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甲賀忍者、甲子園へ行く[地方大会編]  作者: 山城木緑
13. いざ初戦 甲賀者、参る
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8

 バッテリーはその雰囲気を察していた。必ずやってくる。この得体の知れないチームに先制点を与えるのは良くない。


 キャッチャーは大きく外角に外す選択肢を選んだ。月掛がウズウズしているのがキャッチャーに伝わったからだ。初球からのスクイズは大いにあり得る。


 頷いたピッチャーが三塁上の犬走を一瞥しながら投げる。やはり、犬走はスタートを切った。スクイズだ!


 犬走のスタートを確認したピッチャーはより大きく外角に外した。キャッチャーは、よし!


と心の中でガッツポーズし、捕ってすぐに犬走へタッチするイメージを描いた。


 が、そのキャッチャーの目の前を何かが遮った。人が、飛んでいる。


 完全に宙を飛んでいる月掛にキャッチャーは驚くが、どうしようもない。どうやっても届かないコースへ投げているのに、それを越えて飛んでいる。キャッチャーは三塁を見る。こちらも信じられない光景だ。もう、犬走が目の前にいる。ホームスチールでもセーフじゃねえか。どうなってんだ、このチーム……。


 月掛が飛びながらバットに当てる。グラウンドにぽとりと落ちたと同時に犬走がホームへ滑り込んでくる。なす術なく、ボールを拾ったキャッチャーが一塁へ送球した。


 たった四球。電光石火の先制点が甲賀高校に入った。甲賀ベンチ、それに奥に佇む橋じいもこの見事な先制攻撃に拍手を送った。


 野球に限らず、スポーツには「流れ」がある。科学的に根拠はないものの、明らかにこの「流れ」という要素でスポーツの勝負が分けられる場面をよく目撃する。


 この不確定な流れという要素に、強いチームほど敏感でもある。


 たった四球。ノーアウトランナーなしの状況で、遠江姉妹社の監督はベンチから出てきた。


「ピッチャー、交代で。ピッチャーがライト。ライトが退きます」


 淡々とそう告げた。


「えっ?」


 甲賀ナインが一斉に驚きの表情を浮かべる。対して、たった四球しか投げていないピッチャーは顔色ひとつ変えずにライトに向かって走り、代わった左ピッチャーもまた、無表情で投球練習に入っている。


「伊香保さん、あっちのライトだった人って何年生なの?」


 不意に蛇沼が伊香保に訊ねた。


「ベンチに戻った選手? うーん、三年生……だね」


「じゃあ、あのライト……もし、僕たちが勝ったら何もせずに終わりってこと?」


「……そうね」


 まだまだ野球を知らない甲賀ナインにとって、相手の作戦にとやかく言うことはできないのかもしれない。ただ、皆が腹の底にもやもやとするものを感じずにはいられなかった。

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