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「……甲賀高校?」


 昼間からビール片手に県予選を観戦する酔っぱらいが呟いた。


 人もまばらな尼崎球場では兵庫県予選の準々決勝が行われている。応援団の声が高い空にこだまして、グラウンドの球児たちは今日も眩しい。


 酔っぱらいは、ビールを持つもう片方の手で器用にスポーツ新聞を折り曲げながら読んでいる。


「滋賀学院に勝っとる。聞いたことないで」


 新聞の右隅に細かい字で各地方の県予選の結果が掲載されている。酔っぱらいは滋賀県予選準決勝の結果に思わず声を出した。


 滋賀といえば、昔は群雄割拠で毎年出場校が変わっていたが、もうここ十年ほど滋賀学院高校か遠江高校のどちらかしか甲子園には出ないと言われている県だ。


滋賀学院3-4甲賀


「……まぁ、でも決勝は遠江や。今年の滋賀は遠江で決まりやな」


 酔っぱらいが新聞を捲ろうとしたとき、後ろから新聞がつままれた。


「あんさん、滋賀見たか?」


「ああん?」


酔っぱらいが振り返った先には、もう一回り酔いが回っている酔っぱらいが立っていた。


「あんさん、今、滋賀は遠江や言うてたやろ。甲賀の野球、見てへんのかいな」


「滋賀までよう行かんわ。わし、金無いさかいの。大阪の大阪桐心おおさかとうしんが見れたらそれでええねん。今年の大阪桐心はえげつないしやな」


 酔っぱらいはもっと酔っぱらいに向けて抜けた歯を見せながら言った。


「あんさん。あの甲賀ちゅうとこの野球、見たらおもろいで、ありゃ。遠江もひょっとしたら食われよんど」


 酔っぱらいより酔っぱらいは誇らしげにそう言った。酔っぱらいはビールと唾をだらしなく吐き出しながら、負けじと誇らしげに応じた。


「甲賀が忍者かなんか知らんが、遠江には大野いうピッチャーおってなあ。ありゃ大学行ったらドラフトもかかりよんぞ。滋賀は遠江や」


 酔っぱらいが自慢げにそう言うと、更なる酔っぱらいは鼻で笑った。


「大野は知っとるわ。その大野が負けるかもしれんちゅうこっちゃ」


「ほな、明日楽しみしとくわな。遠江やったらなあ、これ、奢ってもらうど」


 酔っぱらいが空になったビールを振り振りして更なる酔っぱらいへあかんべえをした。




翌日、



甲賀9-2遠江


『甲賀高校、部員たった二人からのミラクル初出場。遠江高校150km右腕大野投手、最後の夏、散る』

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