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私、イセカイで冒険者やってます!(旧題:私、ソロで冒険者やってます。)  作者: 青咲りん
第一章 私が卒業するまで。 ゴブリン侵攻編
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ホブゴブリン、本気になる。

引き続き、バトル回をお楽しみください。

 どうも。

 絶望的な戦況下でもう逃げるすべもない状態のイトーです。


 いやぁ、参った。

 ホントどうしてこうなったんだろうね?

 ゲームとかだとフィールドのモンスターをずっと狩り続けてたらフィールドボスが出てくるっていう設定は聞いたことあるけど、もしかしてこれってそういう感じのイベントなんですかね?


 ……でもこれさぁ。

 ちょっとしくじったらゲームオーバーまっしぐらだよね?

 いくらなんでも鬼畜過ぎないかな、この世界。


 この森に来る前は、サエルミアが『この辺りの魔物なら、せいぜい《風刃》くらいの威力で十分よ』とか言ってたけど、もしかしてアレでフラグとか立ってたのかね?


(全くら何が『この辺りの魔物なら、せいぜい《風刃》くらいの威力で十分よ』だ、反撃する暇もねぇじゃねぇか)


 私は分身を配置してから隠蔽スキルを行使して姿を消すと、投げ込まれ続けるゴブリンをどこから出したのか全くわからない大盾で弾くルークの背中から離脱しながら、一人愚痴た。


 彼の有名なプロイセンの軍事学者であるカール・フォン・クラウゼヴィッツによれば、戦闘においてその勝敗を決めるのに最も重要視されるものの一つが、部隊の戦闘力であるらしい。

 戦闘力とは、読んで字の如く限られた時間で敵の戦力を弱体化または破壊することができる全ての能力を言う。

 つまり、そこに含まれているのは部隊を構成する人数、それらが総合的に対象に被害を与える火力、そしてそれらを運用する機動力の三つである。


 しかし、その全てで勝っていれば、その戦闘に勝利できるというものでもない。


 これらの力を一気に引き立てるものこそが、戦闘において最も本質的に重要であるとされているのである。


 アメリカの軍人であり研究者のジョン・アルジェ曰く、それは「士気」だ。


 もちろん、士気か高ければどんな戦いをも左右できるというものでもないが、しかし高いに越したことはない。


 どんな英雄も、守るものがあればいつだって悪に勝つんだ。


(やってやる……!)


 ──ボゴヒュッドガァッ!!


 大地が砕ける音と共に、砲弾と化したゴブリンが衝撃波を伴ってルークの構える大盾へと迫ってくる。


 私は刀を握り直すと、姿勢を低くして刀を腰だめに構えてタイミングを待った。


「《リフレクション》!」


 厚く頑強な無色透明の魔法の壁が、砲弾の威力を削ぎ落とす。

 しかしそれだけでは砲弾を跳ね返す力には足りない。

 案の定、先程と同様に魔法の壁は破壊され、ルークが構えた大盾に突撃した。


「今だ、行け!」


 ──ガギィィィ!


 ルークがその大盾を以て砲撃を受け流す。

 私の分身はその合図と共に彼の影から勢いよく飛び出し、デカ物の下へと突っ込んだ。


 彼我の距離、直線距離にして約五十。

 ──しかし、私はこの直線コースを走り抜けたりはしない。

 なぜならここはヤツの砲撃の射線上、無闇に突っ込めば間違いなく死ぬからだ。


「ギギガァァァァアア!」


 バカめ、とでも言っているのだろうか。

 デカ物はその大きな口をニタリと歪ませると、再度砲撃を放とうとして──しかし、突如として飛来してきた雹の嵐にたたらを踏んだ。


「グルァ!?」


 サエルミアの攻撃魔法《氷雨イサハガル》だ。


 私は彼女のサポートに内心感謝しつつ、さらに脚に魔力を込めて脚力を強化させ、一気に間合いに突っ込んだ。


 ──しかし。


「グラァァア!」


 ヤツの腕が届く間合いに私が侵入したことに気づくが早いか、デカ物は掴んでいたゴブリンを振り回すと、衝撃波を伴わせて足元に滑り込んだ私に向かって叩きつけた。


 ──その正体が、私が幻影によって生み出した分身であるとも知らずに。


 デカ物と私の顔が同時に、勝ち誇った笑みを浮かべる。


 当時、彼我の距離はもはや一メートルも無かった。

 ヤツが本物と思い込んでいる私の分身が刀を振り上げるにしては遅すぎるタイミングだったし、そのデカいゴブリンが取り巻きを叩きつけるには完璧な、もはや逃げられないくらい絶対必中のタイミングだった。


 これはもう、この少女は助からない。

 絶体絶命、攻撃手段を失った人間たちは、すぐに敗北を認めざるを得ないだろう。


 このゴブリンなら、そう考えたに違いない。

 だがしかしそれは甘い。


 確かに、戦法もタイミングも完璧だった。

 いや、完璧だったと考えていた。

 だが、それを確信するには、まだ時期尚早だった。


「グギャッ!?」


 ヤツの放つ赤い衝撃波によって抉られた森の地面が土煙をあげる中、デカ物は不意に走る膝裏の激痛に気がついた。

 彼は思わず呻き声をあげると、何とか姿勢を両手を地面につけることで安定させる。


 デカいゴブリンはまず始めに、向こうで掌を向ける緑色のエルフの魔法を疑った。

 しかし、すぐにその考えを改める。


 なぜなら、自らが潰したはずの少女の死体が、クレーターの底に残っていなかったからだ。


 ──もしや、という考えがゴブリンの脳裏を過る。

 そしてそれは、次に聞こえてきた人間の声で確信へと変わった。


「残念だったなデカ物。

 その手はもうサエルミアとの勝負で学習済みだ!」


 ……え?

