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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
13. いざ初戦 甲賀者、参る
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 スクイズを失敗した打者はベンチから監督のサインを受け取って、何も無かったかのようにまた構えた。


「藤田くん、良いボールいってるよー」


 ライトから桔梗が大きな声を出す。藤田はその声にまた自信を深めた。頬を赤らめる。


 滝音はボールになる球を要求した。同点を阻止したものの、三塁ランナーは生き残った。その雰囲気の地味な怖さを滝音は感じていた。桐葉と副島が感じているものに近い。慎重にいくべきだというサインだった。


 藤田は首を振った。せっかくスクイズを外したんだ。ここで弱気は駄目でしょう? 滝音へ逆に藤田が訴える。


 滝音は一旦ミットを見つめながら迷い、ここは自分の警戒心より藤田を信じた。確かに今日の藤田のボールは最高だ。ヒットを打たれる感覚はない。何かを振り払うように滝音はミットを大きく叩き、ストライクゾーンにミットを構える。藤田がストレートを投げ込んだ。


 低めの良いコース。ノビもある。


 バッターは何とか打ちにいくが、バットの根元にかろうじて当てただけとなった。二塁へボテボテのゴロが転がる。藤田は満足そうに小さくガッツポーズしたが、当たりが悪すぎて月掛が捕球したタイミングでは、スタートを切っていた三塁ランナーをホームで刺すには間に合わなかった。


 1ー1の同点。ツーアウトランナーなし。


 ヒットはゼロ。フォアボールもたった1つ。明らかに藤田は遠江姉妹社を抑え込んでいる。だが、スコアは同点となった。この意味をナイン全員が共有できるか。これがこの試合のポイントになる。副島はスコアボードを見つめながら、レフトからナインの姿勢を確認していた。


 同点のまま、藤田はスリーアウト目をあっさりと取った。同点に追いつかれたものの、藤田の投球は見事だ。疲れの心配も今日の試合では感じさせない。軽くハイタッチを交わしてベンチに戻る。


 三回裏の攻撃に向かう前、副島は厳しい表情でベンチ前にみんなを集めた。


「同点に追いつかれてもうたぞ。こっから気合い入れんと一気に飲まれるぞ」


 敵の力量を測れる桐葉と滝音が小さく頷いた。だが、他のナインは唇を尖らせている。


「あのさぁ、藤田くんヒットすら打たれてないし、もちょっとイケイケでいいんじゃない? 副島くんは相手をリスペクトし過ぎな気がする」


 桔梗がそう言うと、他の五人が一斉に頷いた。


「そうすよ、せっかく俺と犬走さんで一点取ったのに、わざわざ萎縮し過ぎなんすよ。相手も理弁和歌山ほど強くねえっす」


 月掛がけしかける。


「ちゃうぞ。これが怖さや。このノーヒットでも点を取ってくるってのが強豪校の強さなんや。伊香保のデータ頭に入れながらこの回に点取るで!」


「……うん」


 蛇沼が仕方なさそうに応えたが、道河原などは警戒し過ぎに見える副島へあからさまに不満な態度を取っていた。


 小さな亀裂は時として大きな決壊を生む。


 副島、桐葉、滝音の三人は危機感を感じない六人に少しの苛立ちを覚えていた。道河原、蛇沼、犬走、東雲、月掛、それに藤田は、逆に相手をリスペクトして副島がチームの勢いを殺しているとさえ思っていた。甲賀ベンチはどんよりと曇った。いつも明るい甲賀ベンチとは様相が違った。


 相手の長所を消す。これも立派なゲームプランである。遠江姉妹社がここまで考えていたかは定かではないが、徐々に甲賀はらしさを失っていった。


 三回裏はあっさりと三者凡退となってしまう。

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