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私、猫になる。

 どうも、伊藤(仮)です。

 紆余曲折あって異世界に転生し、今は冒険者になるために『はじまりの街』にやってきています。


 今は黒猫亭という、冒険者ギルドを中心とした、通称ギルド広場とよばれる大きな噴水のある広い広場に面した、そこそこいい宿に泊まっています。


「君可愛いねえ。

 彼氏いる?

 いないならちょっとオレと遊んでかない?」


 ……そこそこいい宿、だと思ってたのになぁ。


(なんでコイツここにいるんだよ)


 お腹が空いてきたので、そろそろ昼食でも食べようかと食堂がある一階に降りてみると、そこには十数分前にナンパしてきたチャラ男の姿があった。


「えー?

 どーしよっかなぁ?」


 チャラ男はカウンターで昼食を食べている女性(冒険者には見えない)に話しかけている。

 ナンパされている女性の方も満更ではなさそうなので、このまま放っておけばこちらに火の粉が飛ぶようなことはないだろう。


 私はそう考えると、一応念の為に隠蔽スキルを使って姿を隠しながら、空いているテーブルに腰掛ける。


(あー、フードか何かあれば顔隠せたのに……)


 今度下着買いに行くついでに見繕ってみるか。


 私はため息をつくと、何にしようかとメニューに目を走らせた。


 えーっと、何何?


 Chalte(メニュー)

  Ork(オーク) barne(肉の炒めもの) Chalte(定食)50C(銅50枚)

  Ork(オーク) rochwobar(肉の石焼き) Chalte(定食)40C(銅40枚)

  Ork(オーク) sorghte(肉のソテー) Chalte(定食)30C(銅30枚)

  Ork(オーク) plresser(肉のパン挟み) set(セット)32C(銅32枚)

  Ork(オーク) toph(肉のスープ)15C(銅15枚)



「……何語?」


 そこには、私の見たことのない字が大量に並んでいた。

 字体はアルファベットに近い。

 全て斜体で書かれていて、ちょっとお洒落だなぁという感想が出てくる。


 なんというか、言語というより一つの模様?芸術作品?そんな風格のある文字に見える。


「ぬぬぬ……」


 そりゃそうだよなぁ。

 だってここ異世界だもん、日本語で書かれてるわけが無い。


 ……。

 まあ、でも何語かわからなくても何故か理解できるし、今まで誰かと話してたけど、普通に会話できてたし。

 考えるだけ無駄か。


 そうやって私が変な現実逃避をしていると、不意に自分に話し掛けてくる声が聞こえてきた。 


「あれ?

 君もここに泊まってたんだ?」


 どこかで聞き覚えのある声に、私は何となく頭を持ち上げ、声の主を確認する。


「……何で生きてるの?」


 するとそこには、頬に大きな赤い紅葉を彩らせたチャラ男がいた。


「うはっ!

 いきなり辛辣だねぇ、銀子ちゃん……。

 だが、それがいいッ!」


 え、何こいつ。

 もしかしてドMの変態なのか?


 てか、誰だよ銀子。

 もしかしなくてもそれって私のことか?


 ていうか、私今まで隠蔽スキル使ってたよな?

 なんで私がここにいるってバレてんの?


 え?

 もしかしなくてもLv.1の隠蔽ってそんなにすぐ見破られるほど効果薄かったのか?


「……で、何なのお前。

 もしかしなくてもストーカーじゃないよな?」


 男性時代には感じたことのない気持ち悪さを感じた私は、早く出ていけという念を込めて彼を睨みつけた。


「ストーカー?

 ハッ!

 オレをそんな下等なゲス共と同じにしないで欲しいな」


「うるせえ。

 さっさと消えろって言ってんだよこっちは。

 それくらい察しやがれ」


 凛とした可愛らしい女の子の声が、汚い言葉でチャラ男を罵る。


「そういう口の悪いところも、可愛いぜ!」


 が、どうやら無駄だったようだ。


(だめだ、コイツ真正の変態だわ)


 正直、食べる前から変な胸焼けがしてきて気持ち悪い。

 迷惑防止条例がこの街にあるなら、騎士でも何でもいいから早く捕まえに来て欲しい。


 私はそんなチャラ男に、虫を見るような目を向けると、舌打ちを一つして席を立った。


 こんな奴と一緒じゃ飯なんて食えたものじゃない。

 誰かにナンパ中ならわざわざこっちに話しかけては来ないだろうとは考えたが、どうやら甘かったらしい。


(次からは、見つけたら即刻逃げよう)


 私はそう心に決めると、スタスタと宿の出口に向かって歩き始めた。


「おや、昼食はいいのかい?

 なんなら奢るぜ?」


「……」


「おーい、無視するなよ銀子ちゃ〜ん?

 ちゃんと食べないとおっきくなれないぞ〜?」


「チッ」


「え、今舌打ちした?」


 よし、決めた。コイツ門番に突き出してやろう。

 この街のどこに騎士がいるかなんてわかんねぇし、その方が楽でいい。


 私は徹底的に奴を無視して、関所にいた審査官のオッサンのところへ歩いていった。


 そもそもだ!

 どうしてこいつは、こんなに私につきまとってくるんだよ。

 私何かしたか?

 ……いや、してない。

 断じてそれはない。


 さっきの食堂でのアイツを見ただろう。

 ところ構わず引っ掛け回すようなゲスだぞ、アイツ。


 私は、後ろから呼びかけてくる彼の声を全部無視して、はじまりの街入り口にある詰め所へと向かった。


「お、さっきの銀髪ちゃん。

 どした、こんなところに?」


 詰め所に来ると、休憩中の門番の一人が私に話しかけてくれた。

 因みに彼は、私がこの街に入ったときに地図をくれた人でもある。


「門番さん、少し困ってる事がありまして。

 アレ、どうにかなりませんか?」


 私はそう言いながら、後ろに向かって指を指した。

 すると、彼はそんな私の様子に怪訝そうな表情を浮かべて言った。


「銀髪ちゃん、アレじゃよくわかんねぇ。

 もっと具体的に言ってくれ。

 何もないところを指でさされてもわかんねぇから」


 は?

 何言ってんのコイツ。

 あのチャラ男が見えないっていうのか?


 いやいや、ありえねぇだろ。

 もし見えないって言うんだったら、絶対眼科に行って診て貰うべきだ。


 そう思いながら、私はそんな彼の反応に顔をしかめながら後ろを振り向いた。


「何もないって、ちゃんとそこに……あれ?」


 しかし、そこには誰も居なかった。


(マジかよアイツ、逃げやがったな?)


 私はしかめっ面をさらに顰めながら、逃げ場のない苛立ちを地面に向かって投げ捨てた。


「あー、何だかよくわかんねぇが、まあ怒るなよ。

 また何かあれば相談乗るからさ。

 ほれ、これ俺の住所。何かあったら頼りに来な」


 私のそんな様子を見て同情したのか。

 門番のおっさんは苦笑いを浮かべながら、私に1枚の紙切れを手渡した。


 するとそこにはやはり私の知らない字で住所が記されていたが、問題なく読めた。


「あ、ありがとうございます」


「いいってこった。

 子供を守るのは大人の義務だからな!」


 彼はそう言うと、私の背中を強く叩いて私を促した。


 良い人だな、あのおっさん。

 私のいた地域にはあんな人1人も見かけなかったし……。


 私はもう一度お礼を言うと、その場を後にして黒猫亭へと戻る事にした。


 はぁ……。

 あのチャラ男に泊まってる宿バレちゃったし、宿移そっかな……。

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