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両手で顔を覆いながら犬走がベンチ裏へと運ばれていく。すまねえ、みんな。そんな言葉を残して。
一塁ベース付近で、去り行く犬走の姿を皆で見つめていた。
「すまねえ……じゃないよ。犬走くんの執念で繋いでくれたんだ」
蛇沼が唇を噛み締めながらそう言った。無言でみんなが頷く。
甲賀忍者は任務のため、自分の死を厭わない。皆にその血が流れている。あとは残された者がその犠牲を胸に秘め、任務を確実に遂行すしていく。それが、甲賀の掟だ。
犬走の分、必ず逆転する。その任務を今、遂行する。皆、そういった目をしている。
「白烏っ、代走だ」
「おうよ」
「犬走の分、ホーム、踏んでくれ。頼む」
「無論」
白烏の目も鋭さと集中力に溢れている。
副島は込み上げるものを感じていた。半ば強引に野球部に入れたと思っている。こいつら忍者たちは、それにここまで賭してくれるというのか。
副島が皆の目を見ながら語った。
「俺はお前らが野球部入ってくれて、こんなんまでやってくれるなんて、思ってもみいひんかった。俺もお前らとおんなじ気持ちや。一回戦で負けてたまるかよ」
「おおぉっっ」
打席に月掛が入る。
必ず、繋げてやる。バットでヘルメットを叩き、グラウンド一番の小兵は気合いを入れた。
ベンチでは、伊香保が目に涙を浮かべていた。
「アキレス腱、両足ともだなんて……。そんな無理をして……」
滝音が伊香保の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫だ。うちには東雲がいる。なあ、そうだろ?」
桔梗が滝音にウインクした。
「ふふ、さすが滝音家。よくご存知で」
伊香保は溜まった涙を拭いて首を傾げた。