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蝶の缶詰  作者:
7/10

腐ったゴミ


...


小学校の頃、好きだった女の子がいた。

可愛いと言われたら可愛くはないし、不細工と言われたら不細工ではない。


キツくない切り目な猫みたいな顔をした、どこにでも居る優しい女の子。


ただ消しゴムを拾ってくれただけだったのだが、純粋な子供が恋に落ちるのには容易いのだ。

けどまだクラスの女子に告白するのは恥ずかしいというかアプローチするのも周りにバレたら恥ずかしい。


ので、ある日の放課後、教室には俺一人しかいなかったのでその女の子の体操服の匂いを嗅いだ。

魔が差した。と、でも言うのだろうか。誰か来るかもしれないというスリルと、ダメな事をしている罪悪感が混じり合う。

その時にある異変に気づいた。


下半身が熱い。


何も知らなかった俺は罰として苦しめられているのだと思い泣いた。

好きな女の子の体操服なんて勝手に嗅ぐんじゃなかった。嗚咽が止まらない。


けどそれは一瞬にして気持ちいい事だと理解した。


解き放たれるってこんな気持ちなんだ。

びくんびくんと身体が痙攣を起こしながら俺は幸福を味わった。


俺は十分に堪能した後、体操服を切り刻んだ。置いてある筆記用具、道具箱も女子トイレに捨てた。リコーダーも上の部分だけ持って帰り、教壇の上に置いた。


黒板にあの子のデタラメな噂を書いた。

信じる奴なんかいない、と思っていたんだがのちのち聞けば信じてた奴もいたらしい。


なんでこんな事したかったって?その時、気分が上がっていたんだ。

それにほら、好きな女の子をめちゃくちゃにしたいだろ。


次の日、俺の好きだった女の子は泣いていた。


犯人がバレるかどうか心配だったが、学級会だけで終わってしまった。

誰が目閉じてるから犯人は手を挙げてだよ。

言うわけねぇーだろ、ばあか。


その後中学に入り、俺の恋は続いていた。


違うクラスにはなってしまったが、勿論体操服の匂いは嗅ぎに行っている。

いつもは洗剤のいい匂いがするが、体育の後のあの子の匂いは汗の匂いがたまらない。


よし、持って帰ろう。


宝物にする為持って帰った。

あの子はまた泣いていたけど、犯人は見つからない。俺は学校でまた買ってくれた体操服と持ってきた体操服を家でも嗅いでるようになった。


あの子が図書委員になった。

俺は毎日図書室に通うようになった。あの子が借りた本を全部読んだ。


童話ばっかりで、ハッピーエンドの話が好きらしい。


何年何組と名前。それしか話さない。

けどなにかきっかけが欲しかった。


「田中君って本好きなの?」


何か気まぐれに好きな女の子が、話しかけてくれた。

毎日来てるからだろうか?


「ご存知の通りかと思うけど」君が本が好きだから読んでるよ。

「サッカー部のエースだよね? 体動かす事が好きなんじゃないの?」サッカー部はモテるからほかの女子にモテてもし君が僕を好きになってくれた時自慢できるようにサッカー部に入ってんだ。

「オフの日とか、暇な時に読んでるよ。携帯とか持ってないし」君の知っている世界を知りたくて。


「ふーん」


と、ひとつの本を差し出された。

文庫本で表紙に泣いている男がいた。


「これ、おすすめ。田中君、童話とか好きでしょ? 」


俺は告白されてしまったのではないか?

