私、ドッキリになる。
どうも。
内蔵が破裂した痛みと、森の中を彷徨ってスタミナ切れになった衝撃で気を失ってたら、いつの間にか手術されて内臓の傷が治療されてましたイトーです。
助けてくれた青年のようなお姉さん(後で名前聞いたけど、エレオノーラと言うらしい)が言うには、今日を含めて三日間は安静にして激しい運動は避けたほうがいいとのこと。
あ、あとついでに例の問題となっていた呪いの首輪もエレオノーラさんが外してくれてました。
昨日夕食をご馳走してもらう時に知ってめちゃくちゃ感謝しました。
というわけで、三日間は車椅子生活です。
結構カーブのときとか難しいけど、これはまぁ、慣れればいけるかな。
――というわけで、今は練習中です。
……え?
なぜ車椅子なのかって?
いや、なんか疲れすぎたのかどうかわからないけど、膝が笑って脚に力入んないんだよ。
エレオノーラさんが言うには、疲労が溜まってるんだろうって話だけど……。
これじゃあ、当分は『はじまりの街』に帰れないね。
あ、そうそう。
これもついでに聞いてきたんだけど、今私がエレオノーラさんに保護されているこの場所は、その『はじまりの街』から馬車で二日くらい離れたところにあるらしい。
『ツィトの街』と言うらしく、スライムの牧畜(?)が盛んなんだそう。
なんでも、スライムから革をとったり、分泌液から石鹸とかを作ったりするんだとか。
スライムって、ただの雑魚モンスターじゃなかったんだね。
初めて知ったよ。
ていうか、スライムから革が取れるってことにビックリだよ。
エレオノーラさん曰く、私の着ていた水着にもこのスライムの革が利用されているのだとか。
意外と身近なところで活躍してたんだね、スライム。
そうそう。
水着で思い出したけど、エレオノーラさんの家に居候(というとちょっと違うかもしれないけど)させてもらっている間、私の体のサイズに合わせて衣服を二着仕立ててもらった。
なんでも、妹さんのお下がりなんだとか。
ちなみに何歳の頃に着ていたのか聞いてみたところ、六歳という言葉が出てきてちょっとショックを受けたりしていたのはまた別の話だ。
……ていうか六歳でこのサイズ着るって、なかなか発育がいいなその妹さん。
そういえばエレオノーラさんも結構身長高いし、遺伝なのかもしれない。
(これでこの世界での標準サイズとかだったらもう私泣いちゃうけど)
答えが怖いので、とりあえずその質問は保留にした。
「おいイトー。
まだ傷口塞がりきってないんだからあんまり動くな」
暇すぎて何もすることが無かったので、とりあえず車椅子の操作に慣れておこうと練習していると、部屋の前を通りがかったエレオノーラに諫言を食らった。
「ごめんなさい。
でも、ちょっと寝たきりなのは暇で暇で……」
「ったく、暇なのはわかるが、そんなんだと傷口開くぞ」
「うぐっ……申し訳ない」
確かに、せっかく施術してもらったのに、傷口が開いてもう一度手術してもらうわけにも行かないだろう。
ここは大人しく引いておくとするか。
私は頭を下げると、車椅子をベッドのそばに停めて布団の上に這い上がった。
ベッドに内蔵されたコイルスプリングが、程よく私の体重を受け止める。
ああ、ふかふかだ……。
そんな様子の私を見て、エレオノーラさんは小さくため息をつく。
「まあいい。
なら、代わりに好きな本を貸してやろう。
……と言っても、家にあるのは学術書くらいだが、それでも子供のお前には子守唄くらいにはなるだろう?」
そう言って、彼女は私に代替案を提示してきた。
(なに、学術書だと!?)
その言葉に、私は昨日自分に誓った言葉を思い出した。
そう、それは『もしまた攫われるようなことがあったとしても、一人で戦えるように力を身につける』ことだ。
その手始めとして、街に戻れたら真っ先に魔法の勉強をしようと決めていたのだ。
私は、布団の上でグッと拳を握り込んだ。
ここに学術書があると言うなら、魔法関連の学術書もひょっとすればあるかもしれない。
というわけで、私はエレオノーラに『あるなら一番簡単な魔術書がいい』と答えた。
「魔術書ね。
それなら確か娘が持ってたから借りてくるよ」
「……娘さん居たんですね」
「とっくに成人してるけどね」
……この人、何歳なんだろう?
