私、ナルシストになる。
どうも。
ようやく『はじまりの街』に帰れるということで、少し嬉しいイトーです。
『ツィトの街』では、エレオノーラさんに介抱してもらう他には、魔法の勉強くらいしかしてなかったので、長期の休暇でも入ったらまた来ようと思ってます。
エレオノーラさんにはちゃんとお礼を言いたいしね。
……え?
ミラとマーリンさんにも早くお礼を用意しないといけない?
まあ、そうなんだけどね……。
何をあげればいいか、ちょっと迷うんだよねぇ。
それに、ミラに感謝のお礼っていうのはちょっと癪だし。
かと言って何もしないのもなんだか申し訳ない。
あの人たちのこと、そういえばよく知らないからなぁ。
まずはそれを探るところから始めようか。
手始めに、学校が終わったらマーリンさんを尾行してみよう。
何かわかるかもしれないし。
閑話休題。
『ツィトの街』から『はじまりの街』に帰還するには、何もなければ乗合馬車で二日過ごさなければならない。
乗合馬車というのは、まあ簡単に言えば現代で言うところのバスのようなものだ。
エラオノーラさんが言うには、もっと都会の方に行けば列車やバスが走ってたりするらしいのだが、田舎の方にあるこの辺りには、まだ鉄道は引かれていないらしい。
ちなみに、このバスだとか鉄道や列車というものを考えたのは、ゴーレムについて研究をしていたグループらしい。
……魔導列車、ロマンがあるね。
別にそこまで鉄道関連に興味があるわけではないけど、学校卒業したら一度は乗ってみたい。
うーん、やりたいことが一気に増えたなぁ。
いや、やりたいこともそうだけど、しないといけない事も増えた。
自力の強化、恩人へのお礼。
一先ずはこの二つをなんとかしない限りには、したいことなんてできなさそうだ。
この小さな体には、少し負担が多すぎる気がする。
さてさて。
そんな私が巻き込まれた事件の後処理を、学校が主体となってやってくれるそうなので、私はもう今回の事件を忘れて――いや、ホントは忘れてないんだけどね?――乗合馬車で揺られていると、急に馬車が車輪を止めた。
「どうしたんですか?」
気になった私は馬車の幌を捲って、馬車の横を馬に乗って並走する冒険者育成学校の先輩に尋ねようと見をよじる。
しかし、その私の動きは中にいた、同じく『はじまりの街』に向かおうとしていた旅人に制された。
「しっ。
動かない方が良いですよお嬢さん」
旅人は緑のとんがり帽子の隙間から鋭い視線を向けながら、小声で慎めた。
「こういう時は、大抵盗賊か魔物です。
幌から出てしまうと護衛の冒険者さんたちの邪魔になるからね」
私はその説明を受けて、なるほどと納得する。
確かに彼の言う通りだ。
何かを守りながら戦うということは、つまり敵に対して意識を向け続けると同時に、守るものに対する配慮も必要となる。
すなわち、意識がやむを得ず二分されてしまうのだ。
別に守るものがない盗賊からすれば、それだけでそれは護衛の本気を出させないという点で有利になる。
まして、私のような美少女が乗っているともなれば盗賊たちの戦意も増すことだろう。
それはかなり厄介になるに違いない。
……え?
自分で自分のことを美少女って言うのかって?
いやいや。
事実そうなんだから仕方ないでしょ。
このシルクのようにサラサラな銀髪ぅ……とまでは行かなくても、銀色の髪は珍しいし、精巧なビスクドールを思わせる肉体は、オスの情欲をそそらせるのに十分だ。
……え?
そんなのはロリコンしかいないって?
バッカ、これからの成長を思うと、なかなかの美人だろうが!
お人形さんみたいとは私のことだ!
……あれ?
私はいつからナルシストになったんだ?
閑話休題。
旅人の男性はそう言うと、用心のためなのか、腰から下がっているナイフの得に手をかけて、幌の入り口まで這い寄る。
その動きは衣擦れの音が一切せず、スニーキングという言葉がピッタリだった。
あれ、何かのスキルかな?
