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私、巌窟王になる。

 どうも。

 よくわからない犯罪者に捕まった挙げ句、ニワトリ頭のなんか変な人に連行されてますイトーです。


 ホント、どうしてこうなったのか甚だ疑問なんだけど、コイツらがただの人攫いとかではないのは、連れ去られる前にちょろっと聞いた会話文から想像がつく。


 にしても、コイツらさっきから私のことをギンコギンコって呼ぶけど……。

 もしかしなくてもあのチャラ男と何か関係あったりしないだろうな?


 私は、シャツの襟から覗く鳥人の羽毛をジッと睨みつけながら、最近出現しないチャラ男の事を思い出した。


 あの変態マゾ野郎は、私のことを銀子と呼んでいた。

 あいつの場合は、ただ単に私の髪が銀色だからとかそういう理由で呼んでいたのかもしれないが、もしかするとコイツらと同じく、私が記憶を失う前の名前を知っていて、その名前で呼んでいた……という可能性も否めない。


 ……いや、突飛しすぎか。

 あのチャラ男は、今はマーリンさんが拘束して私に会えないように図ってくれているし。


 んー、いや、それも除外の理由にはならないかな〜……。


 私はニワトリの後ろにつきながら、石造りの螺旋階段を登る。

 階段の壁には、一定の感覚で鉱石灯が灯されており、足下を照らしてくれていた。


 そうやって階段を登り切ると、また鉄の扉が現れた。


(何でこんな厳重に閉じ込めてるんだ……?)


 まさかの第3の関門の存在に慄きつつも、少し呆れたように顔を崩す。

 おそらく彼(?)が私を拘束しようとしなかったのは、どうせ逃げたとしてもこの鉄門扉のところで往生するだろうと分かりきっていたからに違いない。


 そんな彼からすれば、随分とおとなしい様子を見せる私はどう見えるのだろうか?


(……ま、関係ないけど)


 そんなことを知ったところで、私が自力で脱出を試みようとしているこの決意は揺らがない。

 揺らぐ可能性があるなら知りたいのかと聞かれれば別にそうでもないが……。


 ニワトリはそんな私に向き直ると、懐からキャンディを取り出して、私に突きつけてきた。


「何それ?」


 一見すると、ただの飴玉にしか見えない。

 緑色の、おはじきくらいの大きさのキャンディだ。


(ていうか、手は普通に人間の手なんだな)


 顔がニワトリだから、てっきり手もニワトリの足か羽みたいな形してると思ってた。


 閑話休題。


 私は、怪訝に眉をひそめながらニワトリに尋ねると、彼はギョロリと出目金の様な瞳で私を見下ろしながら、とんでもないことを口にした。


「今まで伝えていなかっが、その首輪は継続的に人体に微量の毒を流し込む魔法が掛けられている。

 これはその解毒剤だ」


「毒!?」


 しかも、継続的に……って事は、解毒剤はその場しのぎの対策にしかならない上、もし仮にこのまま脱出に成功したとしても、この首輪が外れない限り確実に死んでしまうってことじゃねぇか!?


 私は、告げられた言葉のあまりの恐ろしさに、戦慄を覚えた。


(あっぶねぇ……。

 もしあそこで暴れて脱走なんかしてたら、危うくお陀仏になるところだった……)


 私は背中を伝う冷や汗を感じながら、ニワトリから飴玉を受け取って口に含んだ。


「……ちなみに聞くけど、この解毒剤を舐めなかったら、どれくらいで致死量になるんだ?」


「3日だ。

 ただし、1日に最低1回投与しないと解毒が間に合わないから注意することだな」


 ほぼゲームオーバーじゃねぇか……。


 もし仮にここから脱出できたとしても、この首輪を外す方法がわからない。

 牢の中に閉じ込められていた時にいろいろいじっては見たが、鍵穴すら見つからないのだ。

 もし生き延びて街に戻ったとしても、そんな首枷を外せる人を1日のうちに見つけ出すことなんてほぼ不可能。


 解毒関連の魔法さえ修得していれば話は違ったかもしれないが、私はそもそも魔法の使い方がわからないから無い物ねだりもいいところだろう。


 ……枷の外し方を知っている人物がいるとすれば、おそらくこのテロ組織の組員……しかも限られた人間だろうな。


 ……詰んだ。

 完全に詰んだぞ、これ……。


 私の願望の異世界ライフ、まさかの奴隷エンドとは……。


 ニワトリはそんな私の絶望具合を確かめるように瞼を半分閉じると、鉄扉に向かって懐から鍵束を取り出した。


「安心しろ。

 言うことさえ従順に聞いていれば、毎日解毒剤を持ってきてやる」


 私はその言葉を聞くと、悔しさにギリリと奥歯を噛み締めた。


 口に含んだ飴玉は、抹茶とコーヒーを足して2で割ったみたいな味がした。


 第3の関門となる予定だった鉄門扉が、ニワトリの持っていた鍵束の鍵で押し開けられると、そこは少し小さめの個室だった。


 ベッドの布団は捲れ上がり、本棚からは本が散乱していて、床には丸めた植物紙が散らかっている。

 近くの机の上には紙束やインク壺、それにペンまで転がっていることから、かなり生活感がある空気が漂っていた。


 もしかしなくても、こいつの居室……ってわけじゃないよな?