見た目的には三十路超えてない気がするんだけど……まあ、野暮なことは聞かないほうがいいか。
私は彼女にお礼を言うと、大人しくベッドの上で魔術書の到着を待つのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
そんなこんなで、魔術書を読みながら療養すること三日が経ちました。
今ではすっかり手術痕はなくなり、抜糸も完了してキレイなお腹が元通りになっています。
……え?
回復するのが早すぎだって?
まあ、前世の地球での科学と自然治癒に頼った医療ならもっと時間も掛かったことだろう。
しかし思い出してほしい、ここは魔法の世界なのだ。
魔法があって当たり前で、傷を追うことなんて日常茶飯事な世界なのだよ。
だからこういう事もあっておかしくないのさ。
……まあ、本当は傷の治りを早めるためにポーションを飲んでいたんだけどね。
あとついでに、エレオノーラさんにポーションの作り方を教わって自分でも作れるようになりました。
やったね!
これでポーション代が浮くよ!
まあ、浮かせて得するほど貧乏ではないんだけどね。
今は無一文だけど。
「三日間お世話になりました」
私は、エレオノーラ宅の前で深々と腰を曲げた。
それに対して、エレオノーラさんは恥ずかしげに頬を掻く。
「いいよ別に。
こっちは手術の他にはポーション飲ませるくらいしかしてないんだから」
「いえ、そのおかげで今があるんですから。
このお礼はいつか必ずします」
それだけじゃない。
彼女には療養中、生活魔法の基礎も教えてもらっていたのだ。
これはきっと、この先の人生で絶対に役立つものだ。
この人は命の恩人と言って間違いない。
私は再度深々とお辞儀すると、エレオノーラさんに笑顔を向けた。
「はぁ……。
まあいいか。
昨日も話したと思うが、お前の迎えが冒険者ギルドで待っている。
ある程度の事情は話しておいたから、少しは報告が楽だろうよ」
彼女はそう言うと、しっしっと手を振って私を追い出した。
そんな彼女の素っ気なき仕草が無ければ、多分きっと、私はいつまでもお辞儀し続けたに違いない。
私はありがとうございましたと伝えると、その足で冒険者ギルドに向かった。
「にしても、いい人だったなぁ……」
『ツィトの街』をあるきながら、私はこの三日間の事を思い出していた。
素っ気ない態度で私を見送っていたが、彼女はとても心の優しい人だ。
ぶっきらぼうなところが、また自分に後ろめたさを与えず、スッキリと別れさせてくれるところが、彼女の優しさである。
また会いたい、そう思える人だった。
「卒業したら、またここに来るか」
それかもういっそ、卒業後はこの街を拠点に置こうか。
私は、いつか来るだろうそんな未来に思いを馳せながら、貰った地図を頼りにギルドへと続く大道路へ道を曲がる。
「……ん?」
すると、道を曲がってすぐの事だった。
何やら騒がしい声が私の耳に届いてきたのだ。
しかもその騒ぎは、今まさに向かおうとしていたギルドの前にできた人集りから聞こえてきている。
「催し物でもしてるのか?」
人込みの奥に関心が湧いた私は、早速人の壁を抜けて騒ぎの原因を確かめるべく強引に身を滑り込ませた。
体が小さいからか、あまり苦労せずに私は人集りを抜ける。
「いったい、何が起きてるんだ……?」
私は人と人の間から顔を覗かせると、その騒ぎの中心を見て一瞬思考が停止した。
「銀子ちゃん!
やっと見つけた、探したんだよ?」
……その一瞬の思考停止、もとい現実逃避が災いしたのか、私は悪魔から逃げることに失敗した。
「げ……。
なんでここにいるんだよ、チャラ男……」
そう、そこに居たのは『はじまりの街』てさんざん私を付け回したストーカー変態ロリコン野郎のクソ野郎、チャラ男だった。
「なんでって、キミに会いたかったからに決まってるじゃないか!」
「いや、理由になってないから」
いやほんと、なんでこんなところにいるんですかね?
こいつ、たしかマーリンさんのアーティファクトで拘束されて、あと十年は顔を見ないで済むはずだったんじゃなかったっけ?
それがどうしてこんな所にいるわけ?
意味わかんないんだけど。
私は、答えにならない返事をさも当然とでも言いたそうに告げてくるチャラ男に、心の底からため息をついた。




