私、巌窟王になる。3
どうも。
奇跡的に直近の危機から抜け出すことに成功したイトーです。
いやぁ、危なかったね。
あのままやり取りが続いてたら死んでたかもしれない。
……ていうか、今でも結構死にそうなくらい腹痛いんだけどね。
なぜか知らんが、普通に動く分には問題ない。
痛くないというか、痛いのは痛いんだけど、耐えられる感じかな。
内蔵が破裂したかもしれないレベルのダメージでも動けるスキルかぁ。
……いつの間にか、そういう系のパッシブスキルでも習得していたのだろうか?
帰ったら早速スキルチェックしないと……。
私は静かに扉を閉めて、トリモチで扉を固定した。
もし探している間に闖入でもされたら困るからな。
私は扉の隙間に指を這わせると、扉と壁の隙間にトリモチを満たして接着し、ついでにドアノブが回らないようにトリモチで固定した。
(これでよし)
私は簡易な施錠を施すと、ざっと部屋の中を確認した。
この部屋は、あのアインズバーグ博士とかいうジャガーの獣人が出てきた部屋だ。
おそらく作りからして準備室のようなものだろうと考えていたが、どうやら当たりらしい。
薬品棚の数はさっきの部屋よりも多く、しまってある機材も多い。
イメージとしては科学準備室といったところか。
……まあ、見たことないからわからんけど。
(……ん、あれは?)
私は、部屋の真ん中にある、周囲よりも幾分片付けられた机の上が気になり、調べることにした。
するとそこには、錘でページが固定された本と、何やら科学実験の準備でもしている最中のようなキットが机に並べられていた。
私は椅子を引っ張り出してその上に飛び乗り、そのページに書かれている内容を読んだ。
「『解ヤコブボロギグ毒剤』……ってことは、まさかあの飴玉のレシピ?」
いや、そんなご都合主義みたいなこと現実的にあるか?
一瞬焦った私の頭が、理性的な思考を取り戻す。
しかし、それに対して私は首を横に振って否定した。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
そこに解毒剤があるのなら、何個か手に入れて持ち運ばないと。
私はそのレシピに目を向けると、器具や必要な薬品が揃っていることを確認して、そそくさと解毒剤の調合を始めた。
……時間、足りるといいんだけどな。
⚪⚫○●⚪⚫○●
ある種の毒の場合、動物に少量の毒を注射して、でき上がった抗体を血中から抽出することによって解毒剤(血清)を作る場合がある。
この方法により、毒蛇や、毒蜘蛛、その他の有毒な生物の毒に対する解毒剤が作られている。
覚えている(というか知っている)限りでは、多くの生物毒には有効な解毒剤が存在しない。
だから、この様な毒で咬まれたり刺されたりすると死に至ることがある……らしい。
……つまり、私の知る限りでは現状解毒剤を作るには血清という手段しかないのだが、ここは魔法が存在する世界である。
本の上に書かれたレシピは、血清とは全く違い、魔法を使って概念格に干渉し、毒の成分を解析して効果を打ち消す概念格を作成する方法らしい。
概念格については、錬金術の教科書を読んだときにちらっと確認したけど、よく理解できなかった。
なんでも、その物体が物体であるとき、周囲からそうであると認識されているロゴスのうんたらかんたら……。
難しすぎてよく覚えていない。
たぶん、この世界をゲームだと仮定して、そのアイテムに設定されたプログラムのようなものが概念格だと思うんだけど……。
この想像が正しかったら、この世界の錬金術って結構ヤバイ気がするんだよなぁ。
ただ、概念格に干渉するには特別な道具が必要で、それがさっきあのジャガーのおっさんが持ってこいって言ってた『アルカナ盤』らしい。
……待てよ?
ということはアイツ、私のプログラムを書き換えようとしてたってこと……!?
(……逃げて正解だったわ)
私は置いてあったアルカナ盤の上で、レシピ通りに操作を終えると、そこに出来上がった飴玉をポケットに入れ……ようとして、そういえばこのブルマってポケット無いんだった。
「何か鞄は……」
私はそろそろ痛みに慣れてきた体を庇いながら、解毒剤を持ち運ぶ鞄を探す。
扉の外ではまだ言い争う声が聞こえているから、まだ時間には余裕がある。
……ていうか、どれだけ長い時間言い争ってるんだ?
ここまで長いと罠が何かにしか感じないんだけど。
というか、そもそもこれって言い争っているのか?
ラジオみたいに録音したものを流しているだけで、実際には私が出てくるのを待っているんじゃ……。
そう思った私は、鞄を探す手を止めて耳を澄ませた。
『そもそも、何であの娘にこだわるんですか!
二年も探すくらいなら、別の子供をさらってきて実験すればいいじゃないですか!』
これは、ニワトリの声だ。
どこかしら私を擁護するような発言に聞こえなくもないが……なぜだ?
『我輩があそこまで育てるの――だけの時間をかけたと思っ――ぅ!
それにあれは他の個体とは違うん――!
あの個体は――での後天的な被験体ではない、我輩が一から生殖――を創って――を操作して、やっと事で生み出した正真正銘の――ムン――ぉ!
それに、自然――か――発現させた――れが初めてなんだぞ!?』
……ん?
興奮しすぎているのか、ところどころ聞き取れないな。
だが、この話が長引いている理由の一つが、どうやらアインズバーグとかいうあの博士の自慢話が混じっていることだというのはよくわかった。
『そもそもだ!
自然界には存在しない――をつく――けの研究が必要――!』
……ほらね。
きっとあのアインズバーグとかいう男は、自尊心が高いんだろう。
おかげで、意図せずに話が長引いてくれている。
こんな幼い子供に絞め殺されかけたというのも、話をヒートアップさせている原因に繋がっていそうだ。
……だが、悠長はしていられない。
私は漸く手頃なポーチを見つけ出すと、それを越しに巻きつけて中に飴玉を突っ込んだ。
ポーチには他にも色々入っていたが、それを取り出している時間が惜しい。
私はもう一つ奥の方に見つけた扉に忍び寄ると、耳をそばだてて向こう側の気配を探った。
(……人の通る気配はないな)
足音も息遣いも聞こえない。
これなら、外に出ても十分安全だろう。
いや、この状況に安全なところなどないも等しいか。
私は気を入れ直すと、こっそりと裏口から準備室を後にするのだった。
待たせてしまった割にはボリューム少なくてごめんなさい。
でも、ここを抜ければ元の感じ……よりも少しグレードアップする予定ですので、付き合っていただければ幸いです。




