私、ネズミになる。
どうも。
というわけで、無事街に入れました!
あー、緊張したぁ。
なんだろう、何も悪いことしてないのに、何か悪いことしたみたいな感じになる感覚。
滅茶苦茶緊張した。
ていうかアレだな。
身分証明とか必要なかったな。
入街税とかも無かったし、何にせよ、比較的楽に入れたのは助かったよ。
私は巨大な門を潜ると、うーんと伸びをした。
「いやぁ。
やっぱり壮観だわぁ、これ」
中世ヨーロッパ風の石造りの家々が建ち並ぶ街並み。
道路沿いに店を構える露天商。
街を行き来する馬車の群れに、なんと言っても異世界定番の多種多様な種族!
「獣人にエルフに、あれは鬼かな?」
いろんな種族が入り混じって、普通に生活している。
これでこそファンタジー!
これでこそ異世界!
そんな空気が、私を包み込んで興奮を更に加速させる。
「っと、こんなことしてる場合じゃなかったな。
早く今日の宿を取らないと部屋が埋まっちゃう」
とりあえず街を見て回るのはその後だ。
私はそう意気込むと、門番に貰った地図を開いて、黒猫亭へと足を向けた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
凄い視線を感じる……。
街を歩き始めて数分。
私は徐々に、自分が見られていることに気づき始めた。
(私、そんな変な格好してるかな……?)
チラリ、と視線を横に流してみると、ススッと視線をそらす冒険者っぽい感じの見た目の人が見えた。
と、そんな時だった。
ふと、後ろから声をかけてくる人がいた。
「ねえねえ、君君!」
「私ですか?」
振り向いてみると、そこには鉄製の軽装鎧を身に着けた金髪のチャラ男がいた。
(うわ、なんか変なのに絡まれたなぁ)
とりあえずなにかされたときの為に警戒しておこう。
「そう、そこの君!
君可愛いねえ。
ちょっとそこでお茶しない?」
へぇ、こんなこと言うやつホントに居たんだ……。
逆にちょっと感心したわ。
とはいえ、こちらはそんなことをしている暇なんてない。
早く宿を探して、冒険者登録しないといけないんだから。
「ナンパなら他所でしてください。
では」
というわけで、私はそう軽くあしらってその場を後にしようとする。
が、チャラ男は諦めずに進みだした私について歩いてきた。
「そんな硬いこと言わずに。
ね?先っちょだけ、先っちょだけでいいから!」
何その変な言い方。
やめてくれ、寒気が走る。
私は足を止めずに、先へ先へと歩を進める。
「ねえちょっと!
無視しないでくれよ?」
それから何度も何度も同じように、しつこくしつこく言い寄ってくるチャラ男。
いい加減ウザくなってきた私は、もう耐えられないとばかりにその場で足を止め、チャラ男に顔だけ振り返った。
「うるせえ、さっさと消えろ目障りだ」
「……あ……はいっス」
すると、彼は口角をヒクヒクと引き攣らせながら、その場でフリーズしてしまった。
あー、スッキリした。
本当は腹でも殴ってやりたい所だが、たぶん力の差で負けるだろうし……。
ま、一発言えたんだ、これで良しとしよう。
私はそう自分に言い聞かせると、再び地図を開いて歩き始めた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「っはぁ〜、疲れたぁ……」
私はベッドに腰を下ろしながら、そう言葉を吐いた。
黒猫亭、最上階の角部屋。
陽当たりよし、眺めよし、設備よしの三拍子揃った、この街ではかなり良い部屋を運良くとる事ができた私は、長旅の疲れを癒やすために、ベッドの上に寝そべっていた。
「あー、脚パンパンだぁ……。
もう歩けねぇ。
今日はここで一休みして、登録は明日でいいかな……」
私は天井を見上げながら、そんな言葉を呟いた。
「冒険者……。
冒険者かあ……」
魔物を倒して、経験値稼いで、レベルを上げて。
素材を売って、お金を稼ぐ。
たぶん、こんな感じだと思うんだけど、どうなんだろ?
「あ、そういえば俺……じゃなかった。私、まだ自分のレベルがどれくらいとかわかんねぇなあ。
こう、なんかステータス!って叫んだら、自分のステータスとか見れたりしねぇかなぁ」
私はベッドから起き上がると、玄関のところまで歩き出した。
扉を開けて、外に誰もいないことを確認する。
やっぱりさ、こういう所って、人に見られたりとかしたらちょっと恥ずかしいじゃん?
「壁は……うん、大丈夫っぽい」
流石一番高い部屋。
防音設備バッチリだ。
私は壁を叩いて厚さを確認すると、よしと頷いてベッドの上まで戻る。
「んじゃ、早速始めるか。
……ステータス!」
……。
…………。
『しかし なにも おこらなかった。』
「くそう!」
思わず布団を殴りつける。
「うわー……はっずかしいわぁ……」
救いといえば、誰もこの奇行を見なかったということくらいだろうか?
