俺、パスタになる。
どうも。
そういえばまだ自己紹介してなかったんで、ここでやらせてもらいます。
俺の名前は……あれ?
「……俺、名前なんだっけ?」
……んん?
……んんん!?
あれ、なんで!?
俺の名前……!
名前は……えーっと……!?
……や、やばい。
俺、自分の名前忘れちゃったんだけど……。
「え、なんで!?
どうして!?
いつ!?
いつから俺自分の名前わかんなくなってたの!?」
自然のまま残された森の中。
ふと、俺は唐突に自分が記憶喪失になっていることに気がついた。
びっくりしすぎて混乱が酷かったので、そんな状況は約二分くらい続いた。
「お、おおおちちゅけ……落ち着くんだ俺……!
年齢は?17歳だ。
性別は?いま女だけど転生前は男だ。
血液型は?……わからん。
誕生日は?……あれ、俺いつ誕生日だっけ……?」
……ヤバイ。
自分に関して覚えていることが、直近の前世の記憶と自分の年齢と性別くらいだわ……。
「何これコワいんだけど。
超怖いんだけどほんとワロエナイからヤメてハハハハハ……」
さっきのTS事件で一生分の驚きをしたと思ったのに……。
何だこの不意打ち。
……これ、発狂するまで絶対時間かからないぞ。
「はぁ……。
しょうがねぇ、適当に自分で自分に名前つけとくか……。
とりあえず友人の名前を借りるとして、これからは伊藤と名乗ろう」
苗字だけは思い出せたが、名前が思い出せないので、とりあえず伊藤(仮)としておこう。
うん。
下手に名前つけて中二病全開とかになったら恥ずかしいしな。
我が名はダークフレイムマスター!とか、ダサすぎるにも程がある。
俺はそう諦めると、再び歩みを進めた。
「っていうか、これ方向あってんのか?
さっきからずっと同じところグルグルしてるようにしか見えないんだけど」
富士の樹海とか行ったことないけど、迷ったらこんな感じになるのかね?
そんな感想を抱いていると、ふと、木々の切れ間に小さな集落っぽいものが見えた。
「お?
こんなところに村か?」
何だろう?
時代設定的には中世ヨーロッパ辺りを想像してたんだが、もしや古代……だったりしないよな?
そんなことを考えながら、俺は木の影からチラッと集落を覗き込んだ。
「ギギッ」
「ギギギッ!」
すると、そこには数匹のゴブリンが闊歩しているのが見えた。
(うっわ、気持ち悪いな……これ……)
深緑色をした、鷲鼻の小人が、ギギッとかいう話し声なのか鳴き声なのかよくわからない言葉?で喋っている。
なんだろう、生理的にちょっと受け付けない感じがある。
よく見ると、それぞれ着ている服が違う。
新品っぽい服装のやつもいれば、今俺が着てるのよりボロいやつとか、もしくは服すら着ていない個体までいた。
うーむ。
予想はしていたが、こんな近くに巣があるとは思わなかった……。
「ここは引き返して、また別の道を行くかな……ん?」
と、そんな風にUターンしようと振り返った時だった。
黄色い目をギラギラ光らせたゴブリンが一匹、こちらに向かって棍棒を振り上げているのが見えた。
「うわっ!?」
――ブォッ!
振り下ろされた棒切れを何とか回避することに成功する俺。
「あっぶねぇ……」
まさかコイツ、初めにあったゴブリンの仲間か!?
俺はバックステップを踏んで距離を取ると、アクション映画見様見真似の構えをとって相対する。
すると、ヤツはニヤリと大きな口を横に引き伸ばすと、大きく息を吸って空を仰いだ。
「キーキー!」
「うるさっ!?」
やべえ、鼓膜敗れるかと思った!?
俺は反射的に耳を両手で庇うと、キーキーと煩く鳴き叫ぶゴブリンを睨みつけた。
と、その直後だった。
「ッ!?」
嫌な予感を覚えた俺は、全力で横へとステップを踏んだ。
視界脇に、赤く光る棍棒がちらりと映る。
――ゴボォッ!
「っとぉ!?
あぶねぇじゃねぇかこのやろう!?」
あっぶねぇ……。
あのまま回避が遅れてたら、危うくお陀仏だったぜ……。
俺は、さっきいた場所に空いた大穴に内心焦りながら、後ろから襲いかかってきたゴブリンに罵声を浴びせる。
(最初のゴブリンが使ってたスキルより威力がでけぇ。
きっと上位互換か、それともスキルレベルが違うかのどっちかだな)
さらっとそんな推測を立てながら、俺は二体のゴブリンを見張る。
……いや、さっきの様子から推察するに、このゴブリン。
あの集落から飛び出してきたやつだ。
だとしたらまだまだいるってわけかよ畜生……!
「なんだよこれ!?
俺今日運悪すぎだろ!?」
俺は無造作に飛びかかってくるゴブリンを躱しながら、何とか反撃できないかと模索する。
1対2じゃ分が悪すぎる……!
それに、村からのゴブリンがまだ追加される可能性だってある。
畜生、逃げるしかねぇじゃねぇか!
