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私、イセカイで冒険者やってます!(旧題:私、ソロで冒険者やってます。)  作者: 青咲りん
第一章 私が卒業するまで。 ゴブリン侵攻編
44/47

ホブゴブリン、節子になる。

二週間以上更新滞って申し訳ない。

文字数的なボリュームはだいたい二話分くらいあるから許してちょんまげ?

 どうも。

 最近、この世界に来てからなんだか変な人ばかりに目をつけられるなぁと少し悩んでいるイトーです。


 例のチャラ男をはじめ、ミラさんやマーリンさん、担任のフランキス先生とかあの獣人のテロリストとか、ホントこの世界は変な人ばっかりだ。

 今日に至ってはあの鎧の大男まで増えた。

 見た目や装備に関しては結構カッコいい感じなのに、どうしてか性的嗜好というか性癖がちょっと変なやつに目をつけられた(?)し。


 あれは絶対悪い人だ。


「ねぇルーク。

 さっきの人ってもしかして知り合い?」


 ギルドの奥の方へと向かっていく大男の背中を見送りながら、サエルミアがルークに尋ねる。

 そういえばあの大男はルークの名前を知っていた。

 対する彼も顔見知りのような様子だった。


 私はサエルミアの影から出ると、ルークの方に視線を向けて話を促した。


「まぁな」


 しかし、彼はあまり答えたくないのか。

 短くそう答えて、何かを考えるように顎先に指を這わせる。


 しかし、それも束の間だった。

 彼は「いや、いざとなれば俺が……」と何やら意味不明な言葉を呟くと、頭を振って、掲示板の方へと向かった。


「何かあったのかな?」


 意味深な行動をとるルークに不審を感じた私は、彼の後ろを歩きながら、小声でサエルミアに話しかける。


「みたいね。

 ……もしかして貴女、彼のこと気になるの?」


「ふぁっ!?」


「ぶふっ!?」


 突然、予想外の言葉を呟かれ、奇妙な声を漏らしてしまう。

 ざわ、ざわと、ギルド内のざわめきがいっそう大きくなる。


 同時に、ちょっとだけこちらに向かう視線の数が増えたような気がする。


「ばっ、こらサエルミア何を急に!?」


「だって貴女、さっきものすごい顔で彼のこと睨んでたじゃない。

 もしかして嫉妬してるのかなぁと」


「そんなわけねぇだろ!?」


 急に何言い出すんだこのハーフエルフ!?


 私がこの野郎に惚れてるだと?

 あり得ない、絶対あり得ないから!

 むしろ惚れてるのはアイツの方だろ?


 あまりにも唐突な発言に、つい口を荒げて彼女の感想を否定する私。


 しかしサエルミアの方はどうやら否定とは受け取れなかったらしく、意味ありげに「ふ~ん?」とニヤニヤ笑みを浮かべるばかり。


 ちっ、この女郎私をからかいやがって。

 魔法の授業の時といい放課後といい、なんの嫌がらせだよまったく……。


 私はチッと舌打ちをすると、それ以上追求すると、なんだかまたからかわれそうな気がしたので諦めて呑み込むことにした。


 この苛立ちはゴブリンにでもぶつけて憂さ晴らしすることにしよう。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 ゴブリン。

 この世界において、スライムと同じくらい有名な魔物の一種。


 子供ほどの身長を持つ小柄な人型モンスターで、緑っぽい皮膚には細かな鱗が生えている。

 いわゆる鮫肌ってやつだ。


 性格は臆病かつ残酷で、性欲が強く繁殖力も強いため、放置すればすぐに数が増え食料を求めて人里に降りてくるようになる。

 これがいわゆる大氾濫スタンピードと呼ばれる現象で、これが起こると村はおろか、剛健な外壁に護られた街ですら滅んでしまうこともあるため、常に冒険者ギルドからは討伐依頼が発注されている。


「ちびっこ!