あんな長いマント羽織ってて、よくそんな動きができるものだ。
そう感心しながら旅人の様子を見ていると、不意に聞き覚えのある鳴き声が、かすかに耳に届いた。
「ギギッ!」「ギギィッ!」
歯ぎしりをするような、喉の奥で細かく震えるような、しかしそれでいて甲高く、動物でも人間でもない鳴き声。
うん。
これ、最近聞いたことある鳴き声だから知ってる。
この鳴き声はゴブリンだ。
私は幌の隙間からチラリと外の様子を覗き見る。
顔を出すわけではないし、これくらいなら別に大丈夫だろう。
私は隙間から外の様子を覗うと、どこにゴブリンがいるか探ってみることにした。
隙間から見える景色は狭い。
しかし、少なくとも街道沿いに森があるということだけはわかる。
(これだけ見えていれば十分か)
私は指先に魔力を集めると、エレオノーラさんに教えてもらった生活魔法の一つ《鏡面加工》を服の袖に施した。
この世界において魔法は、指先に魔力を集めて、中空に対応するルーン文字を羅列することで発動させる。
このとき、羅列されるルーン文字の集合を術式と呼ぶ。
例えば今回の《鏡面加工》の術式は『摩擦を軽減させて光を反射する』だ。
ちなみにこの魔法は生活魔法の一つで、よく主婦などが出掛けた際に手鏡の代わりとして使う魔法らしい。
「……いた」
私は袖を手鏡のようにして、死角となっていた部分を保管する。
するとそこには、二匹のゴブリンの姿が映っていた。
だが、どうやら聞こえてくる足音から想像するに、多分それ以上の数がいる。
三匹か四匹かわからないけど、これだけの人数を堂々と襲える規模なのは間違いない……と思う。
いくらゴブリンでも、それくらいの知恵はあるだろうし。
私は、更にゴブリンの特徴を観察した。
手には初めて見たときと同様に木の棍棒が握られている。
武器鑑定スキルを呼び出して確認してみたが、何の変哲もない、ただ木を削っただけの棍棒だ。
これなら、剣と弓で武装している冒険者なら容易くあしらえるだろう。
私もゴブリンと遭遇して戦ったこともあるけど、あいつらの戦闘能力はまるで子供だった。
転移してきたばかりの私でも、気絶させるくらいはできたのだ。
他の冒険者が手間取るなんて思えない。
そう思ってゴブリンたちを見ていると、ヒュッという短い音が聞こえたかと思えば、ドスっと鈍い音が聞こえて何かが崩折れる音が聞こえてきた。
どうやら護衛の冒険者が弓で一匹仕留めたらしい。
続いて二度、三度と弓の音が聞こえ、暫くすれば《鏡面加工》が施された袖に映るゴブリンにも、矢が突き刺さっているのが見えた。
(ぅわ、喉元に一発。
しかも即死かよ……)
やっぱり冒険者すごいわ。
まったく敵を寄せ付けずに安全圏から仕留めている。
私は、その腕の良さに興奮して、口の中に溜まった唾をゴクリと呑み込んだ。
おそらく、心臓や頭を狙わずに首を射抜いたのは、声を出されて仲間を呼ばれないようにするためだろう。
後は……たぶん、頭を狙わないのは、頭蓋骨が固くて矢が頭に刺さらないとか、心臓を狙ったとしても直ぐには絶命しないからてか、そんなところくらいしか思いつかない。
どこかで聞いたけど、生き物って心臓がなくても何分かは意識が残ってて、無理をすれば動き回れるらしいんだよね。
「すごい……」
思わず口に出して呟く私。
その一言で私が幌から外を覗いていたことに気がついたのか、警戒を終えた旅人さんが近づいてきて、私の肩を後ろに引き寄せた。
「うわっ?」
その力が少しばかり強かったのか。
私はバランスを崩して、旅人の胸元に後頭部があたった。
(……あれ?
この人、胸に何か仕込んでる?)
僅かに、弾力のある感触が後頭部を受け止める。
その感覚はどこかで触れたことのあるような気がしたが、それが何だったのかは思い出せない。
オノマトペにするなら、ふにふにという表現が近いだろうか?
「危ないですよ、お嬢さん。
もし流れ矢が来たらどうするんですか」
「ご、ごめんなさい……。
ちょっと気になっちゃって」
優しく諭すように叱る彼に、私は素直に謝った。
確かに、相手がゴブリンだからといって弓矢を使わないとは限らないし、冒険者でも矢を打ち漏らすこともあるだろう。
もしかしたら何かが狂って曲がり矢がこちらに飛ばないとも限らない。
……意外と冒険者って色々考えて動かないとだめなんだな。
昨今のラノベだと、主人公がチートでゴリ押したりとかするから、こういうリアルな事情にまでは思考が及ばなかった。
考えてみるまでもなく、冒険者は命のやり取りを主にする職業だ。
つまり冒険者を目指す以上、常に身の安全には気を使わなければならない。
魔法使いになって、後方からポンポン遠距離射撃系の魔法撃ってりゃ安全かと思ってたけど、どうやら見直したほうがいいかもしれない。
旅人はそんな様子の私を見下ろすと、『わかったならいいんだよ』と軽く頭を撫でたのだった。
あれぇ、おっかしいなぁ。
ユリモノにしようと考えてたのに、気がつけばTS逆ハーモノになりそうな気配が漂い始めてるぞ……?
いや、ハーレムモノにするつもりは微塵もないんだけどね?
……どうなるんだ、コレ?