気がつけばゴブの数が3体、4体と増えていることに恐怖を感じながら、俺は森の中を走り続けた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。
ま、撒いたか……」
どれだけ走り続けたのか。
息が切れ始めていた俺は、手の甲で汗を拭うと、後ろを振り返った。
……居ない。
どうやら逃げ切ったみたいだ。
俺は安心した様に息をつくと、両膝に手をついて体力の回復を待った。
――ぽつ。
ふと、頭の上に水滴が落ちる。
「うおっ!?」
唐突のことにドキリと心臓を跳ねさせながら、その場で飛び上がる。
――ぽつぽつ。
再び、肩や腕に水滴の伝う感覚がして、俺は眉を怪訝にひそめて、上を向いた。
気がつけば空には雲が掛かっている。
「あ。これ雨か」
やば、どっか雨宿りできるところは……。
俺はくるりと周囲を見渡してみる。
すると、ここからほど近いところにちょうどいい大きさの洞窟があった。
「お、ラッキー!
俺ってついてるぅ〜♪」
洞窟を見つけた俺は、本降りになる前にと急いで洞窟まで駆け寄った。
「ふぅ……。
にしても、雨かぁ。
止むまでここで待機しなきゃだなぁ」
雨の湿気を吸って重くなる銀髪をいじりながら、俺は段々と勢いを増していく雨を眺める。
さて……。
雨が降り止むまで、どうやって時間を潰すか……。
俺はその場に座り込むと、う〜んと唸った。
「……それにしても、異世界……かぁ」
ゴブリンの存在を見て、とりあえずここが地球じゃないっぽいってことはとりあえずわかった。
とりあえず受け入れたとして、これからどうするか……。
「……」
異世界……っつうと、やっぱり冒険者とか居んのかな?
魔物もいたわけだし、きっと冒険者だっているでしょ。
まあ今のところ、魔物っつってもゴブリンしか見てないわけだが。
「あー、暇〜」
俺はそうつぶやくと、ごろりと岩の地面に寝転がった。
ゴツゴツとした岩肌が少女の柔肌に痛い。
「……ん?」
その時だった。
ふと、何となしに洞窟の奥へと目を向けた俺の視線の先に、何か光るものが山になっているのが見えた。
「なんだ、あれ?」
特にやることもなく暇だった俺は、気になったのでその光る山に近づいてみることにした。
すると、そこにはいくつかの木箱と布袋、そこからこぼれだした金貨や銀貨、銅貨と思しきものが転がっていた。
「おお……!」
思わず、歓声が漏れる。
袋の一つに近づいてみると、今着ているものよりも格段にキレイな服があった。
「お、やった。
俺ってついてるぅ〜♪」
俺は今着ているボロボロの服を脱ぎ捨てると、そこにあった衣服を身につけることにした。
「んー、でも下着が無いってのはちょっとなぁ……」
幸い、あった下衣はズボンだったのでノーパンでも多分バレないだろうけど、ちょっと心もとない。
生地のせいか、ちょっとスースーするし。
「といっても、それもさっきと同じなわけだけど」
自分の運の良さに感謝しながら、他にもなにかないかと財宝を物色する。
すると、ふと一つのポーチに目が止まった。
「?」
黒い布でできたポーチで、赤い色でパイピングが施されている。
それ以外には模様も何も描かれていない、至ってシンプルな作りの鞄だ。
何となくそれが気になった俺は、そのカバンの肩紐を掴んで、自分の方に取り寄せた。
「軽い……。
もしかして何も入ってなかったりするのか?」
好奇心を抑えきれない俺は、木製のボタンを外して、ポーチの中身を確認した。
「うおっ!?」
真っ暗で底の見えない鞄の中を覗くと、突然頭の中に何かおかしな感覚がして、頭の中に表のようなものが現れた。
「な、何これ……?」
表の中には、いくつかのアイテムが表示され、その欄外には『所持金』と書かれた欄が付け加えられている。
因みに、その所持金のところには『1,000,000G』と表示されていた。
……あ、わかった。
これあれだ。
ゲームとかでよくあるアイテムボックスってやつだ。
アイテムが容積を無視して大量にあ入っていくっていう、定番のマジックアイテム。
「……これ、取ったら誰かに怒られたりしないかな……?」
うーん。
どうだろう?
「まぁ、ちょっと見るくらいなら大丈夫だろ」
俺はそんな軽い気持ちで、表の中を確認していく。
見つかったのは、業物っぽい剣とか槍、斧、弓……えっと、これはアクセサリか?
指輪とかイアリング、ピアス、髪留め……。
たぶん、これのもとの所有者は女性なんだろう。
鞄の奥の方を確認してみると、女物のパンツやブラまで入ってた。
「……今の俺には、サイズが合わないなあ」
出来心で一回取り出してみたけど、ちょっと俺にはサイズが合わなさそうだ。
どうやらもとの所有者は巨乳だったらしい。
「はぁ……。
ちょっと虚しくなってきた」
何で俺の体はこんな子供なんだろう?
どうせならもっとナイスバディにしてほしかったぜ……。
「……でも、何でこんなものがこんな洞窟なんかに?」
……ハッ!
もしや遺産が誰かに渡ることを拒絶して、財宝を隠して死んだ富豪の埋蔵金!?
「ぐへへ〜、だったら遠慮なく貰っちゃいますかぁ」
俺はふんすと鼻息を荒くすると、その場にあったものを纏めて全部このアイテムポーチの中に放り込んだ。
あ、でも護身用の為にナイフだけは一本装備したままにしておいた。
「よしっ、これで完璧!」
俺はそう独り言を言うと、洞窟の外に出た。
どうやら雨はいつの間にか止んでしまっていたらしい。
「ふっふーん!
俺、今日は超ついてるぜ!」
雨上がりのしっとりとした空気の中。
俺は空を見上げてそう叫ぶと、再び森の外を目指して歩き始めるのだった。




