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少女、半ギレになる。


「我輩の名はスキンヘン・ハーゲン!

 この街――『はじまりの街』の冒険者育成学校の学校長、及び冒険者ギルド『はじまりの街』支部のサブマスターを務めている!

 諸君らとは度々顔を合わせるだろうから、顔と名前は覚えて帰ってほしい!」


 彼はそう、闘技場全体に響きわたる程の大声で、その場にいた全員の鼓膜を震わせた。


 ……うん。

 冒険者というよりは、基質はちょっと軍人寄りだな、この人。


 スキンヘン・ハーゲン。

 この学校のパンフレットにも名前が載っていた。

 そういえば街のパンフレットにも載っていた気がする。


 えーっと、紹介文はたしか……


『冒険者ギルド『はじまりの街』支部のサブマスター。

 愛と勇気を信条に、魔物を一撃で殴り倒す元Aランク冒険者』


 ……だったか?


 このことから、『閃光ワンパンのハーゲン』とかいうクソ恥ずかしい二つ名で呼ばれている……らしい。


 強い冒険者に二つ名はつきものだとはいえ、私はそんなダサい二つ名は欲しくないなぁって思ってたから覚えてたわ。


 ……にしても閃光て。


 あ、途中話し聞いてなかった。


 それにしてもこの人、随分と懐かしい感じがするんだよなぁ。

 昔どこかで会ってたような。


 今の見た目からは想像つかないけど、よく子供に好かれていたような記憶がある。


 ……なんだっけ?


「我輩、長話は嫌いな故、手短に話す!

 これより生徒諸君らには事前に聞かされている通り、組分けテストを受けてもらう!」


 ハーゲン校長はそう言いながら、赤いコートを翻す。

 黄色いバックルに茶色い革紐のベルトがコートの内側から覗き、コートが風にはためいている。


「うっ……」


 ズキリ、と頭が痛む。

 薄れた意識の片隅に、吹雪の中で誰かを見上げているような、そんなイメージが浮かんで――泡沫のように消えていった。


 ……何だったんだ、今のは?


 私は変な気分になりながらも、多分これが白昼夢とかいうものなのかもしれないと特に気を留めることもなく、校長の話に耳を傾けた。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 校長による組分けテストの説明の後。

 私はぞろぞろと動く生徒たちに混じって、行動を開始していた。


 冒険者育成学校恒例行事、組分けテスト。


 このテストでは、生徒の現在の身体能力、および魔法力を測り、学校生活でどの程度の成長が得られたかを測定するという役割も持つらしい。


 まあ、私も現状どのくらい力があるのか知っておきたかったし、これはこれで好都合だ。


 チートなんて全くない私だから、ちゃんと全力を出して頑張ることにしよう。


 ちなみにこのテストでは、全世界の冒険者ギルド共通で決められた測定法に則り測定するらしい。


 その名も『リンカーイ式身体能力テスト』。

 どうやらこの『はじまりの街』を興したというらしいアブラハム・リンカーイとやらが創設したのだとか。


 冒険者の資質を測るテストって言うことくらいしか知らないので、私はこのテストでどんなことをするのかはわからない。


 きっと冒険者用のテストっていうくらいなんだから、ライトノベルみたいにこう、的に向かって魔法を放つ!とか、木剣で模擬戦!とかかな?

 それともスライムとかそういう弱そうな魔物と実戦してみるとか!


 んー!

 どんなことするのかほんとにワクワクしてきたぁ!


 ……にしても、このアブラハム・リンカーイとかいう人。

 『はじまりの街』興したりとか、冒険者学校建てたりとかしてるけど、一体何者なんだろう?


(気になる……)


 閑話休題。


 というわけで第一種目目だ。

 気合を入れて頑張ろう。


 私は先生に誘導されて、木の机が並んでいるエリアに通された。

 机の上には、私の手の3倍ほどの大きさの機械が並べられている。


 なんだろう?

 あ、もしかしてアレか?

 体内の魔力量を測る機械とか!?


 そんな期待を込めて、私はキラキラした目でその機械を見つめた。


「えー、今からやってもらうのは握力テストです」


 ……あ、アレ握力計なんだ。


 なんだよ、私の期待キラキラ返せよ。


 私はあからさまにげんなりとした顔をすると、先生の指示に従って行動を開始する。


「あら、どなたかと思えば役立たずのイトーさんじゃない」


 と、近くの机に並んでいると、ふと隣の方から聞き覚えのある声があった。


「なんだ、誰かと思えばちょろインのサエルミアか」


そこに居たのは、エメラルドグリーンの髪を黒いリボンで2つに結っている、いつかのハーフエルフだった。


「なっ、誰がちょろインよっ!

 ……ていうか、ちょろインって何?」


 彼女はコロコロと表情を変えて、最終的には怪訝な顔を見せた。


 サエルミア。

 中学生くらいの背丈の少女で、光沢のあるエメラルドグリーンの髪をしている。

 初めてであったときの印象はチョロイン。

 詳しくは第10部の『私、囚人になる。』を参照。


 閑話休題。


「まあいいわ!

 そんなことよりイトー、私と組分けテストで勝負しなさい!」


 彼女は、そんなことはどうでもいいという風にブンブンと頭を振ると、ビシッと私に指を突き刺してきた。


「勝負?」


 何言ってるのこの娘?

 私より体が大きい、それも年上らしいサエルミアに、幼女でか弱な私が身体能力で勝てるはずないじゃないか。


 そもそも勝負にならない対決を、わざわざ挑む理由がわからない。


「そうよ!

 こう見えて私、負けず嫌いなの。

 それに、あなただけには負けたくないし」


 こう見えてって……。

 いや、見た目とか言動から多分そうなんだろうなとは思ってたけど。


 ニッ、と不敵に笑ってみせるサエルミア。

 口端から覗く八重歯が、可愛らしくアクセントになっている。


 ……うん。

 エルフというより、むしろ小悪魔ってイメージの方がしっくりくるな、この娘。

 ハーフエルフから小悪魔に転生すればいいんじゃないだろうか?


 それはともかくとして。


 私としても、負けると分かっている勝負を受けるつもりは毛頭ない。

 ここは大人しく諦めてもらう方針でいくとしよう。


 私は内心でため息をつき、仕方ないと言葉を紡いだ。


「勝負にならないから、そういうのやめた方が良いぞ?」


 はっきり言って、こういう争いごとは気力の無駄ってものだ。

 争う必要がないのに、どうして勝負しないといけないんだ。


 そう言ってやると、なぜかサエルミアはこめかみに青筋を浮かせて、グッと握りこぶしを固めた。


 な、なんだ?

 何か様子が変だぞ?


 私は、急に態度を豹変させたサエルミアに戦慄を覚えながら、一歩後ろに退く。


 すると、彼女は私の予想の裏側を行く反応をしてきた。

 

「……いいわよ、やってやるわよその勝負!

 受けて立つわ!」


 ……え、自分で申し出ておいてどうして私が勝負ふっかけたみたいになってるの?

 ねえ、どうしてなのコレ?


 こうして、半ば困惑状態に陥りながらも、成り行きでテスト勝負が行われることになった。


 正直に言うと面倒極まりないけど……。

 まあ、テストなんだから全力出すのは当たり前か。


 ……今日の私、不良に絡まれたりとかいろいろツイてないなぁ。


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