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私、おはじきになる。

 第零章最終話です。

 あんまりボリューム大きくないけど勘弁してね?

 どうも。

 『はじまりの街』から迎えが来たと言うので、合流場所の冒険者ギルドに向かってみると、なぜか知らないが例の変態野郎チャラ男に見つかってしまいました。


(な、なんでこいつこんなところにいるんだ!?)


 私の記憶が確かなら、このチャラ男はマーリンさんのアーティファクト《貪り食う者(グレイプニル)》に捕まって十年間の禁固刑に処されていたはず……。


 それが、それなのになぜこいつはこんな自由に外を出歩いているんだ!?


「なんでって、キミに会いたかったからに決まってるじゃないか!」


「いや、理由になってないから」


 私は、答えにならない返事をさも当然とでも言いたそうに告げてくるチャラ男に、心の底からため息をつく。


 まさかとは思うが、アーティファクトによる拘束を抜けてきたのか?

 こいつの技量も、マーリンさんの技量もまだ私にとっては未知数だ。


 今まで私に出し抜かれていたのを道化を演じていたと解釈するなら、もしかするとあのアーティファクトのシーンだって道化を演じていたと考えられなくもない。


 それに、初めから私の隠蔽スキルも完全に見破っていた。

 他の人たちが今の私の隠蔽スキルに対してどのような反応をするのかは知らないけど……いや、少なくともあの三毛猫の獣人は私の幻覚に引っかかってたし、ジャガーの人も興奮して気づかなかった……。


 ……ぬぅ。

 帰ったら自分のスキルがどの程度の精度を持ってるのか確かめないといけないなぁ。


 私はとりあえずこのチャラ男を無視して、この騒ぎの元凶を確かめるべく、周囲を見渡した……その時だった。


「うぇっ!?」


 突如目の前に見覚えのある、紫色の菱形の魔法陣が展開したかと思うと、そこから黒い何かが私に向かって飛んできたのだ。

 私はその現象に咄嗟の反応ができず、そのまま黒い何かに押し倒されてしまった。


「良かったぁ〜!

 無事で本当に良かったよぉ〜っ!」


 そう言って、半ば声を震わせながら顔を押し付けてくる黒い物体――もとい、ミラを全力で両手で押し返す。

 しかし、やはり出どころのわからない怪力に負けて、私はされるがままになってしまう。


「は〜な〜れ〜ろ〜ッ!」


 心配してくれるのは正直嬉しいけど、ここまで暑苦しいのは求めてないから!

 押し返されたならすんなり引き返してくれていいから!


「心配したんだよ?

 ルーク君が知らせてくれなければ、イトーちゃんが攫われたことにすら気づけなかったんだから!」


 ……え?

 どうしてそこでルークの名前が出てくるんだ?


 私は彼の言葉に首を傾げながら、思い当たる部分が無いか記憶の中を探ってみることにした。


 ルーク・レデオロス。

 確かフルネームはそんな感じだった気がする。

 一回しか聞いてなかったし、そもそも覚える気とか全然なかったから虚覚えだけど、ルークという名前が、門番の息子なのに城壁ということが面白かったので記憶にある。


 ……え?

 前世の世界でのルークという名前は、ルカ記から引用されているから、そもそもルークのスペルが違うって?


 いやいや、だとしてもここは異世界だよ?

 前世の聖書がこっちにあるわけ無いじゃん。


 ……だったら、ルークも城壁とは別の意味かもしれないって?


 うるさいよ。

 別にいいじゃんかどっちだって!


 閑話休題。


 ――で、だ。

 あの子はたしか、よく会うあの門番さんの息子だったんだよね。

 それを知ったのは……えっと確か、制服を買いに来たときだっけ。

 採寸の順番待ちしてたら門番さんがルークを連れてきて、初対面。上から目線な自己紹介で、父親に頭を殴られていたのを覚えている。


 たしか、その自己紹介の内容は……『俺はお前とは違うから、そこんとこよろしく』みたいな、高圧的なのか馬鹿なのかよくわからんセリフだったっけ。


 ……さて。

 ここまでの展開で、果たして彼が私を助けようと奮闘する理由があっただろうか?


