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蝶の缶詰  作者:
2/10

にわ!



「今でも、生きるのが辛いの、息をするのが。

一人でいる時も、家族で居る時も、友達と居る時も。とても息苦しくて。

小学校の頃にみんなの前で発表すると心臓がバクバクうるさくてなにも考えられなくて真っ白になる感覚、先生が間違えてもいいからって無責任な事を言ってるんだけど、このまま、生きていたら、間違えたら、終わりな気がして。

ふわふわしていて、ふわふわ、というかほんのりというか、漢字のドリルとかやってた時に何してるんだろとか思っちゃったり、かっこいい子がかっこいいなって思えなかったり、可愛い子を可愛いと思えなかったり、泣いてる子が可哀想だと思えなかったり、笑っている子がどうしてそんなに幸せそうに笑ってるんだろって、わからなくてわからなくて、なにもわからないのに進んでいく時間が、周りに合わせて生きてきたんだけど、何もかもわからなくてわからなくて嫌だった。


ずっと、ずっとずっと悩んでいた。


誰かが悪い訳じゃなくて、ただ自分が正常じゃないって幼い頃から気づいていた。

一度、中学生の頃死のうと思って、屋上から飛び降りたんですけど無事で。

家族にこんな事やめなさいって物凄く怒られました、私は普通の家庭に生まれてきたのでそこそこ愛されていたよ。

家族はなにも悪くなかった、と私はその行為が浅はかなと実感しました。

けど歩く度に、地面にはつけなくて、吸い込まれていくんです。

真っ黒な塊が私を飲み込んでいくかのような、生きていたらそのまま飲み込まれていくかのような。

けど、せめて私はこの人たちの幸せを邪魔してはいけないと思い、私が大人になるまでこの地獄のような世界にいようと決心いたしました。消えたい。消滅したい。滅びたい。この世を去りたい。死にたい。逝きたい。

虫を踏んだ時にぷちって出る液体が体中にまとわりついて、感情が溢れて出てる。

魔物なんだ、私。

そのことに気づくのに遅くなってしまったけれども。


けど私、この生ゴミが溢れ出てるゴミ箱みたいな世界で宝物を見つけたの!


初恋。私のこの気持ちは文字に表すと初恋。

高校生の頃に出会ったの。

はじめてこの人を見た時何とも思わなかったのだけど人間の振りを一生懸命してた時にある事が起きて。


一度ニュースになったじゃないですか。

知らないかな、人間の肉の工場。

貴方たちのお母さん達が生きていた場所。

悪食になってしまうウイルスがクラスメイトに感染して、そのクラスメイトが襲いかかってほとんど死んでしまったあの日。

なんで私は襲われなかったのかはずっと分からなかった、だってみんな死んじゃったんだよ。

私より幸せそうに笑っていた子、笑う意味を知っていた子、生きる意味を知っていた子も。

生きていたの私とその彼だけなの。

彼は泣きながら言ったわ。やっぱり僕は幸せになんかなれない、なってはいけないって。


最初は意味が分からなかったけど、その彼が苦しそうにしているのを見て、好きだなあってい思ったんだ。


私あの学校が閉鎖した時、彼の事ずっとおいかけまわしてたんだ。

そばに居た、この人が生きていた時までそばにいたの。私の事は全然知らないままね、車に轢かれて死んじゃったの。

この人が死んでしまった時、泣いてしまったけど、泥沼が、家族で旅行で連れてってもらった綺麗な綺麗な透き通ってる鮎が沢山泳いでいる川のように流れているような、とても綺麗な、素敵な思いが溢れてしまったの。

夏だけに赤の他人が入れる子供の楽園。

探すのにとても苦労したんだあ、けどこの人がたくさんの思い出が詰まっている素敵な場所なのは知ってよ。

濁った目をしている方々しかいないけど、あぁ、違うよ。

濁ってるというか、私が見てきたこの人とは違う生き物のような気がして、決してバカにとかはしてないんですけど。

この人が改めて大切な人ってことに気づけたなあ...。

ねえねえ、神様っているよね?

私はこの人とずっと幸せになれるなら缶詰になってもいいと思えるんだ。

そもそも本来缶詰って金属缶に詰めて密封した上で微生物による腐敗・変敗を防ぐために加熱・殺菌したものですごくないですか? 私死んだら骨だけじゃなくなるんですよ、灰になんかなりたくない。ずっと一緒にいたいの!


この人の事が大好き、世界で1番愛してる。


この人の肉と絡み合って交尾して次の地獄で私達は赤ちゃんとして生まれ変わるんです!

なんて素敵なんだろ! なんて幸せなんだろう! 産まれてきて良かった!さよなら!人生!また来て地獄!」


作業準備中に、一人で喋ってた目の前の女は腹に包丁を刺して、また刺して、何度も何度も繰り返して死んだ。

その表情はとても幸せそうな顔でとても不気味なものである、僕達の事目が濁ってると言っていたけどこの人の顔は太陽だと思う。

僕らは優秀成績者だからよそ者を捌かなきゃいけないけど、眩しすぎてこれから解剖するのいやだなあ。


「あーあ。よく喋ってたねー。女性はよく喋る生き物だけど長くて途中あくびしてたら急に私の包丁奪って自殺するからびっくりしちゃったよ。この人ずっと死にたかったけど理由をつけて死ねなかったからその言い訳癖がついているからかは知らないけど。鮮度とかあるから急に死んだら困るんだけどー。ねえー、お姉さん生きてるー?あ、ごめーん死んでるよねー。うちら怒られちゃうかな?」と彼女は言った。

「いや、大丈夫だと思うよ。今外に子供達居るけど

「......この人結局幸せなれるのかな」と僕が言った。

「回答としてだけど残念だけど、その人は幸せなんかなれないよ。だって生まれ変われないんだもん、ここの子供は。その人はまた生まれ変わるけど」と彼女は言った。

続けてこう言った。

「こっちの男多分あの工場にいたお兄ちゃんの一人なんだけど、抜け出せて平凡な日常送っていたのに、こんな変な女に捕まっちゃって可哀想。お兄ちゃん。お兄ちゃんは私達の事知らないだろうけど、私達はお兄ちゃん達の妹と弟なんだからさー。せめてこの人だけでも幸せになって欲しかったよねー。

寧ろお兄ちゃんは幸せになんかなっちゃいけないの知ってるからこんな女と一緒にいたのかなあ」と彼女は言った。


僕達は雑談をしながら解剖していると大人達がやってきた。

大人達はよそ者のあじがきになってしたがないらしい。


大人にさっきの事を話したら、さっき喋ってた女は缶詰にはならず、宴に使われる肉の塊として出されて、お兄ちゃんは缶詰になった。

相変わらず性格が悪い大人達だ。聞いて呆れる。


ねえ、ねえ、お兄ちゃん。

僕も幸せになんてなれないのは知ってるけどね、お兄ちゃんの中では少し遅かったけど、お兄ちゃんがこれからもこの人冷たい光沢な金属の中で生きていられる。


僕は。


これからも愛されなくても、幸せになれなくても、息苦しくても。

ここの風習が、異常なことに気づいているのが兄弟達が僕だけだとしても。


幸せになんかなってはいけない。


お兄ちゃんが言ってたという言葉。

心に吐き出した嘔吐物は胃酸を撒き散らかして美味しさすら感じない酸っぱくて憎悪する気持ちを残して、うっとうしい気分だけが残って気持ちが悪くなった。

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