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私、熱中症になる。

 どうも。

 この世界の人たちの体力がバケモノすぎて、もしかしなくても私ってこの世界で今最弱なんじゃないかと思えて仕方がないイトーです。


 なぁ、普通は転生者の方がチートなんだよな?

 なんで現地人の方がチートレベル高いの?

 意味わかんないんだけど。


 ……やっぱり、生活環境がキモなのか?

 日本と生活環境が全く違うからなのか?


 いや、そもそもこの体はこの世界のもののはずだ。

 少なくとも前世の私の体とは全く別物なんだから、この世界で生まれたものだとしてもおかしくない。


 ……考えてもわかるわけ無いか。


 そもそも、この体がこの世界で生まれて、誰かのもとで育っていたなら、どうしてあんな森の中で裸になって寝転がっていたのか想像つかないしな。


 きっと神様か何かの仕業だろう。

 うん、面倒くさいからそういうことにしておこう。


 深く考えても利益はなさそうだと考えた私は、とりあえずその疑問を頭の片隅に寄せた。


 次の種目は50メートル走だ。

 50メートルくらいなら全力ダッシュしてもきっと問題ないだろう。

 だって、さっきは500メートルくらい走り続けてたし。


 めちゃくちゃ疲れたけど。

 疲れすぎて頭痛いけど。


 それはさておき、この50メートル走。


 みんなはお気づきだろうとは思うが、さっきのリンカーイラッシュでは1レーンが60メートルもあった。

 それをドレミファソラシド……とは呼び方が違ってたけど、そのたった8音が流れてくる間に走り抜けるのだが、カウントしてみたところ、その長さが約12秒ほどだった。


 60メートルを12秒で走り抜ける。

 まあ、それは日本の中学生でも、そこそこ足が速ければ可能な速さだ。


 だがしかし思い出してほしい。

 これはシャトルランのようなものなのだ。

 すなわち、時間が経つに連れて、音の流れるスピードも早くなっていく。


 つまり、何が言いたいかというとこの世界、実は体力のみならず足の速さまでもがみんな化物レベルということだ。


 いや、もしかしたら筋力強化の魔法を使ってブーストしているのかもしれないが、そんなことはもはや関係ないだろう。


 最初のは体力を温存するためにゆっくり走っていたことを加味すれば、もしかするとかのウサ○ン・ボ○ト以上の足を、この世界の子どもたちは備えているかもしれない。


 ……だめだ、体力が回復して頭が回るようになってくると、余計なことを考え始めてしまう。


 何なんだこの世界は。

 いや、ホント今更なんだけどさ。


「それでは、これから50メートル走を始めます。

 この種目では短距離での足の速さを測るものです」


 私達が会場に入ったところで、係員が説明を始める。


 計測にはどうやらまた魔道具を使うらしい。

 形状は完全にストップウォッチだった。


 ……どうしよっか。

 仮病でも使って保健室に行こっかな。


 なんか、もう体力測定とか馬鹿らしくなってきた。


 でもこれ、クラス分け用のテストなんだよなぁ。

 すっぽかしたらどうなるかわかんないし、受けるしかないかぁ。


「はぁ……」


 私はため息をつくと、係員の指示に従って列に並んだ。


 あー、頭クラクラする……。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「……また知らない天井だ」


 気がつくと、私はどこかに倒れていた。

 ……いや、どこかじゃないな。

 この包まれるような感触は……布団か。


 そして頭の上には、何やらひんやりと冷たい感触が乗っている。


「……なにこれ?」


 触ってみるとそれは濡れていて、目の前に持ち上げてかざしてみると、それは濡れた革袋だった。


 触った感覚では、中に何か石のようなものが入っているような気がする。


「中にあるのは氷か……。

 ということは氷嚢か?」


 と、その時だった。


「半分正解ですね、イトーさん」


 ガラガラ、という引き戸の音と共に、つい数時間前に聞いた記憶がある声が、私の鼓膜を震わせた。


「うおわっ!?」


 狙ったようなタイミングで話しかけられた私は、驚いて手に持っていた氷嚢をお手玉して床に落とした。


 氷嚢の口を縛っていた紐が緩んで、中から水と氷が転がり落ちる。


 布団に溢さなくてよかった……。

 もし布団の上に落としてたら惨事になっていたこと間違いなしだな。


 あー、なんか頭痛い……。


 私はほっと胸をなでおろすと、落とした氷だけでも拾おうと手を伸ばして、それがどうやら氷ではなかったことに気がついた。


「……なんで銅?」


 手を伸ばした先にあったのは、3センチ角程の赤銅色のキューブだった。


 よく見てみれば、何か彫ってある。

 マントラみたいな……けど、文字というよりは絵みたいだ。


「その方が氷よりもコストが安いからだよ」


 先程私に話しかけてきた人物が、私の代わりに銅のキューブを拾い上げながらそう答える。


「また会いましたね、イトーさん。

 お加減はいかがかな?」


 その人物は、少し長い前髪をした、銀髪の長身男性だった。


 この人は……たしかミネクラ先生、だっけ?