(……無いな)


 うん。

 ありえないね。

 確実にそんな動機になりそうなことは、私何もしてないし。


 仮に、私に惚れて、心配になって調べた……とかなら、別に不思議に思う要素は……いや、それでも不思議か。

 私は恋愛したことない(というか、していたとしても覚えてない)から、恋に落ちたから助けようとするという気持ちの流れがよく理解できない。


 ……頭ごちゃごちゃになってきたな。

 これはもう、直接聞くしかないか。


 ……え?

 何を聞くのかって?


 言わせるな馬鹿!

 そんなの、私に一目惚れしたのかどうかについてに決まってるだろ。


 いや、正直されてても困るんだけどね?

 私に男を愛でる趣味も、愛でられる趣味もないから。


 でも、心配してここまで駆けつけてくれたことには、素直に感謝しないといけないよな。


 なんか、癪だけど。


 私は抱擁を緩めてくれたミラから離れると、ぎこちない動きで腰を折り曲げた。


「……心配してくれてありがとうございました」


「うん。

 戻ってきてくれてありがとう。

 よく頑張ったね」


 彼はそう言うと、私の低くなった頭にポンと手を乗せて、よしよしと静かに撫でるのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「ところで、どうしてこんなに人が集まってるの?」


 私の騒動も一段落したところで、未だギルド前から去らずにこちらを見ている冒険者たちに違和感を感じた私は、小首を傾げてミラに尋ねた。


「あー、それね。

 イトーちゃんも無関係じゃないから……というか、中心人物だし、話しておかないとね」


「?」


 彼の話を一言で説明すると、見せしめが今回の目的らしい。

 ちなみに、指揮をとっているのは冒険者育成学校の校長スキンヘン・ハーゲン。

 集まっている野次馬たちは、実践演習の授業でミラのクラスから連れてこられた、冒険者育成学校の三回生たちだったようだ。


 単なる見せしめだけでなく、生徒たちの実力を実践の場で披露する演習も含めているとは、さすが物騒な学校である。


「つまり校長先生曰く『一石二鳥』だってさ」


「マジかよ……」


 なんかものすごく安直な気がするけど、既に決まったことなら仕方ない。


 俺は肩をすくめると、ふと私に向かう別の視線を感じた。


 その視線は、先程から受けていた劣情に駆られた気持ち悪い視線や、アイドルを崇めるような視線とは違う。

 ただ観察されているような、何の感情も持ち合わせていない怖目で機械的な視線だった。


「ん?」


 気になった私は、見られている――というよりも観られていると感じた方向へと首を向けた。

 しかし、そこには何もなかった。

 あるのは、広い道を行き交う人々と、馬車、露店くらいだ。

 道脇に並ぶ四、五階建てのマンションに視線を移しても、やはりそこには何も居ない。


 ……とすると、人ではなく機械系か?

 この世界だとゴーレムか、もしくは監視カメラみたいな機能のついた魔道具か、もしくは遠視系の魔法?


 でも、一体誰がそんなことを?


 そう、私が視線を感じた方向に首を曲げて思考の海に浸かり始めたときだった。


「どうかしたの?」


 私の思考を遮るように、ミラが心配そうに声をかけてきた。

 その表情は心配している表情だったが、そのベクトルは別の方向に向いているような、奇妙な違和感を覚えて私は小首を傾げる。


「……いや、なんでもないよ」


 私は笑顔を繕うと、彼にそう返事をして最後にもう一度だけ視線を感じた方向に意識を向けた。

 しかし、今は何の気配もしない。


 ……気のせいかな?


 私はそう自分を納得させると、ミラに護衛をつけられながら『はじまりの街』へと帰還するのだった。



 というわけで、第零章『私が覚悟を決めるまで。』終了です!

 ここまで読んでくれた読者の皆さん!

 お付き合いいただきありがとうございました!


 次回からは、今回の事件をキッカケに魔物と戦う覚悟(正確な内容はお察しいただければ幸いです)を決めたイトーちゃんが、大群相手に大活躍します!


 次章からは戦闘シーンが多くなる予定ですので、その辺は期待していてくださいね!


 というわけで、次章『私が卒業するまで。 ゴブリン侵攻編』お楽しみに!

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