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蝶の缶詰  作者:
4/10

よんわ!


...


か細い小さな産声をあげ、君は産まれてきてくれた。

霞んだ目で看護師の手の中にいる赤ん坊の顔を苦痛なんて忘れるほどの幸福感を経た。


私は母親として生きていくんだ。

大切に育てていこう。あの人はもうどこかへ消えたけど。君はいらない子なんかじゃない。君はいらない子なんかじゃない。君はいらない子、なんかじゃない。絶対に幸せにしてみせる。私のこの人生を捧げよう。


この子は缶詰なんかにはさせてない。

愛する人との、最後に残された形なのだから。


...


友達と遊んでから家に帰った、するとママがおかえり~って抱きしめてくれた。


美味しそうなカレーの匂いが空腹を誘う。

リビングに向かい、ママを抱きしめる。


「お~、元気か~? ママ」


後ろから声がした。


思わず振り返った。

この時にボクは鍵を閉め忘れてしまったらしい。


長身で、歳は大学生ぐらい。顔に龍の刺青が入っている。いわゆるヤンキーみたいな。

けど、目が魚みたいに死んでいる。


お母さんはボクが帰りが遅くなって怒っていた顔より、もっと怖い顔で僕の後ろを見つめていた。


「なんで、なんで、なんで」


ずかずかと靴のまま入っていき、赤い入れ物に灯油をもっていた。


「久しぶりだなあ! そして、さよならだ」


灯油を一気にばら撒き、すぐ様ライターをつけた。


火の中にボクとママと男はいた。


お母さんは泣いて、ごめんね、ごめんね、とずっと言ってて、ボクを抱きしめる。


死ね、ってゲームでよく友達がキャラクターに向かっていってたけどお母さんはそういえば事言うのやめてほしいって怒られたからいわなくなったけど。


これからボクは死ぬんだ。


いやだ。いやだ。

怖い、暑い、溶ける、死にたくない、焼き焦げる。


けど、火って。

周りに包まれてる炎がメラメラと近寄って、まるで生きているかのように光っている。


……綺麗だなあ。


僕達はこれから灰になる。お母さんは僕の近くにきて、ボクを抱きしめた。


「なあ、俺の子供ぉ。恨むならお前を産んだお母さんを恨めよなぁ!あんなに痛めつけたのに、お前はいらない子だったくせに産んじまって、堕ろすっていったのによ! このクソ女が! 」

「そうね。恨むなら私にしてほしい。けど私は誰よりも優しかった貴方を愛してたのから、あなたも悪いじゃない!なんで! ねえ! なんで! なんで産んじゃいけなかったの、なんで、こんな事するの!」

「うるさいうるさいうるさい!」


もうすぐ死ぬんだ、ボクは綺麗に揺れる炎を見ながら怒っている二人の会話をぼんやり聞いていた。


こんな景色見たことない。


ああ、死ぬんだ。ボクは。

ゲームのデータみたいに消えてしまう。


まあ、ママと一緒ならいいかなあって、マザコンってよく言われてたけど、マザコンで何が悪いの。


「なあ俺達はここで死ぬわけでない、缶詰の子供達が回収にやってきて半焼けになった俺達を缶詰にされるんだよ」

「何言って」


男はボク達を抱きしめた。


「俺はお前達を愛してた、けどもう無理みたいだ」


ボクはここで意識を失った。

そこで、ボクは、お母さんとお父さんを失ってしまったんだ。


......


缶詰、とボクのパパは言っていた。


ボクは家族に愛されていた。

けど、二人とも死んじゃったあと、ボクはある暗くて冷たい空間に閉じ込められていた。


唐突に腕に注射を打たれたような、いや、これは打たれていた。


白衣を着た芸能人のような綺麗なお姉さんが僕の腕を掴んで注射を打っている。


あれ。頭がクラクラする。


意識がまた途切れ、また起きた時注射を打たれ、意識が亡くなり、を繰り返し繰り返し、あの日から炎に包まれていたボクは、その日からサンプルとして、いろんな薬や注射を打たれた。


……


ボクは殺されなかった。


寧ろ、生かされていたに等しい。


現在進行形で薬漬けではあるが、人間を手に入れるには難しいらしく、しかもただの人間ではなくあの工場の子供はもはや区別がつかず見つけるのにも苦労したと綺麗なお姉さんは嬉しそうに語る。


お母さんとお父さんは缶詰にされる予定だったがボクを庇って灰になってしまったらしい。


缶詰って、あの果物とか入っているやつだよね?なんで、そんな目にあわなきゃいけないのだろう。


怒りがこみあげてきたが、ボクはこの楽しそうに語るお姉さんの事が好きになってしまったので何も言わなかった。


この綺麗なお姉さんは見た目が天使のようだった。

銀色の髪、白い肌、白衣、とピンクの目以外全て真っ白でたまに羽が生えているんじゃないかと思う。


やっている事は悪魔だけど。


「君はここから、出たくないの?」


お姉さんが問いかけたけど、ボクは答えれなかった。


お母さんが、ボクを堕ろさなかったのはお父さんを愛していたから。


お父さんが、燃やしたのはお母さんとボクを愛していたから。


だから。ボクは。


......