 日本人みたいな名前だなぁって思ったのを思い出した。


 私は、何故か先程からズキズキする頭を抑えながらベッドの上に座り直すと、眉をしかめながら状態を報告した。


「頭がズキズキします……。

 先生、私なんでこんなところにいるんですか?」


 私の記憶は、サエルミアと50メートル走のエリアで係員の説明を聞いていたところで途切れている。


 それに加え、リンカーイラッシュの頃からずっと感じていた頭痛。


 ……もしかして、熱中症か何かで倒れたのだろうか?


 外の気温は、日本の夏ほどの高さは無い。

 無いが、空気は乾いていてそれなりに暑い。

 たぶん、春と夏の間くらいだ。


「係員が種目について説明している途中に、急に倒れたんだよ。

 それで、近くにいた男子生徒があなたを担いで医務室まで連れてきてくれたんだ」


 やっぱり熱中症だったか。

 宿を出るときに貸してもらった水袋は鞄の中だし、そもそも鞄はロッカーの中だから今まで水分補給はしていなかった。


 んぅ。

 水筒、やっぱり持ち運べるように何か紐のついたものを買うかしないとだな。

 反省反省。


 それにしても――。


「……男子生徒ですか?

 女子生徒じゃなくて?」


 はて。

 近くにいた生徒といえば、一緒に隣で聞いていたサエルミアくらいしか思い出せないんだが。

 男子生徒なんて近くに居たか?


 私は怪訝に眉をひそめながらミネクラに聞き返すが、しかし彼は答えを変えなかった。


 んー。

 誰なんだろう、その男子生徒って。


 閑話休題。


 それから、私はもう体力的にこれ以上テストを受け続けるのは難しいという話になり、組分けテストは中断。

 また来週の放課後に、改めてテストを受けることになった。


 組分けテストなのに、クラスを決める前に受けないでも別に構わないのか、という話をミネクラ先生に聞いてみたところ、組分けとは称しているものの、実際には現時点での実力を把握して、年ごとの成長率を調べるためだからということで、絶対に今日受けきらなくてもいいとのことだった。


「そもそも入学式にするのは、クラス内で実力差をつけることで、まずは自分個人の実力を高めさせたり、自分が何に向いているのかを自覚させる為ですからね」


 うん。

 そういえばそんな感じのこと入学前のパンフに書いてあったな。


 というわけで、今日はテスト終了時間まで医務室で待機する事になった。


 待機中は暇だということを伝えると、暇つぶし用として本を貸してくれた。

 ちなみに錬金術の入門書だったりする。


「えーっと、なになに?

 『これで君も錬金術師!猿でもわかる入門書第1巻』……」


 ……うん、わかりやすいのはいいけど、バカにしすぎじゃねぇかこれ?


 まあ、錬金術についてなんて前世の記憶じゃあ4大元素とか、カバラ数秘術とかそんなのしか知らないし、あとは暇なときに読んだ教科書の内容程度くらいだけど。


 試しに表紙を捲ってみる。


「ふむふむなるほどなるほど……」


 要約すると、次のようなことが書かれていた。


 まず、この世界における錬金術には3種類がある。

 1つは、気素と呼ばれる物質が持つ性質を組み替えることで、望む性質をもつアイテムを作成すること。

 もう1つは、物体のもつ『概念格』とよばれるものに魔法で干渉して、そのアイテムに魔法やスキルを付与すること。

 そして最後が、一言で行ってしまえば科学実験みたいな感じのこと。


 この本では、どうやらそれらを簡単にサラッと説明してくれているらしい。


 相変わらず私の知らない言語でそんなことが書かれてた。

 なんで私、知らない文字なのに読めるんだろ?


「うん。

 これ、教科書と内容がほぼ一緒だな」


 テストが終わるまで暇だからっていう理由で本を貸してもらったはいいが、正直読む気にはならんな。

 どっちかって言うと魔法関連の方が読みたかった。


 私は、まだ数ページしか読んでいない本をパタリと閉じると、机の上に戻してベッドの上に腰掛けた。


 ――ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……。


 丁度、4時の鐘が医務室に届く。


 ……暇だ。

 まだ頭痛は取れないから医務室でゆっくりしているつもりだが、暇過ぎて逆に疲れてきた。


「……こういうとき、前世の私なら何してたんだろ」


 覚えている前世の最後の記憶は、東京で友人と待ち合わせていたところをトラックに轢かれるところだけだ。

 異様に暑い日で、汗を流しながら人混みの中を歩いていたことを覚えている。


 ……そういえば、あそこにあんなに人がいたんだ。

 何人の死傷者が出たんだろう?