ずっと片思いだった相手から好きと言われて、フリーズしてしまった。


その後の記憶はないが、上手く話せたのだろうか。

俺はその本を読んだ、


メリーバットエンド。


例えば、ある観点から解釈すると不幸、悲劇的な結末だが、別の観点から解釈すると、幸福、喜劇的な結末であること。


お姫様が国を幸せにする為に自殺するんだけど、お姫様は生まれ変わって好きだった庶民と結ばれる話。


素敵な話だと思うのは君がおすすめしただからなのかな。その本は精子まみれにして、お小遣いで新しい同じ本を買っ手返してまた同じ本を買った。

飽きるまで読み返した。


その日から俺達はよく喋るようになった。

本の話題しかないのだけれども、それでも彼女はよく喋ってくれた。


夢を見ている気分だった。

体操服でしか繋がれなかった夢見た少女がこんなすぐ近くで話しかけてくれる。


高校も同じ所にいった。

学校に居る時はクラスの奴らと喋っていたが、サッカー部と図書委員が終わる時間が一緒だったから、放課後はよく一緒に帰って話をしていた。


本以外にもくだらない話でよく話していた。


昨日の晩御飯の話、先生がうざい、勉強のここがよく分からない、家族の話、これからの話、星の話、クラスでの人間関係とか。


何もかも傍から見たらつまらないだろうし、くだらないとは思うけど俺は話すのが苦手な君といられたら楽しかった。いろんな表情を見れて愛くるしく思えた。


どこか遊びに行ったりはしなかったけど、サッカー部の大会にも応援しに来てくれた、ひっそりと来ていた君を見つけた時は心が踊ったしかっこ悪い姿なんて見せれなかった。

優勝した時に君が泣いてて、本当に好きだなあって思えたからやってて良かったと思えた。


バレンタインデーは毎年貰えなかったけど、君といるだけで幸せだと思えた。


俺は卒業式に告白しようと決意していた。


けど、そんな決意と日常に終わりが告げてしまった。君は突然、高校生三年の冬。退学してしまった。

連絡もつかない。君の家に尋ねても誰もいない。どこにいるんだ。


それから視界が灰色に見えた。

絶望。いきなりいなくなることはないだろう。

君との繋がりを忘れたくなくて君の体操服とあの時貸してくれた本を毎日握りしめて読んだ。


そして年月は流れる。

俺は普通に生活して、普通に生きていた。

彼女の事は忘れた事なんてなく、ただただ大学を入学し、社会人になった。


親にもうそろそろ結婚とか考えたらどうなの?と心配される歳になってしまったがそんなの考えられなかった。

いいよってくる女はいるが、彼女が頭から離れなれない。


ふと涙が零れた。


彼女のいない世界なんて意味が無いのに。

なんで生きているんだろう。

彼女はいないのに。

なんで普通に生活してるのだろう。

彼女をまだみつけてもいないのに。

なんで、君はいなくなってしまったこだろう。


あの輝かしい世界から腐敗していく世界にいる俺はどうしたらいい。


そのまま泣き疲れて寝てしまい、俺はこの時後悔した。

寝ている時に着信があったが、寝てて気づかなかったらしい。


不在着信のメッセージ一件、それは少し大人びた君からだった。


「もしもし、田中くんの電話であってるよね? 久しぶり、覚えているかな。本当はこのまま消えてしまおうって思ってたけど、諦めがつかなくて。幸せになろうとか未だに思ってて。けど、さっきね、泣いてて思ったの。田中くんにお別れ言わなきゃって。いきなりごめんね、あのね、私ね、高校生の時1週間ぐらい監禁されてレイプされたの。ずっとずっと怖かった。けどこんなの誰にも言えなかった。家族にも言ってない。多分、小学校の頃から薄々思ってたの。私に対する誰かの歪んだ愛情が、小学校の頃からなんでか女子からいじめを受けてて、高校生になってもいじめられてて。田中くんは知らなかったと思うけど、女子って陰湿だから。けど中学と高校から田中くんに救われたんだあ...。好きな本に田中くんの借りた後があってね、ああこの人は本が好きじゃだけじゃなくて、私と好きが一緒なんだなあって。しかもかっこいいし、優しいし、けど少し変わり者でみんなの人気者。私とは正反対なのに独り占めしてるような優越感に浸って。そんなおかしいって思ってはいたけど抜け出せなくて。帰り道は楽しそうに話してくれたの時ね嬉しかった。ああ、同じ気持ちなのかなあって想像出来て。友達以上になれるかなって。だから私この後ね、この子と死ぬんだ。レイプされちゃった時に子供出来ちゃったみたいでね、可愛いんだ。本当に。可愛くて、私が母親なの、可哀想だから一緒に死んであげなきゃいけなくてね。田中くんが止めてくれるなんて考えてもないよ。だって、田中くんは私の事何にも知らないもん。ううん。なんにも知られたくなかったんだけど、こんな事好きな人に言うのおかしいよね。けど田中くんなら、田中くんはこの話が聞きたかった気がして、私の事をわかろうとした田中くんが大好きだったから」


何年前の君からの声は、悲壮なバッドエンドの話だった。


けどこんなのハッピーエンドじゃない。

ハッピーエンドじゃない。ハッピーエンドじゃない。メリーバットエンドですらもない。


「田中くん、今まで私なんかと仲良くしてくれてありがとう。最後にキスぐらいはしたかったかな。あはは。ごめん、冗談。じゃあ......ばいばい」


電話が切れた。

俺はすぐさま中学時代の時の君の体操服を使って自慰行為をした。その後切り刻んで、紐を首を巻いてそのまま吊って自殺した、やっぱり君のいない世界なんて用がない。


天国から君と君の子供に会いに行こう。

そしたら、幸せなキスをしよう。手も繋ぎたいから手も繋いで天国に散歩しよう。

子育てとか俺した事ないけど大丈夫だよなきっと。

メリーバットエンド位にはなれる。君の好きだった結末へとなれるはず。


そしたら、そしたら、きっとこの汚い生ゴミの様な匂いが俺らから取れるはずだから。

腐ったゴミなんだって。ずっとここにいて私は腐っていくんだって言われたの。そんなの生ゴミと変わらないじゃない。私の人生は生ゴミ以下だったんだ、って言ったら貴方はそうだねって笑ってそのまま去っていった。私は今もここで回収されるのをずっと待ってる。缶詰にされなかった私はずっとこのゴミ置き場で腐って腐敗臭を漂わせながら、好きだった人が来るのをずっと待ってるの。貴方は何を待ってるの。希望がなんてないこの世界に。

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