 ゴブ二匹そっち逃げたぞ!」


 捌き損ねた群れの一部が、防御魔法を使ってルークの援護をしているサエルミアの方へと向かっていく。


「誰がチビだコラァッ!」


 ──ドピュドピュッ。


 しかし、次の瞬間にはそのゴブリンたちの足下には、白い粘着質の液体が飛来し、二匹の動きを完全に止める。


「ギギッ!?」

「ギャグ!?」


 驚いたゴブリンはそのまま勢い余って前方に転倒、その勢いを利用するかのように、一閃の閃きが首元に滑り込んだ。


 ──ザシュッ。


 細かい鱗に一瞬だけ抵抗を受けるが、しかしこの名刀『桜吹雪』には敵わない。


 肉を斬る、まだ少し慣れない感触が刀身を伝って掌を刺激し、人間のものとは全く違う色合いの血液が、ゴブリンの首がら噴出する。


「せいッ!」


 吹き出した血液が後ろに纏めた銀髪に跳ねる事も構わず、下から掬い斬りした勢いを持って、二匹目のゴブリンの背中に体を捩じ込ませると、背中に向かって刀を突き下ろした。


 ──グシャッ。


 骨に阻まれる感触が指に伝う。


 今度は切れた場所が静脈だったからか、血が吹き出すことはなかった。


 私は蓬莱刀をゴブリンの背中から引き抜くと、サエルミアの方を見やった。


「終わったみたいね。

 それじゃ、血糊落とすわよ」


 こちらの足元に転がる死骸を一瞥するなり、彼女はテキパキと魔力を指に込めて術式を組み上げる。

 生活魔法《洗浄クリーニング》である。


「ありがと。

 最初はちょっと抵抗感あったけど、やってみれば結構あっさり片付いたよ」


 私は、着ていた革鎧に付着したゴブリンの血液が蒸発して消えていくのを確認しながら、にこりと笑みを向けた。


 現在私たちがいるのは、『はじまりの街』から歩いて一時間ほどの距離にある、私がこの世界で目覚めたときに居た森の中である。

 まだ全然浅い場所で狩りをしているため、それほど強い敵には遭遇していないが、これまでもゴブリンの群れ……というかパーティ?を二回くらい相手にしている。


 ……そういえば、ここに来てからゴブリン以外の魔物を見かけないな。

 クリーパーは擬態が上手いから見つけられないだけだとしても、それ以外の魔物がいないというのはちょっと引っ掛かる。


「抵抗感ってお前なぁ。

 相手はゴブリンだぞ?

 躊躇なんかしてたら殺されるぞ、お前」


 三匹ほどのゴブリンを引き摺りながら、ルークが呆れた声で近づいてくる。

 そのゴブリンたちはどれも、揃って目立った外傷がない。


 こいつ、剣で相手してた筈なのに何で獲物に切り傷がひとつもないんだよ……。


「うぐぅ……。

 仰る通りです……」


 あの日、私は戦う力を身につけて、自分の身を守れるくらいには強くなろうと決めた。

 そのために魔物を殺す覚悟だって決めた筈だったんだ。


 ……けど、現実そううまくはいかない。


 三度目の戦闘ということもあり、それなりに魔物の命を奪うことに関しては慣れてきてはいたが、如何せん絵面がグロい。


 幸い、決めていた通り強奪スキルを活用してゴブリンからスキルを奪った場合、死体は残らず破片と化すことは、最初の戦闘でわかった。

 このスキルを使えばグロ映像は見ないですむのだが、しかし厄介なものでもある。


『お前が強化されるのは別に良い。

 けどそのスキル、討伐対象の魔物には絶対使うなよ?』


 このスキルについて二人に打ち明けたとき、真っ先にルークに言われた台詞だ。


 そりゃそうだよな。

 だってこのスキル使っちゃうと死体が残らないんだし。

 討伐部位を剥ぎ取ることも、素材を回収することだってできなくなってしまう。

 結果、報酬が減る。


 確かに、討伐依頼を遂行するには邪魔なスキルではあるので、ここはおとなしく彼の指示に従うことにしている。


 ちなみに討伐部位とは、討伐依頼において虚偽の報告を防ぐためのシステムで、魔物を討伐した際は、その魔物を討伐した証明として、魔物ごとに指定されている体の部位をギルドに提出する必要がある。

 この部位を討伐部位と呼ぶ。


「でも私、グロいのってそんなに得意じゃないんだよね……」


「そんなの慣れよ。

 女なら戦場に立たなくても、嫌でもグロっちいのを見るはめになるんだから、我慢しなさい」


 ……え?