 何が起きたのかって?


 ふふん、実は私、ルークの背中から分身が特攻した頃には、すでにこのデカ物の背後に隠れていたのさ。

 それで、ルークの「行け!」の合図で事前にセットしておいた分身をデカ物に特攻させ、完全に隙を見せる瞬間を狙って膝裏の腱をこの刀で切断してやったのさ。


 私は勝ち誇った笑みをそのままに、赤い光を纏わせた刀を振り上げ、デカ物の背中を斬りつけた。


「グルルルァァァァアアアアアア!?」


 ゴブリンの汚い血飛沫が、ヤツの断末魔の叫びと共に吹き上がった。

 ……しかし、どうやら浅かったらしい。


「グラァッ!」


 ヤツは腕のバネを利用して起き上がると、地面の土を握り固めながらこちらへと投擲してきた。


「なッ!?」


 私は咄嗟にバックステップを踏みながら再び赤い光を刀に纏わせ一閃し、なんとかその土塊の砲撃を防ぐことに成功する。


 ……にしても凄い生命力だな。

 さっき私がヤツに使ったのは、ゴブリンたちが使っていた、あの衝撃波を繰り出すスキルだ。

 これは始めにゴブリン狩りをしたときに獲得したスキルで、少なくとも地面にクレーターを作る程度の威力は備えているはず。

 そこに刀の威力……もとい、力学的な力の計算をざっと鑑みるに、背骨を両断するくらいの威力は発生していたはず。


 証拠に、ヤツを斬ったとき確かに骨に当たる感触はあった。

 手応えはあったと思ったんだけど……もしかして、骨折はしたものの切断には届いていなかったのか?


 私は、刀のグリップを握る自分の手汗を感じながら、再び蓬莱刀を構え直した。


 しかし、案ずることはないはずだ。

 こういう事態を先に想定して、膝裏の腱は既に切ってある。

 機動力さえ封じてしまえば、後はもぐら叩きのタコ殴りだ。


「グラァッ!」


 ……とか考えていたのが、どうやらフラグだったらしい。


 デカいゴブリンは両足が使い物にならないことを瞬時に把握するなり、その丸太のように太い腕を脚のように使ってこちらに突進してきたのだ。


「ッ!?」


 ヤツは自分の腕に衝撃波を纏わせると、それを地面に叩きつけることで加速し、その身をまるで砲丸のようにして突進攻撃を繰り出した。


 ──まずい!


 私はヤツが両手を地面につけたのとほぼ同時に横へとジャンプすることで、ギリギリその攻撃を回避することに成功する。


(あっぶねぇ……。

 危うく死ぬところだった……)


 私は、先程までいた地面が若干抉れていることにわずかな戦きを覚えながら、さてどうやって仕留めたことかとルークたちの方へと視線をやる。

 するとそこには、複数のゴブリンに囲まれている二人の姿があった。


「ちっ、数が多くて捌ききれねぇ!

 サエルミア、なんとかならねぇのか!?」


「無茶言わないでよ!

 さっきの《リフレクション》で魔力使いきったのよ!?」


「魔力ポットは!?」


「もう飲んだわよ!」


「ちっ、このポンコツINT極振りメイジ!」


「ぐぬぬ……っ!

 仕方ないじゃない、こんなところにホブが出るなんて聞いてなかったもの!」


 二人の怒声が、五十メートルも離れたこの場所まで聞こえてくる。

 それによれば、どうやらサエルミアは弾切れで、ルークの方はと言えば、どうやら回り込んでいたらしいトリマキのゴブリンに手を焼いているようだった。


 ……このままだと、たとえこのデカ物──ホブを斃しても全滅は時間の問題かもしれない。


 まぁ、そんなのは先ずはこいつをやっつけてからの話なのだが。


「グルルルルルルルル」


 回避されたことが意外なのか、ホブゴブリンは威嚇するように唸り声をあげる。


 さてはて。

 どうやらあそこまでの威力ともなれば、私のトリモチは大した拘束にはならないだろう。

 なら、他に使える手段はといえば……分身と隠蔽、そしてゴブリンから奪った衝撃波を纏わせた攻撃を放つスキルの三つか。


 それに、そろそろ《ステータスグロー》の魔法も切れそうだし、そうなると体力も一瞬で底をつく結果になる。

 今でこそ魔法の力で瞬発力や動体視力を補助してギリギリの戦い。

 つまり、持久戦では勝てないから、速攻で勝負を決めなくてはならない。


 ……これは、疑似透明人間戦法の出番かな。


 私は空元気にニヒルな笑みを浮かべると、戦慄で震える体をぐっと拳を握り込むことで強制的に抑え込み、浅い呼吸を整えた。


 お読みいただきありがとうございます。

 ちょっとしたコメントとかツッコミとか、あと誤字報告でも何でもいいので、感想欄を使ってください。

 あと、何かもっとこうした方がいいというアドバイス等もあれば、気軽に感想欄を使って教えてほしいです。

 よろしくお願いします。

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