「ぐぬぅ……。
んじゃあ、これ以外で何か方法は無いかな……」
どうしても自分のステータスを確認してみたい私は、それからしばらくキーワードを変えてみたり、いろいろ手を振り回して試行錯誤するのだが、しかしどれも当てはまらなかった。
「くそう……。
もしや、ステータスが見れないタイプの世界なのか、ここは……」
はぁ……。と、もはや諦めに近い心境で、私はため息を吐いてベッドに転がった。
「何か……なんかそういうのが見れる道具とかないかな……」
……ん?
道具?
がばり、と天啓が下ったかのように布団から跳ね起きる。
「そうだ!」
自力で無理なら、道具に頼ればいいじゃないか!
「あれだけいろいろ詰め込んだんだ、それっぽいアイテムが紛れてても良いだろう」
そういうわけで、私はベッドの側に置いていたアイテムポーチを引っ張ってくると、中に手を突っ込んで中身を確認した。
「えーっと、なんかそれっぽいものそれっぽいもの……」
んー、武器とか防具、服、アクセサリ、それからポーションとか何かの素材っぽいものは大量にあるんだが……。
レベル判定紙!とか、そういう感じのは見つからないなぁ……。
「ん?何だこれ」
しばらくそうやって鞄の中を漁っていると、『スキル鑑定紙』というアイテムを見つけた。
「おお、なんかそれっぽいぞ!」
スキル鑑定紙……って言うくらいだから、たぶん自分が持ってるスキルがわかる道具だろうか。
私はちょっとワクワクしながら、そのアイテムをポーチから引き抜いた。
スキル鑑定紙は、A4サイズくらいのよくわからない素材でできた紙で、ヘッダーに複雑な魔法陣が描かれている。
「魔法陣……ってことは、やっぱり魔力を注いで鑑定するのか。
ていうか、やっぱりこの世界魔法とかスキルあったんだな。
ちょっと嬉しい」
とはいえ、問題はその魔力何だが……。
どうやって流すんだ?
定番だと、体の中に流れる魔力に意識を集中して〜とか何とかあるけど。
「ちょっと試してみるか」
というわけで、私は目を瞑って自分に意識を向けた。
すると、すぐに体の中を流れている何かを見つけた。
「これか……?」
血液とは違う。
明らかに何か別の物が流れてる。
たぶん、これが魔力なんだろう。
私は目を開くと、ベッドの上に広げた紙に描かれた魔法陣に手を押し付けて、その魔力が紙に流れるようにイメージする。
「うおお、なんか手から水が流れてるみたいな感覚がする!」
これはアレだ。
川の中に手を突っ込んだときの感覚に似てる。
あの流れる感覚が、掌を限定して感じてるみたいな感じ。
ちょっと気持ちいい。
しばらくそうやって紙に魔力を流し込んでいると、紙から何か黒いインクが染み出してきて、自動的に文字を羅列し始めた。
「おお、すげえ!」
書いてないのに、書いてる手応えがある。
言い表せない変な感覚だ。
暫くそうやって放置していると、やがてその文字の羅列は止まった。
紙から手を話して、内容を確認する。
「えーっと、何何?
私のスキルは……強奪、逃走、泥棒、隠蔽……って何だこりゃ!?
完全に犯罪スキルじゃねぇか!?」
強奪……あ、もしかしてゴブから服を剥ぎ取ったときか?
だとしたら逃走……はたぶんゴブリンから逃げたときにゲットしたんだろう。
だとすると泥棒は……あのお宝か!
んで、だとしてら隠蔽はどこでゲットしたんだ……?
「思いつくとしたら、ゴブの村を見つけて隠れてたときか」
嘘だろ……これ……。
こんなスキル持ってるのバレたら確実にお縄だぞ。
なんとか……なんとかこれを隠す術はないか……?
「いや、でも待て。
もしかしたらそういう字面なだけで、実際はそういう犯罪みたいな効果のスキルじゃないかもしれない」
私はそう考え直すと、スキル名の下に表示された、簡単な説明文に目を通した。
強奪Lv.1
通常攻撃時に泥棒スキルを付与する。
このスキルによって対象の生命を奪い取った場合、ランダムで対象の保有するスキルを1つ獲得する。
逃走Lv.1
逃走時にAGIを少し強化する。
泥棒Lv.1
ランダムで相手の持ち物を奪取することができる。
また、逆に相手から泥棒されにくくなる。
隠蔽Lv.1
任意の対象を見つかりにくくする。
「……うん。
完全に犯罪スキルだ」
どうしよ、やばいぞこれ。
冒険者登録の時にこんなスキルを持ってることが判明したら……。
「……いや、待てよ?
この隠蔽スキル、もしかして持っているスキルを非表示に出来たりしないか?」
私はそう仮説を立てると、試しに頭の中で全てのスキルを見えなくするようにイメージして、再度スキル鑑定紙に魔力を流した。
「……おっし、なんとか成功したな」
私は、何も表示されなくなったスキル鑑定紙を見て、ほっと一息つく。
でも、なんかちょっと疲れるな、これ。
うっかり隠蔽スキルつかうの忘れたりでもしたら、即お縄だ。
「これからは、常に隠蔽し続けることを忘れないようにしないとな……」
私はそう心に決めると、そろそろお腹が減ったので一回の食堂に降りることにした。