 なにそれ、私そんなの聞いてない!


 私は、いそいそとナイフを取り出してゴブリンの耳を削ぎにかかる二人を呆然と見下ろしながら、さらっと何か恐ろしいことを口にしたサエルミアに思わずハイライトの消えた瞳を向けた。


 ──と、そんな事をしていた時だった。

 微かに、私の耳に『グルルルル……』という獣のような唸り声が聞こえてきた。


「ッ!?」


 思わず、聞こえてきた方へと視線を向けて、鞘に納めていた刀の柄に手を掛けつつ、《望遠テレスコープ》の術式を組んで声の聞こえた方を注視した。

 するとそこには、今まで見てきた小柄なゴブリンではなく、大人ほどの大きさを持つ、デカいゴブリンが、何匹かのトリマキを連れてこちらに向かって歩いてきていた。

 ……しかもそのデカいゴブリンの黄色い瞳は、すでに狙いを定めているかのように、じっとこちらを凝視している。

 それはまるで、新しいおもちゃでも見つけたかのような、そんな嬉しそうな眼差しを孕んでいるように思える。


「ひっ!?」


 思わず、そんな悲鳴が口から漏れ出る。


 ……ヤバい。

 あれには勝てない……。


 本能が猛烈な勢いで警鐘を鳴らす音が聞こえてくるように、ドクドクと心臓が早鐘を打つ音が耳元に聞こえた。

 その野蛮な、そして力強い、今まで狩ってきたゴブリンとは何かが圧倒的に異なる気配に、柄に添えた右手がガタガタと震える。


 そんな私の唐突な異変に気がついたのか、サエルミアが怪訝な顔をして私の見つめる先へと視線を飛ばした。

 しかしやはり肉眼では見えていないのか、彼女は怪訝に眉をしかめると、同じように《テレスコープ》の魔法を使って私の睨む先を凝視して──遮るかのように、剣を抜いたルークがサエルミアの前に立ちはだかった。


「ちっ、こんな浅いところまで来てるなんて聞いてねぇぞ……」


 彼は同じく《テレスコープ》の魔法を行使しながら、奥にたたずむデカいゴブリンを睨み付ける。


「……ね、ねぇ二人ともどうしたのよ?」


 ルークによって遮られたために、二人が怯えているその正体を知ることができず、少し不安そうな声音で尋ねてきた。


「緊急事態だ。

 たぶん捕捉されてるから、サエルミアは急いで出きるだけ多目の魔力を注いで《反射リフレクション》の魔法を展開しておいてくれ。

 おと、戦闘になったら俺の援護を優先してくれ」


「わ、わかったわ!」


「あとイトー、お前は前に出るな。

 単純な戦闘能力なら俺の方が高い、お前はさっき同様にサエルミアを護れ」


「……わかった」


 私は彼の指示を受けると、ゴブリンたちから目をそらさずに摺り足でルークの後ろへと隠れた。

 同時に、いつ来ても対処できるように、《性能向上ステータスグロー》の魔法を使って、動体視力と反射速度を上げた。


 大丈夫だ。

 あれはただのゴブリン。

 ちょっと他の個体よりも図体がデカいだけの、ただのゴブリンだ。

 トリマキの数がちょっと多い気がするけど、きっと大丈夫。

 なんとかなる。


 そう自分に言い聞かせて、震える体を無理矢理に鎮める。

 すると不思議なことに、頭の中がスッキリとして、それまで感じていた恐怖がかなり和らいでいく感覚を感じ取った。


 どうやらいつの間にか、私はそういうものに対する耐性スキルを獲得していたらしい。


 ……これなら、なんとかできそうだ。

 そう、心のどこかで安堵した次の瞬間だった。


 《テレスコープ》で注視していたデカいゴブリンが、何やら近くにいたトリマキのゴブリンの首根っこを引っ掴む様子が映った。


「……まさか」


 脳裏に、嫌な予感がまるで閃光のように突き抜けた。


(……この感じ、私知ってる)


 刹那。

 

 ──ボゴヒュッドガァッ!!