 結構な人数が横断歩道を渡っていたのを見た記憶がある。

 そこにトラックが飛んできた(・・・・・)んだ、きっとそれなりに死人が出たに違いない。


「暇だ……」


 そりゃ、熱中症で倒れたんだからしばらく安静にっていうのもわかるけどさ。


 ……なんか、別の本がないか探してみようか。


 私はベッドから起き上がると、医務室の中を歩き回り始めた。


 医務室は奥行き60〜70メートルほどの長方形の形をしていて、横並びに衝立を挟んでズラリとベッドが並んでいる。


 そしてその衝立の間に挟まれた小部屋には、ベッドとチェストが1台ずつて、それ以外は何もない。


 ハリ○タの医務室を思い浮かべてくれればだいたいあってる。

 まあ、壁も天井も真っ白って違いはあるけど。


 照明は天井に下げられた蛍光灯みたいな形のランプが果たしていた。

 天井の高さはだいたい4、5メートルほど。


 窓は反対側の壁についている。

 ガラスじゃなくて窓は木製。

 風通しを良くするために、すべての窓は内側に開いている。


 窓の外からは中庭が見え、真ん中に噴水のある広場があった。

 広場は渡り廊下や校舎で囲われていて、向かいの校舎側には花壇がみえた。


 ……あ、こっち側にも花壇あったわ。


 花壇には赤い百合みたいな花が花壇に植えられていたりしている。

 ほかはチューリップと薔薇を足して2で割ったみたいな花とか、鳳仙花っぽいのとか、マリーゴールドっぽいのとかいろいろ。


 どれも、前の世界の知識にはない植物だ。 


「……何ていう花なんだろ?」


 鑑定とかできんのかな?

 武器専用の鑑定スキルなら持ってるけど。


 ぬぅ、悔しいなぁ。

 こういう時とかさ、ゲームでよくある『調べる』のコマンドとかあったら便利なのに。


「植物図鑑みたいなの置いてないかな」


 私は窓辺から離れると、医務室の戸棚の中をあさり始めた。

 ……といっても、今の私は背が低い。

 内容を把握するためには、扉を開いて数歩ほど後ろに下がるを繰り返さなければならなかった。


 あー、めんどくせぇ。

 もっと身長高くならないかなぁ。


 こう、大人になったらさ。

 高身長でスレンダーで、クールな感じのかっこいい美人になりたいよな。


 ……え?

 巨乳?

 要らねぇよ。

 聞く話によると、めっちゃ肩凝るらしいじゃん?

 あと重いみたいだし。


 だったら無いほうが楽かなぁって。


 ……そういえばいつだったか。

 スリーサイズを測ってもらったとき、私ってこの年にしては結構なナイスバディだって言われた記憶があるなぁ。


 まあ、確かに胸はそこそこのサイズはあると思うけど。


 閑話休題。


 しばらく棚の中を探していると、本が数冊入っている棚を見つけた。


「お、あった」


 えーっと『薬品管理法』……それから『調合の手引き』に『薬用鉱石辞典』『鉱石調合の手引き』と……『薬草辞典』これだ。


 私は、目的の本を引き抜くと、棚の扉を閉めて本を窓際まで持っていくことにした。


 窓際まで椅子を引きずっていき、その上に膝立ちして窓枠を机代わりにして本を開く。


 最初のページは目次だった。

 どうやらアルファベット順――といっても、この世界には前世のようなアルファベットは無いので異世界の文字順だが――に植物(薬草)の名前が連ねられているらしい。


「ふむぅ……。

 量多すぎだろ」


 ページ数もそれなりにあって結構重い。

 触った感じだと紙は植物紙で軽いけど、やっぱり重いことには違わない。


 多分、2、3キロくらいはある。


「仕方ない、1ページずつ見ていくか」


 調べたい花の名前がわからないんだし、仕方ない。


 私は目次を読み飛ばすと、最初の項目を閲覧した。

 どうやら図鑑のように、絵と説明が細かく書いてある作りのようだ。

 2ページに渡ってびっしりと文字が敷き詰められている。


 これならすぐに見つかりそうだな。


 私はパラパラとページを捲りながら、望む植物が書かれているページを探した。


 思ってたより楽しかった。

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