少女、お怒りになる。
どうも。
勝負は断ったはずなのに、なぜかサエルミアと組分けテストの成績で対決することになって困惑しているイトーです。
これはちゃんとしたテストなので、勝負とか関係なく全力を出すつもりだが。
にしても、どうして勝負を断ったはずなのに私が勝負を振ったみたいになっているんだ?
中学生相手に小学生が勝てるはずないのに。
はっきり言って、勝負の前から答えは見えていると思うんだけどなぁ。
そうこう考えているうちに、順番は巡って私の番になった。
どうやら隣に並んでいたサエルミアも、ちょうど順番が回ってきたみたいだ。
こちらを向いて、ニヤッと笑いながら握力計を手に取る。
私もそれに倣って机の上の握力計を持ち上げる。
「重っ!?」
想定していたよりずっと重かった。
これ何キロあるんだ?
私が握力計をとったことを確認すると、係の人が説明を始めた。
「では、握力計の使い方について説明します」
係の人が言うには、握力テストでは左右2回ずつ、合計4回計測して、1番握力の強かった数値を用紙に書き込むようだ。
知識の中にある普通のスポーツテストとルールは同じなんだな。
ちなみに書き込んだ用紙は最後に提出するらしい。
後で名前書いておこう。
というわけで、まずは右手の握力から測ることにする。
握りが私の手には少し大きかったので、ネジを回してサイズを調整し、トライする。
「ふん〜っ!」
あ、これ結構固いかも。
サエルミアがやっているのと同じように、体側にあわせて腕を伸ばし、力いっぱいハンドルを握り込む。
「右1回目、12キロ」
え、12キロ!?
うそ、20キロ行かなかったのか!?
この歳の平均握力なんてわからないけど、めちゃくちゃ握力が弱いことはわかった。
にしても、よくこんなので抜刀の練習したとき方な飛んでいかなかったな……。
ちらり、と横で踏ん張っていたサエルミアの方を見る。
気になる彼女の握力は――
「右1回目、21キロ」
ほぼ倍じゃねぇか。
勝てるわけねぇだろ。
あ、サエルミアと目があった。
クソ、こいつ鼻で笑いやがったぞ!?
そんな態度の彼女に少し苛ついた私は、一瞬だけ彼女のドヤ顔を睨みつけて握力計を左手に持ち替える。
「左1回目、11キロ」
ぬ〜ん。
やっぱり10キロ台かぁ。
対してサエルミアの方は20キロ台。
勝てる気がしない。
チラリ、とまたサエルミアの方を見る。
「左1回目、23キロ」
あ、またコイツ鼻で笑いやがった。
くそ、何だこいつイライラするなぁ。
こうなったら何が何でも絶対勝ってやる。
……でもどうやって?
筋肉に魔力を流し込めば、身体能力強化みたいに能力強化できるかな。
チラリ、と係の人の顔を見上げてみる。
係の人は早くしろと言わんばかりの表情だ。
ちょっと怖い。
バレたら怒られるかな?
いや、バレなきゃいいんだよ。
私には隠蔽スキルという超便利なスキルが味方についているんだ。
不正をスキルで隠蔽しちゃえばいい。
それに、これも実力の内といえば実力の内。
何もやましい事はしていない。
……よし、ものは試しだ。
やってみないとできるかなんてわからないしな。
というわけで、私は右手に握力計を持ち替えると、体内に流れる魔力に意識を集中した。
大丈夫。
魔力の使い方は、スキル判定紙を使ったときに習得している。
あの時は紙に魔力を流していたけど、今回は流さずに、筋肉の一本一本に浸透させるイメージで動かせばいいんだ。
――ズズ。
右手の中で、何かがうごめく感触。
それは手の筋肉の中に吸い込まれていき、徐々に肌の色が黒く染まっていく。
「!?」
うぇっ!?
肌の色が黒くなるなんて聞いてないぞ!?
陽炎のようにぼやける腕、その奥の黒く染まっていく手に瞠目する。
こんなの、一目でズルしたのわかっちゃうじゃん!?
いくら隠蔽スキルといえども、これ葉隠しきれないんじゃぁ……?
そんな心配をしながらも、さっきよりも軽くなった握力計を絞り切る私。
「右2回目、19キロ」
しかし、そんなことは露とも知らないとばかりに、淡々と計測結果を書き留める係員。
……もしや、バレてない?
