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私、漢になる。

 どうも、イトーです。

 いやあ、やっと冒険者になれましたね。

 思ったよりあっさりとことが進んで、ちょっとビックリしてます。


「これが、イトーさんの冒険者手帳になります。

 冒険者としての規則や、ギルドランクについての細かい説明は全て手帳に記載されてありますので、よく読んでおいてください。

 また、この手帳は冒険者育成学校の学生証でもあります。

 紛失した場合は再発行に銀貨1枚が必要となるので、心に留めておいてください」


 私は先程の受付カウンターで、また別の受付嬢から手帳を受け取った。


 冒険者手帳は赤色の革で装丁された、11cm×7cmほどの小さな手帳だった。


 試しに1ページ開いてみると、そこには私が先程登録用紙に記入した内容の一部(と言っても、名前と性別と種族の3つ)に加えて、『普通科 第1回生』と記載されたページがあり、その隣には宣誓文が短く記されている。


「尚、冒険者育成学校につきましては、丁度来週の12時頃から今季の入学式がございますので、時間に遅れぬようご来校ください。

 又、準備物や持参品、学校の所在等に付きましては、こちらの封筒の中に入っております冊子をご確認いただきますよう、お願い申し上げます」


「はい、わかりました」


 こうして、私はその封筒を受け取ると、そそくさと冒険者ギルドから立ち去った。


 どうやら隠蔽スキルを使っていたことが幸いして、例の冒険者登録イベント『不良冒険者に絡まれる』を回避できたみたいだ。


 そのことにホッと安堵の息を吐きつつも、ちょっと物足りない気分になるのは、複雑な男心のなせる業なのか。


 私は頭を振ると、例のチャラ男にまた遭遇しないようにと急いで夕焼け亭に帰ることにした。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 夕焼け亭の自室に帰ってきた私は、早速今日貰った『冒険者育成学校入学案内』と書かれた冊子パンフレットを広げて、来週の入学式までに揃えなければいけないものを確認していた。


「えーと、何何〜?」


 それによると、入学する学科によって、必要な準備物が変わるらしいが、1回生はみんな普通科に入学するらしく、準備物も全て同じなので気にしなくていいらしい。


 学科を選べるのは2回生からのようだ。


 閑話休題。


 それで、用意しないといけない物だけど……。


 まずはじめに目についたのは、制服だった。

 どうやらこの学校、制服を着ないといけないらしい。


 値段は銀貨20枚。約20,000円相当。


「えー、嘘ぉん……。

 お金かかるのかよ……」


 まあ、それもそっか。

 学校だもんな。


 でもせめて、事前にそういうこと教えてほしかったよ。

 まあ、私はお金あるから別にいいんだけど。


 因みに、制服は冒険者ギルド付属の衣料品店に行けば買えるらしいので、後でチェックしておくことにする。


 あとは筆記具とノートが数冊に、それから各種教科書。


 それから制服の他に衣類がもう2種類必要らしい。

 尚、その1つは戦闘訓練用の体操着で、もう1つは水着だった。


「……水泳でもやるのか?」


 まぁ、別にいいけど。

 とりあえずこれらもギルド提携の衣料品店で買えるみたいだから、後でまとめて買うことにしよう。


「うーん……。

 にしても、結構お金かかるのな」


 日本の小学校も、学費はただでも給食費とか教科書代は無料じゃなかったし、やっぱり完全無料の教育施設なんてものは無いのかもしれない。


 維持費とか大変そうだしな。


「異世界とはいえ、こういうところとか結構生々しいのな……。

 異世界に見てた夢が全部消えちゃいそうでちょっと怖いわ……」


 私はそう一言つぶやくと、とりあえず封筒ごと冊子をポーチの中に突っ込んだ。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 翌日。

 昨日はペンやらインクやらノートやらを準備できたので、今日は教科書を買いに行く予定だ。


 夕焼け亭の1階で朝食を摂った私は、その足で大きなカバンとポーチを携えて商店街へと向かうことにする。


 ……え?

 制服とかはまだ買わないのかって?


 うん。

 まぁね。


 先に買って、後でぐちゃぐちゃになって皺だらけとかになったら嫌だし。

 でも採寸とかあるだろうから、なるだけ早めには買うつもりではいるよ。


 それはともかくとして。


「うーん……。

 見つからないなぁ」


 私は今、『はじまりの街』のとある書店で教科書を探していた。


 タイトルは『生活魔法応用 初級』。

 魔法、というくらいだから、魔法屋に行けば見つかるだろうと考えていたのだが、どうやらこの世界には魔法屋という職業はないらしく、私は1つ1つ書店を回りながら教科書探しをしているのだ。


「あ、『図解でわかる解体基礎』みっけ」


 私は本棚から緑色の装丁がされた、少し大きめの本を手に取ると、腕に抱えてまた本を探しに行く。


 なんだかなぁ。

 どうして本屋に行くといつもいつも、今探しているのは見つからないくせに、別のタイトルは容易く見つかるのだろうか?


 ホント不思議だ。


 その後、店員さんに聞いたりして色々書店を回った結果、5つ目のお店でようやく探していたタイトルの教科書を発見した。

 これは余談だが、その本を購入する頃には既に他のタイトルの教科書を全て揃えていたことは内緒である(誰にだよ(セルフツッコミ))。


「あー、疲れた……」


 もう足パンパン。

 動けないや……。


 教科書を購入し終えて宿に帰る道すがら。

 私はポーチからポーションを取り出してグイッと1口呷る。


 すると、どんどんと脚の痛みが引いていき、やがて体力が全回復する。


 この街は広い。

 どれだけ広いかといえば、今ここにいる場所から宿まで、あと数キロは歩かないといけないのだ。

 その間には階段やら坂道なんかがついている。


 この世界には車や自転車が無いせいか、殆どの人は移動を徒歩で行う。

 この程度の距離でへばるのは、おそらくだがこの世界の住人からすれば、かなりひ弱に見えるのではないだろうか。


「……ん?」


 と、そんな事を考えながら歩いていると、路地裏の方から声が聞こえてきた。


「な、何よアンタたち!

 返しなさいよ!」


「ハッ!

 見たかよお前ら!女の分際で冒険者なんかになろうとするからこんな目に合うんだ!」


 少女の声だ。

 しかも、かなり若い。


 対する声は少年か。

 こちらもまだちょっと若い。

 声変わりする前……か、した直後くらいだろうか。


(となると、年齢は12歳前後?)


 女の子の方はよくわからないが、セリフからしてかなり体格差があるようにも思える。


 ……これは、助けに入った方がいいのでは?


 一瞬、私は声のした方向を向いた。


 これは、多分アレだな。

 よくある異世界モノのテンプレの1つ、『路地裏で襲われている少女を助けて惚れられる』イベント。


 だが、こっちは元は男とはいえ、今はか弱い少女。

 それも小柄でひ弱。


 酷ければ、ミイラ取りがミイラになる危険性だって無いわけじゃない。


 ……だが。


「返してよ!」


 悲痛そうな少女の鳴き声が耳に木霊する。


(こんなの、助けなかったら絶対後悔するよな)


 それに、ここで見て見ぬふりはおとこじゃねぇ。

 たとえこの体が小さく非力な幼女の姿であろうとも、俺は俺として(・・・・・・)の、元男としての矜持を曲げるわけにはいかない。


 私は拳を握り込むと、意を決して声のする方向へと走った。

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