ボクは20歳になった。


毎日注射を打たれる日々だったけど、教養や食事、娯楽などが与えられた。


綺麗なお姉さんも仲良くなって、少しずつ話せるようになって、お互いに愛し合っていた。


お姉さんは工場の子供であるが、アルビノという貴重な人間であり、また非常に頭が良くて、工場の作業員として雇われているらしい。最後には食われるらしいけど。


この施設の事も教えられて、基本的には最初にいた部屋にいたがお姉さんの付き添いで大体の


ボクは今日、待ち望んでいた冬を迎える。


お姉さんの誕生日だったから、お姉さんは外にいる。1年で1度しかない自由の日らしい。


ボクは、その日、ボクに注射を打とうとした初めて出会う女を殴り殺し、ポケットに入っていたスマホで電話で警察を呼んだ。


子供に教養をつけたの、バカにもほどがある。ボクみたいなやついるかもしれないのに。


殴り殺した女の白衣を着てボクは外に出た。


何回かお姉さんと施設を散歩したから、灯油とマッチがある所は把握している。


この悲劇を、僕が終わらせなきゃいけない。


ボクを愛してくれた、お母さん、お父さん、お姉さんの為にも。


僕はお父さんと同じように、灯油をばら撒き少しずつこの長い道に火をつけた。


一気に燃えるから早く、早く、燃やさなきゃ。


ボクは走る。

この醜い工場が燃えていく、あの時のような綺麗だなあって思わないけど、スッキリしたような気分になった。


いろんな人が僕を止めようとしたけど、ボクは燃やしたからだれもとめるひとはいなくなった。


子供は助かっているだろうか?

いや、もう、助かっている頃だろう。醜い大人だけ燃やされていくんだ。


ここの施設は子供第一優先だから、死ぬわけない。


最後の部屋についた、ベット以外なにもない君の部屋。

ボクは君の幸せと君の愛した子供達を救えて良かったよ。


ボクは、幸せになれたよ。

ありがとう。


ああ、暑いなあ。


……


「あの時事実は隠させれてしまったけど、工場は警察が入ったあと燃えたんだよ、俺達が子供を救助している時にな。何故工場が燃やされていたのを隠したって? 知らねーよ。てか、犯人ってことはお前把握してるんだろ? 俺に聞く必要なくね?」


「いえ、あります。私には貴方に聞くべき義務があるの」


「ああん?」


「貴方は、私を知ってるのはず」


「いや知らねーよ、てかもうすぐ注射打つ時間だから帰ってくんね?」


「うん、帰るよ。けど最後に言わせて。私貴方のこと一生愛してるし、一生恨んでるから。返して。返して欲しかった、私の子供を」


「……あー、お前知ってるわ。記憶喪失フリしてたけどなー。ごめん。けどな俺は、知っての通りあいつじゃねーよ。あいつはもうとっくに死んじまった。俺はもう一つの人格だからわからないだよ。お前の顔も過去の話も、お前の大事な子供も。こんななりして警察してるけど、俺のもう一つの人格は糞最低な男だった。俺はお前の事を愛してはないけど、もう一つの俺はお前の事大好きでいつもいつも頭の中でお前とお前の子供の名前を叫んでいた。けど早く殺さないと缶詰にされちまうってビビっていた。缶詰事件、知ってるよな? お前の子供がそこにいたって事は相当調べたはずだ。政府はある程度隠しているが俺はあそこの子供だった。あいつも。もともとは双子だったんだよ。あの時何があったのか、なんで俺はまだ病院にいて放火した犯人にされたのかさえわかんねえけど。いや、この事件はなかった事にはされてるけど。けどお前の子供は、子供たちを救ったんだよ。俺はわかる。あれは計画的に行われた放火だった、だから子供達だけが生きていたんだ」


「……そんなの、知ってる。全部知ってる」


「なあ、じゃあ、何を聞きてえんだよ」


「あの時、なんで燃やしたの。なんで私は生きてるの、その二つを聞きに来たの」


「そりゃあ、理由は愛していたからじゃねえーの? 相思相愛だったんだからお前の方がわかんじゃねえーのか?」


……


ボクは目を覚ました。


自然と小さな声をさけんでしまう。


怖い、ここは、どこ?


見た事があるピンク色の目がこちらを見てにこりと笑っていた。


……


残された私は、君の精子を使って妊娠して、新しい身体へと精神に移動を成功させてた。


成功したはずなのだが、やはり記憶は思い出せないらしい。


少しずつでもいいから早く思い出して欲しいな。


「✕✕...?」

「え...?」


すれ違った女が言った。

その女は私の隣にいる子供に名前を言ったのである。


「あっ、ごめんなさい。人違いでした。その、ごめんなさい!」


スタスタと走っていった少し歳をとった女が、私の愛していた男の名前を言った。

いや、まさか、ありえない。


聞き間違い、だよね…?


その女の背中は小さくなっていき、姿を消した。

追いかけられなかった。追いかけたくなかった。


追いかけたら、この子があの人についてしまうような気がして。

この子は、私の子供なの。


私は小さな掌を握ってそのままお家へとかえった。


私は母親として生きていくんだ。

大切に育てていこう。あの人はもうどこかへ消えたけど。君はいらない子なんかじゃない。君はいらない子なんかじゃない。君はいらない子、なんかじゃない。絶対に幸せにしてみせる。私のこの人生を捧げよう。


貴方がそうしてくれたように。



輪廻転生は死んであの世に還った霊魂が、この世に何度も生まれ変わってくることを意味する。

何者かであるか、何者ではあったか、覚えている事は稀であるが、輪廻転生は行われていると一部の人間には信じられている。


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