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蝶の缶詰  作者:
3/10

さんわ!


絹のように真っ白な部屋に僕と二人きりの時間が流れさってゆく。

僕は二人で絵を描いた時間を思い出す、一人でも二人でも絵を描くことに出来は変わらないけど、誰か一緒に黙々と作業のは僕は嫌いではなかった。


「ねえ、私の尊敬する小説家、君も読んでみてよ」

「なんて小説家?」

「沢山いるよ。走れメロス書いた人と、我輩は猫であるを書いた人と、カインの末裔を書いた人。私、昔から好きだったの」

「ふぅん」


僕は軽く頷いた。

あまり本を読まないから作品の名前を言われてもわからない。

けど確かみんな、自殺した人だ。


「作品だけじゃないよ? 私が好きになった人はみんな死んじゃうの。過去も未来も今も。えとね、この人たちはよく不幸だの理不尽だの、あーだこーだで自殺されたと言われているけど私は不幸や理不尽で自殺しようとする人たちだとは思えないだよね。この人たちはきっと、愛されたかったんだよ、愛されるのが怖かったんだよ、生きるのも死ぬのも怖かったたんだよ」彼女は言う。「小説も絵も結局は真似事に過ぎないけど、心も道徳も夢も、結局は真似事に過ぎないからね。人間だって自殺した人がいるから自殺したんでしょ?」


言葉が出なかった。

彼女はクスって笑うと、目を閉じた。


「模倣で終わる物語なんだって言われたこと前にあるの、ここで死んでも生きていても名を残しても意味がないって。でも私は生きたいな、ずっと生きてきたから続けたいの生きること」


吐く息と共に、


「ねえ、私は生きていていいのかなダーリン」


そう彼女歯茎丸出しで笑っては問いかけた。

それは僕にはわからない質問で、僕には理解出来なくて、僕は答えられなかった。

風が吹き、真っ白なカーテンがブワッと揺れる。

彼女は悲鳴をあげた。


「あ”あ”あ”あああい

ああああああああああああいいいいいいっっ??!!!!!あ”あ”あああああ”ああ”あああああああ”!!」


彼女の長くて綺麗な黒髪をたなびかせ見惚れるほど綺麗であった。

でもそれは残酷でありすぎたから僕は一時作業を中断して窓を占めた。

はぁはぁと吐息を荒げる彼女を見て僕はふと尋ねた。


「僕のこと嫌い?」

「......うん、大っ嫌いだよ」

「じゃあなんで怒らないの? 君は僕を殺したくてしたがないのにとっても憎くて僕を愛しているのに?」

「うん、そうだね。でもね、息をするごとに痛くて、痛くて、もう、笑うことしか出来ないだよ」


にぃっと肉片が横へと傾く。

ここには看護師さんはあまり来ない、何故なら彼女が目に当てられないほど醜い姿をしているから。

食事は僕が運ぶことになっている。

彼女には動ける四肢はない、僕が食べたから。

美味しかったよ? すべすべしていて。

次に全身を包み込むぶくぶくと膨れ上がった肉の塊がどくんどくんと鼓動をうっている。

彼女には皮膚がない。

キャンバスの紙にしたから。

彼女には目がない。

この汚い世界を見ないため。

彼女には声がない。

今までのはフィクションである、ちゃんちゃん。

真実は彼女は醜い。

僕が穢したから。

ぐちょぐちょになった君を見て、君を愛していた家族は気持ち悪いと行ってこの病室捨てたけど、君が大好きな絵を書けられなくなって、何もすることがなくなって、生きることの意味をなくしてもなおまだ生きて君を滑稽だと人は笑うけれども。


僕はそれを恥ずかしいながら美しいと思った。


キャンバスにその美しさを描きたくて僕は泣きたくなるのを我慢して必死に君を描く。

キャンバスと筆がディープキスをするように、頭が真っ白になる、勝手に手が動かれている。

この手が悴む前に完成させると心に誓った。


「確かにこれは模倣で真似事に過ぎないけど、この君の美しさは模倣でも真似事でもないよ」

「えへへ、ありがとう。愛してたよ、ダーリン」

「僕は愛してるよ」


彼女の心臓をペロリと舐めると喘ぐのがこれまた好きな所の一つなんだよ。

彼女の美しさは何も肉片だけではない。

美しさとは僕は彼女に出会う前は最初は馬鹿げた創り物で幻かと思っていた、けどこの世界には底知れぬ美しさを持つ君がいた。

君は美しい。絶望している恥ずかしい君も美しい。

それだけで僕は救われたんだよ。

僕を襲った感情は喜怒哀楽ではなく、救いなんだ。

君がいたから、見つけたんだ。

愛のカタチを。

君は知らないかもしれないけど、結ばれたり、離れたりするけど、結局は結ばれる力を持つ僕らは繋がっているんだよ?。

白から赤く塗り潰されて、赤から黒へと塗りつぶしていていっていくのを愛しく眺める。

赤と黒の絵の具が恋に落ちたかのようにねっとりとまざりあって一つ一つ丁寧に、君を描く。



今ここに、僕と君の愛がここに存在している。

愛って簡単な感情だけど、こんなにもあたたかいものなんだね。

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