 地面を爆破したかのような轟音が森中に轟いたかと思えば、そのデカいゴブリンは掴んだトリマキをものすごい勢いでこちらに向かって投擲してきた。

 しかも、衝撃波のお土産付きで。


「《リフレクション》!」


 間一髪、サエルミアが二枚目の魔法障壁を展開するが、しかし弱い。


 衝撃波を撒き散らしながら飛来してきたゴブリンミサイルは、一枚目の《リフレクション》に引っ掛かると、半分くらい威力を削いだもののすぐに突破され、二枚目の《リフレクション》すら貫通してきてしまったのだ。


「ッ!!」


 しかしこちらもそれで敗けを認めるわけにはいかない。


 ──ガギィィィ!


 貫通してきたゴブリンを、ちょうど真正面にいたルークが、どこからともなく巨大な盾を召喚して横に受け流した。



「いってぇ……。

 なんつう破壊力だよ……」


 あまりの威力に愚痴を吐きながら、ルークは盾を構え直した。


 一方でサエルミアも《リフレクション》を再度組み直す。

 今度は二枚重ねじゃない、もっと強く、もっと厚く、もっと多く──!


「《リフレクション》!」


 ──と、その瞬間だった。


「グルルラァァァ!!」


 ──ボゴヒュッドガァッ!!


 まるで、さっきのは様子見程度だったのだと言わんばかりにヤツは雄叫びをあげると、二匹のゴブリンの首根っこを引っ掴み、続けて衝撃波を伴ったゴブリンミサイルを放ってきたのだ。


「くそっ、盾がたねぇ!」


 ゴォォン!という、まるで寺の鐘でも打ち鳴らしたかのような金属音が、森一面に響き渡る。

 サエルミアの展開した《リフレクション》の魔法が、いとも簡単に貫通されてしまったのである。


 これでは負けるのも時間の問題か。


 私がそう感じたとき、悔しそうに呻きながら舌打ちを放つルークの声が鼓膜に響いた。


「作戦変更だ!

 俺がサエルミアを守るから、イトーがあいつらに突っ込め!

 サエルミアはイトーのバックアップを頼んだ!」


「無茶だ!

 ルーク、お前私があれに勝てると思ってるのか!?」


「そうよ!

 今の彼女の戦闘能力じゃ自殺行為よ!?」


 私の抗議に、サエルミアが援護の声を飛ばす。

 しかしルークの方はといえば真剣な表情で、生きることを諦めて投げやりになった様には見えない。


「いや、できる。

 冒険者の戦いってのは何も、いつも真っ向勝負でなきゃいけない決まりはないんだ。

 真正面からぶつかって無駄なら、後ろから回り込んでやれば良い」


 真正面が駄目なら、後ろから攻めろ……ってまさか!?


 私は、彼の言葉を聞いて、ルークの思い起こした作戦を推測していく。

 その作戦というのは、まさに無謀の一言で片付けられるものだ。

 もし失敗すれば命の保証はないし、そもそも成功率の方が極めて低いようにも思える。


 だけど……でも……。


「どうせ逃げても死ぬなら、抗ってから死んだ方がマシだろ?」


「……だな。

 乗ったぞルーク!」


 私はポーチから魔力回復のポーションを引っ張り出すと、サエルミアの足元に転がした。

 ついでに体力回復のポーションも、ルークの側に転がしておく。


 彼女は自分の足元に転がってきた、赤い液体の入ったビンを一瞥すると、ニッと強気な笑みを浮かべて作戦に賛同した。


「それ以外に方法がないなら……わかったわ。

 イトー、あなたは私が全力でサポートするわ。

 ……だから、絶対に勝って」


 こうして、私たち三人のパーティによる、初の修羅場潜りが行われるのであった。

ホブゴブリンや、それは砲丸やない。

ゴブリンや。

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