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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
13. いざ初戦 甲賀者、参る
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 副島が今考えていることは、大きく道河原の心を傷つけることになる。ただ、それをせずとすると、試合に負けてしまうかもしれない。


 副島は大きな選択に迫られていた。


 滝音がその様子を見て、また声を掛ける。


「副島……独りで悩まず、相談してくれ。俺らも伊香保も、橋じいだっている。抱え込むな」


「そうですよ。皆で悩みましょう」


 藤田も続く。


 皆が悩む副島の周りに集まった。腕組みした副島が皆の顔を覗く。


 


「ああ、ありがとな。正直、迷ってる」


 副島の考えはこうだ。


 桐葉が敬遠されて、1、2塁となる。続く道河原は当たればでかい。だが、やはりまだ、ど真ん中しか打てそうにない。ど真ん中から少しずらされたボールに手を出せば、ダブルプレーで試合終了となる。


 つまり、道河原にはわざと三振させて次の自分に回す方が同点の確率は高い……というわけだ。ただ、それは道河原の心を傷つけることになる。


「……なるほど」


 その場にいる全員が腕を組んで黙った。どちらの選択も辛い。


 ボーーーール


 やはり遠江姉妹社の捕手は立ち上がり、大きく外したボールをキャッチしていた。桐葉を敬遠しての道河原勝負に徹したようだ。


「あたしは、辛いけど、副島くんの作戦に賛成かもしれない」


 伊香保がそう言ったが、皆、何とも言えない表情で賛成とも反対とも口にすることはできずにいた。


 本当に難しい判断であった。


 だが、その悩みを桐葉が吹き飛ばす。


「……ねえ、副島。桐葉くんがこっちに何か伝えようとしてる」


 蛇沼が気付き、皆が打席の桐葉を見た。


 桐葉は手のひらをこちらに向け、待て、とでも合図しているようだ。


 なんだ? 桐葉、何を伝えたい?


 甲賀一の刀使いである桐葉家では、三種の斬撃が代々子孫へ伝承されている。


 瞬時、かつ威力に優れる「水月刀(すいげつとう)


 まだ刀貴が会得していない奥義「竜突(りゅうとつ)


 それに、月掛などの飛翔を得意とする忍者や、天井裏からの襲撃に対応する「舞葉斬(まいはざん)


 この三種である。


 ボーーーール。


 3ボールノーストライク。


 完全な敬遠策だ。


 道河原が気合いを入れて、ネクストバッターズサークルで立ち上がった。副島がその道河原を呼び寄せようと声を出そうとした時、桐葉がまた、大きく副島に向かって手を広げた。


 大きく首を振り、やめろと合図している。


 副島はその合図を信じ、立ち上がった腰をまたベンチに降ろした。


「……あいつ、何するつもりだ」


 ふうぅぅぅ。


 桐葉は大きく息を吐き、居合の構えを解いた。バットを片手でぶらりと力なく持ち、棒立ちしている。


 遠江姉妹社のバッテリーだけでなく、この球場の誰もが、敬遠策で構える必要がないと判断したのだと思った。

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