 もしそうだとしたら、結構気持ち悪いんだけど。


 私はそんな部屋の様子を見て、顔を歪めて後ろ足を引いた。


 ニワトリ男はそんな私を気にも留めずに、ツカツカと部屋の扉を開けて外に出た。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 部屋を出た後、私は彼にある部屋へと連れてこさせられていた。


 複数の小瓶が敷き詰められた薬品棚に、正方形の引き出しがいくつもついた桐箪笥の様な棚。

 他には手術台のようなベッドに、大きな照明器具、机、本など、いろいろなものが散在している。


 手術台のようなものには、海老茶色のシミがところどころ付着していたりするところが、どこかマッドサイエンティストの実験室的な雰囲気を醸し出すのを手伝っていた。


 ……コイツら、一体私に何をする気なんだ?


 そう怪訝に思っていると、部屋の奥の扉から、1人分の人影が姿を表した。


 合わせて、ニワトリ男が彼に短く報告を済ませる。


「お待たせしました、アインズバーグ博士」


 アインズバーグ博士と呼ばれた人物は、その声を聞くなり机に紙束をドサリと置くと、奥の壁に掛かっていた黒板をカーテンで隠しながら私に話しかけてきた。


「意識のあるうちに再開するのは2年ぶりだな、ギンコ。

 今まで元気だったか?」


 博士が言って、近くの椅子に腰を掛けた。

 白衣の襟元から覗くそのネコ科の黄色い毛並みと顔には、どこか見覚えがある気がした。


 いや、そもそも獣の顔の違いなんて、私にはわからない。

 きっと街中で同じようなジャガーの獣人を目にしたのだろう。


 ……それにしてもおかしな表現の仕方の挨拶をする獣人だ。

 私はそんな彼の言い方に怪訝なものを感じて、眉をひそめる。


 すると、その直後だった。

 ザーッ、とテレビの砂嵐の様な音と共に、ボヤケた映像が頭の中を過っていった。


 その映像の中の彼は、何か喋っていたみたいだが声は聞こえては来なかった。

 ただ、代わりにわかったことがあるとすれば、その映像の中のジャガーは、今目の前にいるジャガーよりも少しだけ若く見えるといったところだろうか?


 デジャヴ……?


 一瞬、そう考えてみたが多分違うだろうと考え直す。


 彼のセリフや、この世界での私の記憶が、つい最近以降全く残っていないことを鑑みると、どうやらあの景色は忘れてしまった過去の記憶の一片だと考えた方がしっくりとくる。


「……誰?」


 たまらなくなって、私は博士にそう尋ねた。


 彼が誰で、記憶のない私の体に一体何をしていたのか。

 最初に誘拐したあの3人が私を被験体とよんでいたくらいだ。

 きっと道徳的に問題のあることをしていたに違いないことを予想することは難くなかった。


「ふむ、どうやら記憶をなくしているみたいだ。

 まぁいい、すぐに思い出す。

 ヴィスマルク、アルカナ盤を持ってきたまえ」


 何が面白いのか。

 ジャガーの獣人はニヤリと口角を吊り上げながら、ニワトリの獣人(ヴィスマルクというらしい)に命じた。


「ああ、懐かしい。

 我はこれで一体、何人もの人族の概念格を弄ったことか……。

 あの感触が、手に戻ってくるようだ」


(概念格を弄る……?)


 言いながら、私の目の前まで近づくアインズバーグ。


 近くで見ると、結構身長が高い。

 たぶん、2、3メートルくらいあるんじゃないだろうか?


 私は下から彼を見上げて、睨みつける。


「……私に何をするつもり?」


 先程、彼は『人族の概念格を弄った』と言っていた。

 錬金術の教科書で見たが、概念格とはその物体の持つあらゆる性質が記録されている、いわば魂のようなものと書かれていた。


 正確にはどういうものなのかはよくわからないが、それが魂に近い存在であり、錬金術において魔道具を作る際にはその概念格を弄るらしいと書いていたことから、おそらくコイツは私のことを人型の魔道具として改造したいのではないかと推測できる。


「おとなしく従えば、解毒剤をやろう」


 そんなことを、わざわざ私に答えるはずがない。

 アインズバーグはそうはぐらかすと、問答無用とばかりに私の腕を引っ張って、手術台に押し倒した。


「レイプでもする気なの?」


「生憎、子供には興味無いんでな」


 皮肉っぽく言ってみたが、ジャガーは顔色一つ変えることはしない。


 ……これは、もう無理だな。

 解毒剤を握られている以上、反抗するのは不可能だろう。


 そう諦めて、私は顔を黒板のあった方へと背けた。


 その時だった。

 私の頭の中に、傑作とも言えるアイデアが浮かび上がってきた。


 ……これなら、うまくすれば脱出も首輪の毒も対策できるかもしれない!


 私は閉じられたカーテンの奥を見据えながら、これから起こす逆転劇のシナリオを急いで組み立てるのだった。

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