恐る恐る係員を見上げる。
相変わらず怖い顔だ。
怖い顔だが、相変わらずなところを見ると気づいたわけではないらしい。
……これ、もしかしてイケる?
今度は左手に持ち替える。
同じように隠蔽スキルで隠しながら、こっそり魔力で左手の筋力を強化する。
「左2回目、18キロ」
どうやらバレていないみたいだ。
私はホッと胸をなでおろすと、係員から用紙を受け取って次のテストに向かった。
それにしても、魔力で筋力強化しても握力20キロまで行かなかったというのは、元男としてはかなりショックな結果だった。
まぁ、この体は幼いのだ。
いずれ訓練していけば握力くらい簡単に上がるだろう。
私は気楽にそうあたりをつけると、サエルミアと勝負していたことも忘れて次の列に並ぶのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
それからテストは立ち幅跳び、走り幅跳び、反復横飛び、上体起こしと来て、次は長座体前屈に移った。
局所的な筋力強化の魔法(?)がどうやらバレないらしいということがわかった私は、それからのテストも無論筋力を強化して望んだ。
しかし結果は、立ち幅跳びは150センチ、走り幅跳びは202センチ、反復横飛びは18回(体力が続かなかった)、上体起こしは12回(これも体力が続かなかった。お腹痛い)となった。
ぬう……。
筋力が強化されたとしても、それに見合う筋持久力がなければ十全に効力は発揮されないということか……。
もどかしい。
それはともかくとして。
「ふぅ……」
第二体育館。
フローリングの敷かれた床に、私は長座で腰を下ろす。
柔軟はあまり自信がない。
魔力で筋力をあげてもどうしようもないので、これだけは本当に私自身の能力だ。
「では、この台を手で前に押してください」
係員の言葉に従って、私は前屈を始める。
(あれ、あんまり痛くないかも)
ていうか、今初めて知ったけど私の体、自分でも気持ち悪いって思うくらい柔らかい。
みるみる間に台は前へ前へと押されていき、最終的に私の指が自分の爪先を捕まえられるところまで伸びた。
「はい、OKです」
メモリを見て、係員が用紙に書き込んだ。
転生してから今まで柔軟運動なんてしてこなかったけど、体が柔らかいってめちゃくちゃ気持ちいいな。
と、その時だった。
「ちょっとあなた!
何勝手に先に進んでるのよ!?」
「あ、サエルミア」
そこには、私に人差し指を向けて仁王立ちしている体操着姿のハーフエルフ美少女、もといサエルミアが立っていた。
少し息が上がっていて、顔も赤い。
どうやら私が先にテストを進めていたのに気がついて、急いで追いかけてきていたのだろう。
……なんだろ、この私にかける競争心の強さは。
私はそんな彼女の対抗意識(?)に少し怪訝なものを思いながら、彼女に言葉の意味を尋ねる。
「何が『あ、サエルミア』よ!?
あなた、私と勝負していたの忘れたわけじゃないわよね!?」
するとサエルミアは、先程の私のモノマネか、キョトンとした顔まで真似て先程のセリフを復唱し、また怒った調子で返答した。
この娘、いろいろ忙しい娘だなぁ。
コロコロ顔を変えたりして、疲れたりしないのだろうか?
……あ、疲れてるから息が上がってるのか。
「勝負……。
あぁ、そういえばそんなことしてたような……?」
身体能力強化の魔法の実験に夢中になってて、すっかり忘れていたや。
私は、そういえばそんなことしてたなぁと、うっすらそんな事を思い出しながらやはりキョトンと首を傾げた。
「……まぁいいわ」
サエルミアはそんな私に青筋を浮かべるが、どうやら怒りを抑えているのか拳をぎりぎり握って悔しそうにつぶやいた。
……うん。
なんか、ごめんな?
今ここで謝ったら逆に怒りを増幅させそうなので、とりあえず心の中で謝っておくことにする。
そんなことを考えていると、再び彼女はビシッと私に指を突きつけた。
「その代わり!
次のテスト――リンカーイラッシュで、私と勝負しなさい!」
それが、本日2度目になるサエルミアの宣戦布告だった。




