私、ムキになる。
どうも。
サエルミアとの勝負を忘れていたらめちゃくちゃ怒られて、代わりに次のテスト項目であるリンカーイラッシュで勝負をすることになったイトーです。
……そういえば、リンカーイラッシュって何するんだろう?
ラッシュ……ってrushだよな、たぶん?
ラッシュ……突撃……殺到……急ぐ……?
リンカーイの突撃?
ちょっと意味わかんないな。
(一体、何するんだろう?)
ホントに、この『リンカーイ式身体能力テスト』を受けていると、このリンカーイって人、実は地球からの異邦人なのではないかと思えてくる。
『はじまりの街』のあの文句。
それに、リンカーイとかいうふざけた名前。
そして、この『リンカーイ式身体能力テスト』の種目。
これだけでは確信にかける気がするが、何となくそんな気がしてならない。
(考えるのはまた今度だな)
考えたって答えは出ないんだ、諦めよう。
閑話休題。
私はサエルミアとともに、次の会場に向かった。
場所は同じく第2体育館。
30人くらいかな。
だいたいそれくらいの人数が固まっていた。
「そういえば、リンカーイラッシュ?って何をするんだ?
名前だけじゃ何するかよくわかんないんだけど」
私は隣を歩くエメラルドグリーンのツインテ少女に尋ねた。
「そうね……。
簡単に言えば、全身の持久力を測るためのテストよ。
往復持久走って言えば伝わるかしら」
少女は得意げに腰に両手を当てて説明した。
(往復持久走……ってたしかシャトルランのことだよな?)
シャトルラン。
幅20メートルの距離を、ドレミファソラシドの音がなっている間に走り抜け、合図がなったら折り返してまた同じく走る。
まさに往復持久走の漢字名にふさわしい。
私はやったこと無いから(というか、した事があっても覚えてない)どれくらいキツイのかわからないけど、知識によればかなり地獄らしい。
まさか、よりによってシャトルランで勝負を挑んでくるとは……。
まさか、S属性まで持ち合わせているのだろうか?
最早この娘なに属性なのかよくわかんねぇな、最初遭ったときもそう思ったけど。
閑話休題。
やがて、2人はリンカーイラッシュのブースにやって来たところで、係員の説明が始まった。
「このテストでは、全身の総持久力を測ります」
係員はそう言うと、台車に乗せた機械を引っ張り出してきた。
「ルールは簡単です。
この魔道具から流れてくるCDEFGAHCのメロディが流れている間に、そこの60メートルのレーンを走ります」
え、60メートル!?
20じゃないの!?
なんで!?
こんなの、自慢じゃないけど私なら3、4回目くらいでバテる自信あるぞ!?
係員はそこで言葉を切ると、台車の上に置かれた機械(魔道具らしい)を操作して、実際にその音を聞かせてみせた。
――C〜D〜E〜F〜G〜A〜H〜C〜♪
……おおぉぅ。
結構早いな、これ……。
このペースで60メートルか。
(……無茶じゃね?)
私は、チラリとサエルミアの方を向いた。
「へぇ、最初は遅いのね。
てっきりはじめからもっと早いものと思っていたわ」
……どうやら、彼女の感覚ではこの感覚は遅いらしい。
ぬぅ〜。
私の知識にあるシャトルランより2.5倍くらい早い気がするんだが……。
駄目だ、サエルミアじゃ参考にならないな。
とりあえず他の人の様子も伺ってみる。
しかし――
「……」
――皆平然としていた。
あれぇ?
おかしいな、なんでこの人たちこれ聞いて平然としてんの?
もっと慌てようよ?
こんなスピードで60メートルを行ったり来たりするなんて、普通の体力じゃまず無理だぞ?
知識の中には、中学生くらいで50とかザラにいるっていうけど、それこれに当てはめても単純計算で12〜13くらいでしょ?
それに音の速さもちがうからさらに減るだろうし……。
(……あれ、ひょっとしてこれ、前世の人の体力とこっちの世界の体力って全然違うパターン?)
たしかに、江戸時代の日本人と同時期の西洋人(アメリカ人だっけ?)の体力は全然違うって話を聞いたことがある気がする(あ、いや覚えてるんじゃなくて知識として知ってるって話ね?)。
ほら、なんて言ったっけ。
ものすごい速さで街から街まで走って手紙を届ける職業があっただろ?
あれがいい比較例だ。
多分だけど、生活環境が違うから基礎体力が全然違うんだ。
……たぶん、3倍くらい。
おおぅ、そんなこと考えてたら急に戦慄が走ってきたぞ。
そうこう考えているうちに、異世界式シャトルラン、もといリンカーイラッシュの説明が終わった。
ルールは完全にシャトルランと同じだったし、テストを受ける分には問題ないだろう。
私は汗ばむ手を握り込むと、指示されたラインに並んだ。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「あなた、体力無さすぎじゃない?」
リンカーイラッシュ終了後。
私は体育館の壁にもたれ掛かりながら、未だ激しく上下する肩を慰めていた。
あー、心臓痛い……。
あれから頑張って走ってはみたけど、往復5.5周が限界だった。
……これでも結構頑張ったんだぞ?
お陰でテストが終わってしばらく経つのに、まだ早鐘みたいな鼓動が収まらないけど。
「そう言うサエルミアは、他のテスト結果はどうだったんだよ?」
体力のことは認めるけど、こいつ握力が俺の筋力強化時とほとんど一緒だったし、幅跳びとかは同じくらいなんじゃねぇのか?
(……まぁ、例えそうだったとしても、私の強化してない状態の倍くらいのスペックには変わらないんだけど)
すると、彼女はそれを聞かれて嬉しかったのか、腰に手を当てながら自信ありげにヒラリと記録用紙を見せびらかした。
「ふっふーん!
見て驚きなさい、これが私の結果よ!」
(やけに自信満々だな、こいつ……)
ずいぶんと自信に満ち溢れた顔のサエルミアから、その記録用紙を受け取ってみる。
が、そこに書かれていた記録は、私の目を見張るものだった。
えーっと、なになに?
握力が43キロ……え、43!?
思わず、記録用紙を2度見する。
(あれ、おかしいな。
私が最初に見たときは20キロくらいだったような気がするんだけど……?)
私は、眉をしかめながら彼女のドヤ顔を見上げた。
「ふふーん、どうかしら!」
「いや、どうかしらじゃねぇよ。
お前絶対強化魔法使っただろ」
「あらぁ、知らないの?
魔法の腕も実力のうちよ?」
くっそぉ〜!
こいつバカにしやがって!
にしても畜生!
あの魔法別に使うの隠さなくても良かったのかよ!
……いや、私の場合魔法を使ってるところ隠さないと、『え、嘘だろこいつ。魔法使ってもこんだけしか握力ないの?クソ弱ぇじゃん!』みたいに馬鹿にされそうだから隠すけど。
いやむしろ隠すしかないけど。
私は記録用紙を彼女に突き返すと、そろそろ鎮まり始めた心臓に手を当てながら、ゆっくりと立ち上がった。
「もう見なくてもいいのかしら?」
「いい」
こいつ、絶対私のこと馬鹿にしてる。
ちょっと身体能力が私より上だからって調子に乗りやがって。
私は半ばムキになりながら押し返すと、次の会場に向かった。
……次、50メートル走と100メートル走なんだけど、私体力もつかな?
ちなみにサエルミアの結果は57.5周。
平均結果は172周。
最高は224.5周でした。
……この世界、体力バカ多すぎねぇか?




