンチへ目を向けた。その一瞬で背番号18は一塁側めがけて殺気を放った。その気は目に見えぬ稲妻と化し、一塁側を襲った。
「うっわ、何やこれ! メガホン壊れたぁ!」
甲賀ベンチの上からそんな応援団の声が響いた。
「伊香保……あちらさん、一人とんでもないやつがいるぞ」
白烏が呟くと、伊香保は首を傾げていた。
「一人? 滋賀学院にはトッププレイヤーが三人いるわ。そのうちの一人かしら」
白烏は三塁側ベンチを見つめながら答えた。
「そのうちの一人なんかは分からん。でも、三人のうちの一人ってくくられるレベルとちゃう。もしかしたら、お前も知らんのかもしらん」